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11話

 



 ククリはライラの帰りを待っていた。


 森から帰ったのはお昼を少し過ぎたぐらいだった。

 用意していた昼ご飯が食べられていなかった為、お仕事が長引いているのかもしれないと思った。

 ライラは必ずククリの作ったご飯を食べる。だからもうすぐ帰ってくる筈なのだ。今から出て行って擦れ違うのも頂けない。取りあえずとククリは仕事服から普段着に着替え、荷物の最終確認をしながら待機していた。


「ったく、こんな時に何やってんだ… 早く帰ってこいっての」


 焦れるククリの心虚しく、時は無常に進み行き。

 おやつ時になってもライラは帰ってこなかった。


「…流石に遅過ぎる」


 不安が(つの)った。

 予知されていた時にはまだ二日あるのだが「過程は簡単に移ろう…」とキューラは言っていた。


 ──まさか、もう…?


 待っていても仕方がない。

 ククリは家を出て、ライラを探すことにする。


 道端で息子と歩いていたトマト農家のおじさんに聞く。


「ライラを見てないか?」


「ん? 見たのは今朝だけど、ライラちゃんなら畑の方に向かってたよ。村長の娘さんがそこで待ってるんだって」


「村長の娘さん… 分かった。ありがとう!」



 畑の近くで若い娘衆にて集まり、井戸端会議を開いていた村長の娘さんに聞く。


「ライラは来たか?」


「え、来ましたけど…」


「特に変わったことは無かったか?」


「えぇ、まあ…」


「なら次の仕事は何処だって言ってた?」


「それなら、広場で友達の所に行くって言ってましたよ」


「ありがとう! じゃあな、邪魔した! 」



 広場で鬼ごっこをしていた少女に聞く。


「ライラはここに来たか?」


「うん。来たよ〜 親に怒られてしょんぼりしてたのを治してもらった!」


「…そうか。何か変わった事はなかったか?」


「ん〜とね。感情の味のお菓子を作って欲しいってお願いしたよ! 私達で果物取ってくるから、其れでパーティーしようって」


「感情のお菓子…? パーティー…? 」


「うん!!」


「…まあ、仲良くしてくれてるなら良かった。

 次の仕事は何処に行くって言ってた?」


「えーっとね。鳥のおばちゃんだって言ってたよ!」


「ありがと、これからも仲良くしてくれよな」


「はーい!!」



 ククリはそれから、五人程に聞いて回った。

 そして辿り着いたのは大量の柿の木に囲われた大きく立派な二階建て。


「村長さんの家、か…」


 鴉が鳴きを喧しく、陽の光が橙色に染まり始めている。

 これで擦れ違い、ライラは家に帰ったと聞ければ其れでいい。だけど、違うのなら…


「村長さん、いますか?」


 やや緊張した面持ちで、ククリは戸を叩く。


 然し返事は聞こえてこなかった。


「…村長さーん?」


 暫く待ってみたけれど、返答はない。


「…」


 ちょうど何処かへ出掛けているのかもしれない。

 ライラはきっと、家に帰ってきているのだろう。


 そう、思おうとして振り返ると。


「うわぁ!?」


 村長さんがそこに居た。


「…ククリくん、どうしたのかね?」


 驚き仰け反り、地について見上げる村長さんの姿。

 左手には檜の杖、右手には黒い麻袋、格好は普段着とは異なって、しっかりとした生地の… まるで森に入る為の装備に似ていて。


「あはは、すみません… 村長さんに用事があったんですけど、居なかったもんで帰ろうかとしていたところです」


「そうかいそうかい。それなら丁度いいタイミングだったかね」


「そう、ですね…」


「所で、なんの用かね?」


 相も変わらず、覗く瞳に光はなかった。


「ライラを知りませんか? 此処に来ていると聞いたのですが」


「ライラちゃん? それなら家に帰ったのだと思っていたんだけどね」


「あ、そうなんですか? 」


「うむ。擦れ違いでもしたかね? 何やら駆け回っていたようだけど」


「あー、ライラが昼ご飯を食べていなかったので、てっきり…」


 口の滑ったククリ。

 村長さんは鋭い笑みを浮かべて、言及する。


「てっきり… なんだね?」


「いえ、何でもないです。それより、ライラが帰ったのは何時頃ですか?」


「そうだね。お昼過ぎだとは思うよ」


「お昼過ぎ、ですか…?」


 擦れ違ったにしては時間に齟齬(そご)がある。


 ──寄り道をしているのか?


「村長さん、ありがとうございます。一旦帰ってきみますね」


「うむ、気をつけるんだよ」


 朗らかな笑み。

 横を通り過ぎて、帰路につこうとした瞬間だった。

 村長さんの黒い麻袋に、澄んだ翠の繊維を見つけた。


「…村長さん、帰る前にひとつ聞いても良いですか?」


「どうしたのかね?」


「…さっきまで、何処に行ってました?」


「…」


 光のない瞳が此方を見詰めてくる。

 表情からは何も読み取れない。


 暫しの沈黙。

 村長さんは朗らかな笑みを浮かべて答えた。


「狩人さんの家だよ。大きな鹿が捕れたというからね。その解体に付き合っていたんだよ」


「…そうですか。今度こそ、行きますね」


「…ああ、またね。ククリくん」


 日が落ちて、真っ暗闇。


 帰った家に、ライラの姿はなかった。

 隅々まで探し、最後に入ったライラの自室。

 そこで一枚の手紙を見つけた。


『お兄ちゃんへ


 ボクは"マジョサマ"の"イケニエ"になります。

 お父さんとお母さんとおなじところにいってきます。

 そうしたら、みんなが"ヘイオン"で"シアワセ"になれるんだって。

 お兄ちゃんも、セイシンのビョウキにかからなくなるんだって。


 あとね。

 ボクはあっちでオトナになってマッテルから、こっちではホカの人とケッコンしてもダイジョウブだよ。

 リンゴタルトつくれなくてごめんね。

 オタンジョウビ、おめでとう!!


 ライラより』



 ククリは家を飛び出して、森を走る。


 その手に薬草や茸を集める道具も無ければ、その格好は森へ入るに適さない無防備な普段着で…


 予知の通りだった。

 向かう先は決まっている。

 父と母の死んだ場所、忌々しい魔女様の祭壇へ。


「くそ、くそ…!! 間に合ってくれ… お願いだから…!!」


 腹を開かれ、内蔵と血液の抜かれたライラの姿が頭を過ぎる。

 あの頃とは違い、医者として優秀になったククリでも、死んでしまっては治せない。


 小枝が頬を割いて、葉の群れがガサリと身体を汚す。

 木の根が足を取り、転けてぶつかっても止まらない。


 ライラの元へ。

 死なせない為に。


 ククリは走る。


 やがて祭壇が見えた。

 そこには村民の大人達が数人程で、何やら作業をしている。


「え、ククリくん!?」


「ちょっと、ここは祭りの為に立ち入り禁止で…!!」


「やべぇ、隠せ隠せ…!!」


 騒ぎ立てる大人達。

 ククリは「退け!!」と体当たりをかまし、瞬時にライラの姿が無いことを確認してから…


 二人組が隠そうとする目ぼしい通路を目掛けてひた走る。


「と、止めろ!」


「こっちは駄目だって!!」


 彼等の必死な静止を振り切り、何とか通路の中へ。


「…っ!?」


 そこは深い螺旋階段だった。


 飛び込むようにして入ったククリは勢いのまま、ゴロゴロと転がり落ちる。

 とっさに頭を庇うが、全身の至る所が打撲した。


「…ぐっ ぁ…」


 ドン、と壁にぶつかった。

 そこは最下層、上の方から大人達が騒ぐ声が聞こえる。


「…いか、ないと…」


 痛みも、霞かかった思考も、気にしてはいられない。

 奥を目指して、ただ進む。

 そこにライラがいるのだと、何故か分かる。

 父と母を見つけた時と同じ、何かに導かれているような感覚だった。


 そして辿り着く。

 底の見えない穴が此方を覗いていた。


「ライラ… 待ってろよ…」


 そこでククリはライラの夢を見た。




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