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第8話 『封印の間』

「なっ!!?」


 一瞬、私の最後の足掻きを見越して男が何らかの罠を仕掛けていたという可能性が脳裏に浮かぶが、焦ったような口調で「リナ! フェル!」と男が2人の女性に指示を送っている様子から、どうやらこれはどちらにとっても想定外の事態であることを察する。


(いったい何がどうなってるの!? ……体が、全然動かせない!!)


 私を中心に展開された直径2mほどの魔方陣から抜け出そうと足に力を入れてみるものの、まるで自身の体では無いかの如く全く動く気配が見えない。

 それどころか、私の意思とは関係なく勝手に動く体はあっさりと構えを解き、そのまま剣先を地面に突き立てるとまるで魔方陣の効力を底上げするかの如く勝手に私の魔力を地面の魔方陣へと送り始める。


(ああ…これ、マズいなぁ……。だんだん、意識が……)


 魔方陣から伸びる光で徐々に視界を奪われつつ、私の意識も急激な魔力消費に耐えられずにいつ途切れてもおかしくない状況まで陥っていた。

 幸い、魔方陣から溢れるエネルギーによって形成された力場によって男達も私に近づけないようだが、私が気を失ってしまえば引き続きこの魔方陣が発動し続ける保証などないわけで、下手をすると何の抵抗もできないまま気絶した私を男は難無く攫って行ってしまうのではないだろうか。


(ダ…メ。……なんとか、意識を…保たないと……)


 限界まで抗い続けるべく私は必死に意識を保ちながら、何とか私に近づこうと試行錯誤していた2人の女性がいつの間にか私から視線を外し、どこか別の場所に視線を向けているのに気づく。

 だが、私の視界をほとんど覆い尽くしてしまっている魔力光と朦朧とする意識でぼやける視界の影響で彼女たちが視線を向ける先に何があるのかを確認することはできず、少し離れた位置にいたはずの男の姿を確認することもできなかった。


(いったい…どういう、状況……なの? 私は、いったい……どう、なっちゃった…の?)


 どうにか状況を理解すべく必死に思考を巡らせるものの、急激に魔力が失われる反動で私の意識は捕まえようと闇がすぐ背後まで迫っている気配を感じていた。

 そして、とうとう私の視界を魔方陣から噴き出した魔力光が完全に覆い尽くした直後、光で染められていた私の意識は唐突に闇の中へと引きずり込まれるのだった。



――――――――――



 それからどれだけ気を失っていたのだろうか。

 頬に触れる硬い地面の感触を感じながら目を覚ました私は、魔力の枯渇による疲労と不調は感じるものの特に縛られたり魔力を封じられたりといった状態ではないことからどうやらまだあの男に捕らえられた、といった状態にはなっていいないらしいことを察しつつも状況を確認するために重い瞼を何とか持ち上げる。


「ここ…は?」


 ゆっくりと体を起こしながら周囲に視線を巡らせ、どうやら自分が石材で作られたどこかの神殿と思われる場所に移動していることに気付く。


(周りの感じから考えると、どこかのダンジョンに飛ばされた?)


 まるで闇夜の如く広がる空は、しかし本来あるはずの月が存在しないだけでなく夜空に輝いているはずの星の光とは若干異なる謎の光源により私が今いる大地を照らし出していた。

 そして、なぜか今私がいる場所から神殿へと向かって繋がる通路と神殿以外の大地はまるで存在していないかの如く不自然な闇で覆い隠されており、この空間が神殿を中心とした限られた範囲のみしか存在しない世界なのだと漠然と理解できた。


(魔装は……今の魔力でもギリギリ発動できるかもだけど、【スキル】の発動とかは無理だし、発動できてもまた魔力不足で倒れちゃうかも。……そうなると、魔力がある程度回復するまでここで休む? ……ううん、やっぱそれはなしかな。たぶん、気を失っている間に無事だったってことはここは安全なんだろうけど、何らかの要因で私がここに飛ばされて来たようにあの男がここまで追って来ないとも限らないから、できる限り早めに出口とかを見つけとかないなと。幸い、【おとり人形(デコイ)】の簡易呪符とかもいくつかストックがあるし、もし神殿内に危険な魔獣がウロウロしている状況だったらここに戻って大人しく魔力回復に専念する感じで良さそうだし)


 軽く思考を巡らせて今後の方針を決めた私は、目の前にそびえ立つ神殿に視線を向けながら少しでも得られる情報はないかと視線を巡らせる。


(装飾品の感じから、かなり古い時期に建築された神殿なのは間違いないんだけど……その割にはあんまり痛んでないし綺麗、かなぁ。まあ、ダンジョン内にある建造物って外の時間と隔絶されてるから何千年も一切劣化してない、って現象も珍しくないって教わったから、ここもそのパターンかな? それにしても……)


 再度全体を見渡すように視線を巡らせながら、私は不自然に湧き上がる懐かしさを感じながらもこの不可解な感情に眉をひそめる。


(間違いなく私はここに来るのは初めてなはずなのに、なぜか妙な懐かしさのようなものを感じるんだよねぇ。 それに、なぜかこの場が『封印の間』と呼ばれる施設であることも、そう警戒しなくても魔獣なんかも出てこない場所だって安心感もある……。もしかして、この場には立ち入った者にそう言った感情や思考を植え付ける特殊な効果がある、とか? ……でも、外部から私に干渉する魔力なんて一切感じないんだけどなぁ……。まあ、私が未熟だから感知できてないだけ、って可能性も捨てきれないから何とも断言しづらい所じゃあるんだけど……。まあ、どちらにせよここで立ち止まっていても事態は何も好転しないわけだし、今はとりあえず前に進むしかないよね)


 そう覚悟を決めた私は思い切って一歩を踏み出すと、目の前にそびえ立つ神殿へと向かって慎重に、しかし力強く歩みを進めていくのだった。

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