第5話 【スキル】の力
「【スキル】、開放!」
その掛け声と同時に私の体内から儀式に使用した魔力とは別に追加で魔力が徴収されるのを感じる。
そして次の瞬間、今まで抑制されていた幻影の騎士の力が一気に解放されると同時に騎士の持つ剣に紅蓮の業火が宿る。
「チッ、【スキル】持ちか! 厄介な」
謎の人物は忌々し気にそう呟きながら次の行動を起こそうと体を動かすが、それより先に私の方が次の行動に移る。
「【廃棄】!」
掛声と同時に残り4枚の内2枚、【魔力符】1(C1)と【魔術符】の【雷撃】(C3)を握りつぶすように掴むと、5つのマナが生成されて私の周りに浮かび上がる。
そしてすぐさま私は手札に残った2枚の内片方、【強化】(C3)の呪符を掴むとすぐさま術を発動すために必要な呪文を口にした。
「【解放】!」
直後、幻影の騎士が眩い魔力光に包まれ、次の瞬間にはその姿は謎の男の眼前へと迫っていた。
「なっ!!?」
意表を突かれた男は驚きの声を上げながらも騎士の一撃を防ごうと魔剣を持ち上げる。
しかし、男が騎士の一撃を受け止めようとした直後にまるで陽炎のように振り下ろされた剣の形がぶれ、次の瞬間無防備な男の体に横薙ぎに振るわれた騎士の一撃が直撃する。
そして次の瞬間、轟音と共に吹き飛ばされた男の体が後方の壁へと勢いよく叩きつけられたことによって巻き上がった粉塵によって男の姿は覆い隠されてしまった。
魔装は本来、どんな人物であろうと安定して魔獣相手に戦える力を得られるよう設計されてた物であるため、生まれ持った魔力量に応じたデッキコスト制限の差はあるものの本来は誰が扱おうと変わらない能力を発揮する。
しかし、当然ながら魔力という強大な力を扱う道具である以上、どうしても個人差が生じてしまう部分を完全に排除することはできなかったのだと私は魔工学の授業で教わっている。
そしてその最たる象徴と言われるのが【スキル】の存在だ。
【スキル】とは個人の素質によって魔装に宿る特殊な能力であり、私の持つ【制限解除】のスキルは本来儀式の制約により制限されている精霊や幻霊の力を瞬時に開放するというとても強力で珍しい能力を持っている。
ただ、開放できると言っても精霊や幻霊はこの世界とは異なる次元に存在する存在であるため術者の実力以上の影をこの世界に投影できない制約があり、それほど魔力の才能に恵まれているわけでは無い(それでも平均よりはやや上といったところだが)私ではその精霊や幻霊が持つ100%の力を引き出すことができない。(しかも【スキル】の発動にはそれなりに魔力を必要とするため、平均的な魔力量しか持たない私では1日に3度使うのがやっとといった程度であるため若干宝の持ち腐れ感が否めない。)
しかしそれでも本来なら段階を踏んで開放しなければ力を一気に解放できるのだから未知の相手に先制できる点で考えればかなり破格の性能といえるだろう。
(この一撃で終わってくれるといいんだけど……)
急激に魔力を失ったことで若干眩暈を感じながらも私は警戒を緩めずに巻き上がった粉塵の向こう側に視線を向ける。
すると案の定突風と共に粉塵が吹き飛ばされ、負った傷を癒すように全身に緑色の魔力光を纏いながら男が姿を現す。
(さっきのでこの程度のダメージってことは、この人の実力が私以上であるのは間違いない、かぁ。それに、あれは【自動治癒】の【スキル】っぽいし、少なくとも一つは【スキル】を所持しているのが確定したわけで、【魔闘士】なのに初動で手札を全て【破棄】して魔剣の能力を開放しないってことは、魔剣の性能に頼る必要がない別の【スキル】を持ってる可能性が高いってこと、だよね)
私は背筋に冷たい冷や汗が伝うのを感じながら、手札に残った【閃光】(C3)の呪符に視線を向ける。
(どれほど実力差があるか分からないけど、次に来る手札次第ではこれで相手の視界を奪って一気に逃げ切るしかない、かなぁ。……残り約40秒、どうにか持ちこたえるしかないよね!)
構えすら取らず、不気味なほど静かにこちらを見つめるまま動きを見せない男に私は鋭い視線を向けたまま、いざという時にすぐ動けるように念じることで幻影の騎士を近くまで呼び戻す。
そして数分にも感じる沈黙の後(本当は5秒ほどしか経っていないが)、先に動いたのは男の方だった。
「【スキル】、開放」
男の呟きと同時に男の手札が3枚増え、直後に「【廃棄】」の呟きと共に男の手札が4枚消費されて周囲に36個のマナが生成される。
(【強欲】のスキル!? それに、一気に36マナ生成されたってことは手札の内3枚が【魔力符】5だったとしても残りの一枚も【魔力符】3かコスト6以上の呪符だったということ! つまり、単純に考えてこの人のコアレベルは最低でも200以上の可能性が高い、ってこと!? それどころか、もしさっき【廃棄】した呪符に一枚も【魔力符】が含まれていないとすれば、コスト9以上の呪符ばかりだということで、そうなると現在の『トップリーグ』クラスと言われる400以上の可能性もある…ってこと、だよね)
【魔力符】とは名前の最後に0~5の数字が付く6種類が存在し、その効果は【廃棄】した際に数値、つまりはコストの2倍マナを生み出す(0は当然0だが5の場合は10このマナを生み出す)効果を持っている。
そのため高レベル帯で高コストの【魔術符】(魔術が封じられた呪符で同名は4枚までしか投入できず、発動するにはコストと同じ数のマナの消費が必要で【廃棄】するとコストと同数のマナを生成できる)で一撃必殺を狙う戦術を好んで使う術者などは発動に必要なマナを効率よく確保できるように大量の【魔力符】5を投入する傾向にある。
だが、そのような戦術を取っても手札事故を起こさず運用するには一般的にコアレベルが最低でも200は必要だと言われており、そのレベルになればおそらくどこの国でも上位クラスの実力者と認められるレベルなのだ。
(……これはちょっと…ううん、かなりマズい状態、だね)
先程から冷や汗が止まらない私は、この絶望的な状況を何とか脱するための糸口を見つけるべく必死に思考を回転させるのだった。