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第3話 『魔術師の絵札』

「——ふぅ。思ったよりも時間かかっちゃったなぁ」


 休憩をはさみながら2時間ほど歩いたところでようやく私は目的地であるライゼンハルトの渓谷近辺まで辿り着く。

 まあ、今歩いてきたルートは観光バスなどは出ていないもののこの付近は旧都近辺でも有名な観光地となるためある程度道も舗装されており、軍による定期的な巡回もあっているので魔獣と遭遇することはほとんどない。

 ただ、できる限り魔獣との戦闘でコアレベルを上げるための経験値を稼いでおきたい私にとってはこの平和なハイキングの時間はちょっとしたタイムロスとなってしまうのだが。


(ええと……今回の依頼で調査するのは、ライゼル大橋の脇から川の方に降りた先にあるルートかぁ。そうなると……あそこの案内所で話を聞けば観光ルートの外側に出るための場所を教えてもらえるのかな?)


 ハミルで依頼内容を再度確認しながらそう判断を下した私は、とりあえず関係者から話を聞くために近くに見えた案内所に足を向ける。

 そしてそこの売店にいたバイトのお姉さんに話を聞くと、大橋の手前に守衛室があるのでそこで役員に事情を説明すれば点検用の梯子を使って下に降りる許可が下りるはずだと教えてもらい、私は言われた通り大橋手前の守衛室を目指す。


 それから約10分後、私は本来の観光ルートを外れているため関係者以外入ることができないはずの川岸に立っていた。


(今回の調査内容は、最近ここら辺で多数の魔獣が相次いで死んでいるのが発見されたことから、本来ここら辺に住んでいる魔獣より上位の魔獣が入り込んでいないかの調査を行う、って内容みたいだね。ここら辺に出てくる魔獣の脅威度がコアレベル50相当だから受注資格が70以上に設定されてたみたいだけど、最悪もっと上のレベルが出てくる可能性も考えとかないと)


 今回の依頼内容を頭の中で整理しながら、私は改めて腕に装備した魔装と腰に下げたデッキケースの確認を行う。


 遥か昔、人々は魔獣という脅威から自身や家族を守るために己が身を限界まで鍛え上げ、魔力という超常の力を扱うためのエネルギーを日々研究しながら生活して来たと言われている。

 だが、どれだけ肉体を鍛えようとも人体より圧倒的に優れた身体能力を持つ魔獣たちの前では人間はあまりに無力で、唯一魔獣と互角に渡り合う力を得られる魔力でさえもまともに魔獣と戦えるレベルまで習得するには相応の月日と才能が必要とされていたのだと言われている。


 だが、今から約千年前、一つの魔装が開発されたことでそれらの現状は大きく変わることになる。


 その魔装の名は『魔術師の絵札(マジェスティーコード)』。


 当時の研究者たちはどうすればより効率的に、そしてある程度の水準で魔力を運用して魔獣と渡り合うための力を得ることができるか研究を重ね、特殊な素材で作り出した呪符に魔力を封じる技術、【封魔術】に目を付けた。

 そして、【封魔術】を研究することによって特定の魔術を封じた呪符を、開放するために必要な最低限の魔力消費で魔術を行使する手段を確立していくのだが、その過程で多くの問題も発生することになる。

 まずは呪符での魔術行使を行えば誰でも一定基準の魔術を行使できるものの、呪符に封じることができる魔力量には限界があるのでそれほどを出力を捻出できないという欠点がある。

 そのため、その問題を解決するために当時の技術者たちが考案した手法は実際に呪符に封じれた魔術を開放するのではなく、呪符に封じられた魔法を別の魔道具で読み取り、それを魔力によって再現することで術の発動を可能とする技術の開発だった。

 そうすることにより、呪符へは魔術の行使に必要な最低限の理論さえ書き込んでおけばよいので、今までその術に込められた魔力濃度に耐えきれない規模の大規模魔術を呪符化することに成功したのだ。

 さらにこの技術の導入によって『呪符は一度使ってしまえばその時点で消耗してしまい、回数制限がある影響で実戦での運用が難しい』というもう一つの問題も解決することになるのだが、当然ながらそれで全ての問題が解決したわけでは無い。


 次に問題となったのは当然その術を発動するための魔力をどのように賄うのか、といった問題が浮上したのだ。

 当たり前だが大規模な魔術を行使するためにはそれに見合った量の魔力を消費する必要があるのだが、基本的に魔力量が少ない大多数の人々は下級の魔獣を追い払うのがやっとといったレベルの魔術を数発使うだけで魔力切れを起こしてしまう程度の魔力しか持っていない。

 そして、当然ながら呪符に記憶させた魔術を自身の魔力で再現する方式を活用した場合は魔力構築に割く魔力を軽減できたとしても発動に必要な魔力までは賄うことができない。

 そこで注目された技術が特定の手順を踏ませたり一定のルールで縛ることで魔力消費量を押さえながら大規模な魔術行使が可能となる技術、【儀式魔術】だった。

 呪符を40枚で一組の束(デッキ)とし、使える呪符を最初に5枚、それ以降は1分間に一枚ずつという制限を掛けることで状況に応じて自由に狙った魔術を扱うことができない代わりに魔力の消費量を極端に下げ、更に呪符をいくつかの種類に分けて種類ごとにデッキに投入できる枚数を絞ることで威力を増すことに成功したのだ。

 さらに呪符の性能に合わせてコストを設定し、魔力の代わりに儀式で生み出したマナをコスト分消費する方法に切り替えたことで儀式を開始する際に一度だけ魔力を消費すれば済むようにし、そのマナを生み出す方法も手札に加わった呪符を消費してコスト分のマナを生み出す、といったルールを追加したことで誰でも一定の手順を踏めば同じ規模、同じ出力の魔術を行使できるシステムが構築されたのだという。


 そして、更にこの儀式によって魔力消費の低減、威力の向上を図るために取り入れられた手法が術者の魔力量に合わせたデッキコストの制限だ。

 この方式において、呪符は記録された魔術の規模に応じてそれに見合ったコストが設定されることになる。

 コストとは単純に『その術を発動するのに必要なマナの量』を現しており、コスト1の【火球(ファイアボール)】や【水球(ウォーターボール)】を発動するにはマナを1、コスト2の【火壁(ファイアウォール)】や【水壁(ウォータウォール)】を発動するにはマナを2消費する必要がある。

 そして、その一度の儀式中にそれだけのマナを得るには同等のコストを持った呪符をトラッシュ状態(その儀式中では使用できなくなる状態)にする必要があるのだ。

 そうなると当然デッキに入れる呪符は高コストの物で固めた方が効率が良いのだが、それをしてしまうと儀式においての縛りが緩くなることでどうしても魔術の威力が弱くなってしまうため、それを補うためには儀式開始時に相応の魔力を上乗せすることで威力の確保を行わなければいけなくなる。

 そのため、そんな状況を避けるために術者の魔力量に応じてデッキコストに制限を掛けることになったのだ。


 そしてここからは専門的な話になってくるので私も詳しくは語れないのだが、この術者の実力に合わせて最適なデッキコストの数値を計算してくれる魔道具が魔装に装着された『コアユニット』と呼ばれる装置で、このコアユニットを通した魔術行使に慣れてくると術者の魔力が魔装や相性の良い呪符に特化した魔力へ最適化してくれるという優れものなのだ。

 更に、このコアユニットは戦闘によって魔獣を倒した際に魔獣から溢れ出した魔力を吸収することで本来は生まれ持った総量以上に成長しないはずである術者の魔力量を引き上げてくれる効果も持っているため、現代ではほとんどの人(さすがに全員とは言わないが)がこの魔装『魔術師の絵札』を使用している。

 もっとも、コアユニットによって魔力を魔装に最適化された者は呪符を介した魔術の行使以外不可能になってしまうというデメリットも存在すのだが、呪符を基幹とした技術体系が確立されている現代ではそれほど大きな問題になることは無いだろう。(強いて言えば魔装も呪符もない状態では無力になってしまうことが致命的な弱点だが、裏を返せば犯罪者などから力を奪う際にはそういった物を全て没収してしまえば良いだけなので国としても管理が楽になる利点もあるらしい。)


(とりあえず、この近辺に出現しやすい水系統の魔獣対策に雷系統の魔術を中心に構成したデッキも持ってきているし、基本的に愛用している『幻影の騎士』を主軸に戦うデッキにもある程度の属性に対応できる術は入れてある。それに、いざとなったら撤退できるように逃走に特化した構築のデッキも持ってきたから、どんな魔獣が出てきても大丈夫!)


 本格的な探索を始める前に一通りの確認を終えた後、私は無事に依頼を達成すべく気合を入れて一歩を踏み出したのだった。

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