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第2話 旧都へ向けて

「おっ? 嬢ちゃんも今からクエストか?」(※冒険者によっては依頼の事をクエストと呼ぶ人もいる。)


 指定されたポイントへ向かうため、転移門へと向かっている最中に背後からそう知った声に呼びかけられた私は声のした方へと視線を向ける。

 するとそこには想像した通り、180中盤といった長身に鍛えられた体躯を持ち、燃えるような赤毛をオールバックにまとめた20代後半といった見た目の青年、ダニアンさんの姿があった。

 このダニアンさんと知り合ったのはちょうど私が冒険者として第一歩を踏み出した初日の事で、無知で世間知らずの私を利用しようと近づいてきた悪い冒険者の魔の手から救い出してもらったうえに、冒険者としてのイロハを教えてくれたりタイミングが合えば一緒に依頼を受けてくれたりと、何かと世話を焼いてもらっている方なのだ。


「おはようございます。ダニアンさんも今から依頼を受けに行かれるのですか?」


「おう! 今日は南の砂漠地帯に出現したっていうメタルスコーピオンの捕獲クエストを受けようと思ってな」


 そう告げながらダニアンさんは買ったばかりだと思われる上級の【使役符モンスターカード】の束をひらひらと振りながら私に笑いかける。


「そんなに大量の上級符……メタルスコーピオンの捕獲程度の報酬では赤字なのでは?」


「まあ、これ全部を使うようなら完全に赤字だろうが、俺ほどの腕前になれば絶妙な力加減で殺さない程度に魔獣を弱らせて一発で捕まえるから余裕だぜ! そんで、余ったやつで他のレア魔獣を捕まえれば一気に黒字、って寸法さ!」


「そんなこと言って、この前はプラチナゴーレムの捕獲に失敗して『大赤字だ~』、って嘆いてませんでした?」


「ははは! あれは運が無かっただけだ! それに、前回運が下振れたってことは、次こそ上振れるに決まってるから大丈夫だ!」


 これは絶対痛い目を見るフラグだな、などと考えながら私は苦笑いを浮かべつつ「アハハ、上手くいくと良いですね」と当たり障りない返事を返しておく。


「そういや嬢ちゃんは今日はどんなクエストを受けたんだ? 確か、何日か前にキラーベアの番討伐のクエスト受けた時、ドジって取り逃がしたからしばらくは討伐系の受注制限をくらってたよな? だが、転移門に向かってるってことは……配達系か?」


「それが珍しく調査系の依頼があったので、それを受けたんですよ」


「調査系? ……ああ、あれか? 最近東の旧都近辺でダンジョンが隠されている可能性がある洞窟が見つかった、とかいうやつの」


「確かに場所はそこら辺ですけど……そんな噂があったのですか? 知りませんでした」


「まあ、噂と言ってもある程度高レベル帯の冒険者の間で共有されてるネタだから、まだ駆け出しの嬢ちゃんが知らないのも無理ないかもな」


 そんな会話を交わしていると、気づけば私達は転移門の目の前まで辿り着いてた。


 やはりこの時間は私達と同じように依頼に出発しようと多数の冒険者が集まっており、中には大規模な討伐依頼に同行してくれる冒険者を求めていろいろな人に声を掛けているグループの姿なども見られた。


「おっと、それじゃあ俺は南部方面への転移門だからここでお別れだな。まあ、今日の稼ぎ次第じゃまた昼を奢ってやるから楽しみにしとけよ!」


 ダニアンさんはにこやかにそう告げると王国の南部方面へと転移するための転移門へと消えていった。

 そしてダニアンさんと分かれた私はそのまま目的地である旧都方面への転移門(南部方面はほとんど人が住む町が無いため、南部の主要都市ラナトースへ向かう転移門しかないが、他の三方はある程度の規模を持った都市を繋ぐ門が複数存在する)へと向かい、数分ほど列に並んで待った後に転移門を使用して旧都へと辿り着いた。


 余談だが、転移門の利用は当然ながら無償ではなくそこそこの料金を取られる。

 だが、冒険者は依頼を受けた状態か依頼達成後に一度だけであれば登録しているハミルを入場ゲートにかざせば無償で転移門を利用できる特典があるのだ。(因みに、依頼に失敗したり途中で破棄すると利用した分を後で強制的に口座から引き落とされる仕組みになっている。)

 では『ハミルを持たない冒険者はどうするのか?』といった疑問も生まれるだろうが、そもそも私が生まれる前である今から2~30年前まではコインや紙幣での決済が支流だったらしいのだが、今はハミルを使った非通貨決済が主流のため成人を迎えた者は1年以内に一人1台登録されたハミルを所持することが義務化されており、冒険者に登録した時点で強制的にハミルを所持することになるのだ。

 因みに、もしハミルを紛失した場合は新しいハミルを強制的に購入させられる(口座の残高が足りなかったり少ない場合は分割払いで強制労働の義務が発生する)のだが、ハミルは基本的に世界各地に存在する『マスタサーバー』と呼ばれる魔道具に所持者の魔力を識別してアクセスするために端末でしかないため、どの端末を使用しようが必ず『マスタサーバー』に記録された自分のデータにアクセスできる仕組みとなっている…らしい。(私は専門家ではないので詳しい仕組みは分からないのだ。)


「さて、指定された場所は………結構距離があるなぁ。バスとかもないみたいだし、移動用の魔獣を封じた【使役符】はどうせ今の魔力量じゃ長時間使えないからって売っちゃったし……。はぁ、歩くしかないかぁ」


 がっくりと肩を落としながらそう呟いた後、パンパンと軽く頬を叩いて気持ちを切り替える。


(まあ、移動に魔力を使い過ぎて肝心な時に魔装を起動できないなんてことになったら大変だし、それに移動中にレアな魔獣と遭遇できるかもだしポジティブに行かないと! この程度のことで挫けていたら、もしお父様に見つかった時に話すら聞いてもらえず連れ戻されちゃうだけだよ!)


 心の中でそう言い聞かせた私はすっと視線を上げ、これから向かうべき旧都の北側に存在するライゼンハルトの渓谷、そこで発見されたという洞窟の方向に視線を向けるとそのまま真っ直ぐに足を踏み出すのだった。

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