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第16話 条件

 未だ収まらないざわめきの中、私はこれからどういった展開になるかとびくびくしながらティアの言葉を待つ。

 正直、私はお父様に決められた人生を歩むだけの自分が嫌で、私を産んですぐになくなったお母様のように強い女性になりたくてティアやランドルフの力を借りて家を飛び出したのだ。

 だから当然見つかれば連れ戻されるし、今回のような一歩間違えば取り返しのつかない事態になっていたとなれば今まで以上に自由を制限されるリスクは覚悟していたつもりだ。


(だけど、たった一ヶ月と少しで終わりなんて……。テディが思ったよりも強いかも、って分かったことで少しだけ希望が見えたのに、その希望に賭けることも許されず終わるなんて嫌だ!)


 思わずぎゅっと拳に力を入れながらティアに視線を送るが、仮面のせいで残念ながら彼女の表情からは何を考えているかを探ることはできなかった。


「さて、それでは話を続けても良いでしょうか?」


 周囲のざわめきがある程度収まったところでティアはそう切り出すと、彼女は真っ直ぐ私に視線を向けながら言葉を続ける。


「まず初めに、貴女のお父様からお預かりした伝言…というより、今回の件で下した決定事項をお伝えしましょう」


「お父様から?」


 想定外の言葉に思わずそう聞き返すが、瞬時に思い浮かんだのは『だから言っただろ。大人しく帰ってこい』といった類のものだろうという予想だった。


「ええ、貴女のお父様は今回の件を受けて貴女が戻って来ることを一番に望んでおられますが、同時に貴女がそれに納得しないことを理解しておられるのです」


 しかし、ティアから告げられた言葉は私の予想と多少異なる内容の物だった。


「……もしかして、このまま私が冒険者を続けることを許してくれる、とか?」


 有り得ないと思いながらもそう尋ねると、帰ってきた答えは想定外ながらも「ええ」という肯定の言葉だった。


「それじゃあ――」


「しかし! それには条件があります」


 思わず身を乗り出して声を上げた私を制すようにティアはそう告げ、私が口を噤んだのを確認すると言葉を続ける。


「三日後、貴女にはランドルフと模擬戦を行ってもらいます。もしそこで十分な実力を示せないのであれば、これ以上の我儘は許さない、とのことでした」


「そんな! そんなの絶対に無理じゃん!」


 思わず感情的になりながらそう言葉を発すると周りから「影と言えど、従者風情が無礼であるぞ!」などの怒号が飛んでくるが、今の私にはそんなことを気にする余裕はなかった。

 ランドルフは私達と4つ程度しか年齢が変わらないにも係わらず、王族の身辺警護を任されるほどの実力者だ。

 その実力はいずれ『ランカー』へ至るのではと目されるほどであり、現時点でも既に国内でトップクラスの実力を持つ相手に冒険者駆出し程度の実力である私が太刀打ちできるわけがないのだ。


「もちろん、貴女のお父様も今のセレナがランドルフに勝つことなど不可能だとは重々承知しておられます。だから、『勝て』とは言わずに『実力を示せ』と命じられたのです」


「でも、私とランドルフの実力差ではまともな戦闘になるとは思えない!」


「だからこそ、そのような状況で貴女が手も足も出ずに終わるようではまた今回のような状況に陥る危険性が高いので、『ランカー』を目指すなどという無謀な挑戦を諦めて戻ってこい、とおっしゃられているんですよ」


 ティアの言葉に、私は何とか言い返そうと口を開くがそこから言葉が発せられることは無かった。

 正直自分でも分かっているのだ。

 『ランカー』になるとはそれほど過酷な道のりであり、『国内有数の実力者に手も足も出ない』程度の実力では世界規模の実力者たちに到底太刀打ちできるわけがないのだ。


「因みに、ランドルフが多少なりとも手心を加えてくれる、なんて希望は持たないほうが良いわよ」


 そのティアの一言で、私の家出を手伝ってくれた2人なら多少なりとも手心を加えてなんやかんやで見逃してくれるのではないかと期待していた私は思わず「どうして?」と掠れた声で問いかけていた。


「今回の件で、わたしがセレナ様に圧勝できたのならば貴女の婚約についてもう一度考え直していただける代わり、もし全力で戦わなかった場合はたとえ結果がどうなろうともお二人の護衛の任からわたしを外す、と命じられているからです」


 婚約という私が家出を決意した要因の一つを思い出し、一瞬相手の顔を思い出しかけたがすぐさま頭を振って余計な思考を振り払う。

 正直、婚約者候補を嫌っているわけでも悪い相手だと思っているわけでもないのだが、それでもあの人の妻となるなら余計『ランカー』を目指す夢など到底叶わなくなってしまうし、他にもいろいろと思うところがあるので何とかこの話はお父様に考え直してほしい所ではあるのだ。


「それに、貴女の家出を私達が手助けしたのだって実際は貴女のお父様から許可を頂いていたからで、正直私達も貴女の夢を応援したいと思う反面危険な真似をするのは止めて欲しかったのよね」


「えっ?」


 予想外の言葉に、思わず私は間の抜けた言葉を漏らす。


「そもそも、セレナ様の御父上がどのような立場にあられる方か、を考えればこの王国内でどこに逃げようともすぐに情報が入って来るはずで、それなのに今まで一切追手が来なかったことに疑問を持たれなかったのでしょうか?」


 少し呆れたような口調でランドルフにそう問われ、確かに言われてみればそうかも知れないと今更ながら思い至り、今まで自分がどれだけ何も知らずに能天気に過ごして来たのかを悟って思わず顔が赤く染まる。


「ひとまず、この件は3日後の立ち合いの結果を持って判断するとして……どうやら今の精神状態ではまともな話なんて聞けそうにないので詳しい報告はその後、ということにしましょうか。その際、結果によっては貴女が誰の娘で、家出しなければ本来どういった身分だったのかも含めて皆に全てを語って貰う必要が出てくるかも知れませんね」


 こうして、想定していたのとは大幅に違う流れで進んだ謁見は幕を閉じ、ひとまず私は自分のアパートに帰されることとなるのだった。

 因みに、3日後の立ち合いでは中立の立場から審判を行うために、ということでギルドからダニアンさんが立ち合いを行うよう指示され、指名されたダニアンさんは「なんで俺が」とぶつくさ言っていたが王族の要請を断れるわけもなく、何だかんだでこの奇妙な問題に巻き込まれることとなったのだった。

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