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第12話 続く想定外の事態

「……いろいろと分からないことばかりですか、ひとまず私と一緒にこのダンジョンから出ませんか?」


 分からない疑問点を頭の片隅に追いやりながら、私はあまりここで時間をかけているわけにもいかない状況であることを思い出してそう声を掛ける。

 正直、これまでそれなりに時間が経っているものの一向にあの男が追い付いてくる気配はないのでしばらくここでゆっくりしていても問題ないような気もするが、それでも念には念を入れて一刻も早く安全を確信できる場所まで移動しておくに越したことは無いだろう。


「外に……ですか」


「もしかして、記憶もあやふやな状況でここを出るのは不安、ですか?」


「それもありますが……そもそも僕は何らかの理由でここに封じられていたのですよね? そうなると、そんな僕が気軽に外へ抜け出してしまっても良いものなのでしょうか? もし、僕がここを離れることで問題が起こるのだとしたら、このまま一人ここに残った方が良いのでは、なんてことを考えてしまったのです」


 そう問われ、こんな真面目な性格の彼が『悪しきモノ』として封じられたとは到底思えない私は少しだけ間を置いてどのような言葉で答えるべきか考えた後、やがて迷いない口調で「問題ないと思います」と声を掛けた。


「それはどうしてでしょうか?」


「だって、この祭壇に刻まれた紋章などからあなたが封じられたのは遥か過去の時代、それこそこの大陸の大半を帝国と呼ばれる大国が支配していた数千年前だと思いますから、どのような理由があったにせよあなたを封じた人たちはおろか、それを命じた可能性の高い国すら滅んでいるんですから気にする必要はないと思います」


 それ以上はあえて言葉にしなかったが、私が問題ないと判断した理由はもう一つあった。

 現在、彼が封じられていた呪符を私の魔装を用いてコンバートを行ったことによって当然ながら彼のマスター権限は私が持っている。

 そして、繋がった魔力のパスから彼は全く魔力を持っていない珍しい魔獣(もはや魔獣ですらなくただの動物枠な気もするが)なので、彼が私の支配権を振り切って暴れる心配は欠片もないのだ。

 強いて言えば非常に珍しい個体なので国の研究機関などに目を付けられる危険性はあるものの、正直私自身が国家の中枢に関わる機関と接触する状況をできる限り避けたいので彼の存在を悟られないようにこっそり家で養うつもりだし、最悪誰かに見つかっても人前で喋らないようお願いしておけば珍しい柄のリトルベアというだけで言い逃れできるだろう。


「ふむ。しかし、君も最初に勘違いしたように僕は神獣と呼ばれる存在の特徴に似た性質を持っているのではありませんか? そうなると、そういった存在を利用しようとする存在が狙ってくる可能性があるのでは? その場合、僕がいることで少なからず周りに迷惑をかけてしまう危険性も増してしまうのではありませんか?」


「そこもそれほど心配する必要はないと思いますよ。そもそも私があなたの事を神獣だと勘違いしたのは私達のように人語を解していたからなので、私の前以外で喋らなければ全然問題ないと思います。それに、封印を解いた責任がある以上あなたの記憶が戻るまできちんと私が面倒を見るつもりなので、たとえあなたを狙ってくるようなやつらが現れたとしてもきちんと守ってみせますから!」


 自信満々にそう告げる私に、彼は少し呆気にとられたような雰囲気で言葉を失ったものの、すぐに「しかし、そこまで迷惑をかけるわけには――」と言い出したのでその言葉を遮るように私は口を開いた。


「それに! こういったダンジョンに封じられた存在は発見者が責任をもって管理するか然るべき機関に引き渡さないと罰せられることになるので、あなたの意思を無視して私が私の都合であなたを連れて行こうとしてるんですから逆に謝らないといけないくらいなんですから」


 最後の方は苦笑いを浮かべながらそう告げる私に、彼はしばらく沈黙を挟んだ後に「ああ、どちらにせよ迷惑をかける可能性があるのならばここは大人しく引き下がるのが良さそうです」と呆れたような口調ながら納得してくれた。


「さて、それじゃあとりあえず今後の話は落ち着いたところに辿り着いてから、ってことで……いったんあなたを【使役符(モンスターカード)】に戻そうと思うのですが、少しの間だけ我慢してもらえますか?」


「【使役符】? それがどういった物かは分かりませんが、ひとまずは君の判断に任せます」


 その返事を聞いた私は、「ありがとうございます」と一言お礼の言葉を告げてから彼を【使役符】に戻すべく魔装に装備された強制送還機能を発動させる。


「…………あれ?」


 だがなぜか彼が【使役符】に戻ることは無く、それどころか魔装のディスプレイには見たことない表示が出ていることに気付いた。


(もしかしてコンバート作業の時に何かやっちゃった? とりあえず、いったん強制排出機能を使って無理やり【使役符】に戻してみよう)


 そう判断した私はすぐさま強制排出機能を作動させるも、なぜか『対象となる呪符が挿入されていません』と表示されるだけで一向に【使役符】が排出されてくる気配がない。


「どうかしたんですか?」


 明らかに強張った表情を浮かべる私に、彼が心配そうな声色でそう尋ねるが余裕のない私は「だ、大丈夫です!」と咄嗟に返した後魔装が予期せぬ動作をしたときに試すべき手段を手当たり次第に試していく。

 だが、どれだけ試そうともこの状況が改善することは無く、それどころかなぜか彼を封じた【使役符】が強制的に【始動札(ファストカード)】に固定される現象が起きていること、そしてそのせいで私はその【始動札】を除いた39枚のデッキでなければ儀式用のデッキとして認識されない状態になっていることが発覚する。


(ちょっと待って! ちょっと待って!! ちょっと待って!!? これ、ショップに持って行ったらちゃんと修理できるよね!? これ、前に聞いたことのある特殊な精霊なんかと契約した時に起こるっていう魔力の同化現象で対象となる存在のどちらかが死なない限り解消できない特殊な事例、ってやつじゃないよね!?)


 脳裏を過った不吉な予感にさっと血の気が引くのを感じながらしばらく呆然とその場に立ち尽くすことしかできず、先程からずっと私に声を掛けてくれている彼の言葉は何一つ理解することができなかった。


(正直、こんなか弱そうな見た目で魔力もまともに持ってないんだから適当な魔獣と戦わせればあっという間にやられちゃって案外簡単にこの状況は解決するんだろうけど、私のせいで彼の命を奪うなんてできるわけない。そうなると、私はこれから一生魔装を使った戦闘を諦めるしかない、ってこと?)


 とてもではないが私は彼を守りながら、残り39枚のデッキを駆使して我が身一つで戦えるほど身体能力も魔力値も高くはない。

 それに、唯一私の取柄である【制限解除(クリアリミット)】も召喚時に能力の制限を受けている精霊や幻霊とは違い召喚した時点でフルの能力を発揮する魔獣相手には何の役にも立たないのだ。


(大丈夫! きっと、きっと大丈夫! だから落ち着かなきゃ…落ち着かなきゃ)


 そう自身に言い聞かせ、ようやく正気を取り戻したのはそれから10分ほど経ってからの事だった。

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