1話
走る。薄暗く狭い廊下を。ここがどこかはわからない。わかることは一つ、私は追われている。
銃声が鳴る。庭に生えた雑草を殺すように小銃で武装した集団が目撃者を摘み取っていく。
音から逆の方向へ息を殺して向かい、突き当たりの部屋に入る。ドアを開けるとそこは医務室のようなところであった。事務机の下に隠れ、息を整える。そうすると考えと想像が頭の中を巡る。大体何故私は追われているのか、何故ここにいるのか、そもそも私はどこの誰で何者なのか、無限に浮かぶが非現実的で妥当性に欠けている。過去を考えることより、今からこれからを考えないといけない。なにはともあれ私には漠然と言語化できない使命感というか焦燥感がある。要はこの状況から生き残りたいのだ。
何か使えるもの、自衛のため追手を殺傷できる物を探そうとする。しかし医務室に素人目からみて武器になるものがない、あるわけがない。が、しかし、調べるとあることがわかる。ここは医療行為を行うための部屋ではない。そこにあるのは血液で描かれた魔法陣、眼と五芒星の描かれた袋に入った生命体の死体らしきもの。どれも奇怪で不快であり、なんとも言い表せない気分になった。
机の上の本が目に映る。本は百科事典ほどのサイズ感の革張りの本、革の素材は予想できてるが真実を知りたくない。本に手を伸ばそうとすると、机の上に置いてあったフラスコに触れてしまう。私を嘲け笑うように尖った音が鳴り響く。急いで身を隠す。近づく足音が鼓動の裏拍を打つ。どうして、何故、どうして、私が、私だけがという考えが浮かぶ。しかしまだ手があるはずだ、割れたフラスコの首をナイフのように手に取った。逃げ切れるか、いやそうではない、これしか方法が無いのだ。
腹を決めると同時に扉が蹴破られる。先頭の男に組み付く、フラスコを突き立てようとするも、振りほどかれ壁に叩きつけられてしまう。正真正銘の終わり、文字通り土壇場、意識が暗転し出した。
「まだ終わりたくないのでしょう」
声が聞こえる。鼓膜を通してではない、脳内に直接語りかけるように。人の姿が見える。網膜に映るのではなく、夢のようにぼやけて、だがどこか鮮明に。
「あなたは…?」
問いを発すと同時に相手が言葉を発する。
「貴女には力があります。誰にも支配されない、不条理に抗い、無辜なる者を救う力が。」
相手は続けて話す。
「またいつか会いましょう。貴女には生きるべき理由があるようです。」
意識が沈むように遠のいていった。
武装した男は投げ飛ばした少女に銃を向けた。
「クソ、ビビらせやがって」
「目撃者は全員始末するのが規定だ。目標の回収は済んでいる。早く始末しろ。」
仲間からの言葉に「了解」と返し、引き金を引こうと指に力を入れる。しかし手応えがない。しかし、とあることに気づいた。両腕が根本から切り落とされていた。正確には、根本から消えていたのだ。
男の絶叫が鳴り響く。目の前には魔法陣が広がり、円の中央からは少女を守るかのように龍が顔をのぞかせる。
龍は、夜叉のように生えた長い角、燃え盛る炎のように伸びた鬣、黒く透き通る水晶のような鱗をもち、手には一本一本が刀のように鋭い爪を生やしていた。
少女の眼が開く。
その眼は捉えた。敵を。獲物を。
相方と昔「なんか暇やし作品作らん?」的なノリで温めてた作品です。
相方、絵を描くの好きで挿絵描いてもらってたんですけど、なんかなろうの仕様?で上げられてません。(僕がなろう慣れてないからやり方知らないだけかも)
優しい方かつ暇がある人はnoteの方には相方が描いてくれた挿絵があるんで見に行ってくれると幸いです。