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第3章.死の十字架

角楼屋敷のあらゆる部屋に飛ばされた気まぐれ部メンバー。彼らはその怨念と向き合い、仲間と合流することが出来るのか。

"地下"と聞いたらどんなものを思い浮かべるだろうか。鼠色の壁、薄暗い物置化している地下室、大抵はそんな所をイメージするだろう。地下はそもそも、家のスペースを広げる為のものである。ロフトがある家とかもあるが、その要領である。天井のスペースを有効活用しているのがロフト。地下を作り住宅の地下部分を有効活用しているのが地下室である。が、そうでない家も勿論存在する。単に大体の人が想像する地下室に近い形で利用する人もいる。書庫や物置の為に設置するのだ。そうであれば、家の横幅を広くしてスペースを作る為に土地を買わずとも、家の拡張ができるからだ。

2人が見た地下は薄灰色の一般的な地下室だった。薄暗く何処か冷気を帯びた空気を漂わせていた。光は地下室の中を右へと、左へとライトを向けた。そして来た道を振り返るように先程開かれた階段にもライトを向けた。これで地下室…部屋中を見た事になる。しかし振り返った。

つまり──────


何も無かった。

何も無かったのだ。薄灰色の地下があるだけ。ただ、それだけだった。明は落胆するように、と言っても、少々安堵の声でもあったが、

「ふぅ…早くここから出ようか」

と言った。いや、言おうとしたが、正確には何者かの声に食い気味で遮られた。その声は誰だったか。いや、2人には分かりきっていたことだった。その声の正体は、2人の目の前にいた。地上への階段を上がるべく振り返った光と明の目の前に現れた、黒髪で、赤眼の少女だった。

"それ"は、当然の如く、2人と面識があった。

光と明が使用人室で目が覚める前。ドッキリを終え安堵していたその頃。出会った少女。唐突に縁のいた場所に現れた、謎の少女だった。

「お兄ちゃん。お姉ちゃん。染まってるね」

その少女は、もう一言呟いた。

「じゃあ特別に、見せてあげるね」

刹那。光の視界は、再び真っ白になった。




「──────おい!!何だこの怪文書は!!こんな事を書いていいと思っとるのか!!」

「…申し訳ありません旦那様…!直ぐに再度仕切り直させて頂き…」

「ええい!!もうええわ!散々じゃ!いつもいつも下らぬ怪文書を書いてきおって!!貴様は無能じゃ!専門家を出し抜く唯一の手網じゃったのに!約立たずじゃ!貴様がこの家にいる資格はもうない!出ていけ!」




「──────お父さん!!これなんて読むの?」

「おお!これはな。"くぎ"と読むんじゃ」

「じゃっ、じゃあこれは??」

「"かんざし"と読むんじゃ」

「すごいすごーい!絵本読むの好きー!」

「そうかそうか!じゃあ今度新しい絵本を買ってやろう!」

「わぁい!お父さんも大好き!!」



──────あはははははははは!!!




視界が鮮明になる。再び考え難い痛みが光の脳へ与えられた。痛みを耐えた後、気がつくと、元の場所、地下室に戻っていた。

「うぅ…いったぁ…」

明が呻く。

「今のはなんだったのぉ…?」

光は、痛みに呻きながらも疑問符を浮かべている明を横目に、黒髪の少女がいた方向を見た。

少女は、いなかった。

「最初に見たのは…ここ…?」

明が疑問符と脳の痛みと共に呟いた。そうだ。最初に見たのはこの場所だ。元あった机や椅子などは無くなってさえいるが、特に特徴もない、質素で薄灰色の壁というのは、ここでしか見なかったからだ。前見た使用人室が、豪勢で装飾された部屋なのであれば、他の部屋もそうであるはず。即ち明は自分達がいるこの場所こそ、白の世界で見た幻覚の場所なのではないかと考えたのだ。

「って事は…さっきの怒鳴っていた人はこの屋敷の主さんで…目の前にいた人は使用人さん…?」

「…」

光は頷いた。先程見たのは明らかな上下関係だ。上に従い、下を服従させている。弱肉強食。その言葉こそ似合っていた。

「2つ目に見えたのも屋敷の主さんだった…じゃあさっきの女の子は…うーん分からない!!わかりませぇん!!!考えたくありませぇん!!」

明が投げ出した。今考えても仕方ないだろう。と光は考えていた。兎にも角にも、この場所を出る事が先決であると考えたからだ。

「…」

光は明にジェスチャーをした。それは、首を出口の階段方面に向ける事で完成した。明は頷き、2人は地下室を出た。お互いに心の整理が追いついていないのだろう。地下室から出るまで、一言も話さなかった。

そのままの勢いで、2人は医務室を出た。早くここから立ち去りたかった。光が扉を開け、その後を明が着いていく形となった。廊下は灯りが一切なく、薄暗いどころか、ライトが無ければやはり見えなかった。途端。


光のライトが消えた。


「「…!?」」

2人はほぼ同時に動転した。明もライトをつけていたが、光のライトだけがその場で消えた。すると明の胸に重みが生じた。光だ。

光は動転して後方に倒れた。そこには明がいた。

自然と、明の胸に、光が頭を埋める形になっていた。

「…!?ひ、光くん!!!」

明は恥ずかしさから光を呼びかけた。真っ暗な廊下に明のライトだけが荒ぶる。明のよく響く声があちこちへ反響する。

光は動転していた気持ちを整理した後、現状を理解した。明の胸に頭を埋めている。やばいと。

光は明の胸から電光石火の如く離れ、明の方へ振り向いた。そして──────


ヘドバンし始めた。

「光くん!?」




千則は、真っ暗闇の中目を覚ました。何も見えない。感じるのは、硬いだけの床。ここはどこだろうと、頭の中で状況を整理する。その時、背中に重みを感じた。リュックサックだった。リュックを認識したと同時に、以前懐中電灯を持っていた事を思い出す。手探りで探した。なぜなら、先程まで素手で持っていたので、手に持っていないということはどこかに落ちていると考察したからだ。

「…あった!!」

懐中電灯を見つけた。付けた。暗闇に慣れてしまった瞳が萎縮を始めた。眩しさに目が眩んだ。しかし懐中電灯は正常に機能した為、灯りを手に入れた安心と不安からの解消により安堵していた。

「…そうだ、知らない女の子が急に現れて…それで…あれ?みんなは…?」

千則のライトが辺りを照らした。そこは、先程までいた場所、つまり、開かずの扉が存在する、大広間だった。そう、千則だけがこの場所に取り残されたのだ。

千則は再び開かずの扉に手をかけた。すると、ガチっと空間に固定されているかのように、ビクともしなかった。

「だよねぇ…」

ショックとですよねという納得が千則を襲った。

再び周囲を見た。瞬間。千則の目に飛び込んできたもの。それは、黒。いや、黒よりも黒い、漆黒だった。開かずの扉、そして大広間に設置されている広々とした階段。そのサイドに、千則の左右に。漆黒があった。

「…!?な、何これ…」

恐怖が襲いかかる。急にいなくなった友達。ここにいるのはただ1人。自分。暗闇に囲まれた。

絶望と表しても遜色ないものだった。ただ、千則は強かった。気まぐれ部の誰よりも、勇気があった。

「…先に、進もう。」

漆黒を無視し、階段を上がる。一段一段、踏みしめる音が、階段に響き渡る。最後の一弾を登り終えた千則の目に飛び込んできたのは。

「…!ゆかりん!!!!」

目の前に存在する扉の奥にいた、縁だった。縁が、裸で十字架に磔にされていた。

すぐさま千則は部屋に入る。つもりだった。

入ろうとした瞬間。部屋の床全体から、黒い霧と、触手が溢れてきた。

「…!?なに…」

呟こうとした瞬間。遮られた。


「──────死ぬよ。お姉ちゃん。助けに行ったら死んじゃうよ。助けに行かなかったら、死んじゃうよ。どうする?お姉ちゃん。



あはははははははははははははははははは」


先程突然現れた、少女の声だった。

その言葉を聞いて、千則は焦った。どうするべきだ?みんなを探して助ける…いや、それは時間がかかるし黒い壁に遮られて探せない。助けに行けば自分が死に、助けに行かなければ縁が死ぬ。少女の言葉を鵜呑みにすれば、そういう事だ。どうする。どうするどうするどうする。どうする。どうすれば、どうすればどうすればどうすれば…!!悩んだ末。体が、動いていた。

「今…助けに行くからね」

1歩踏み出した。片足が黒い霧に包まれる。痺れを感じた。もう1歩踏み出した。もう片方の足も霧に包まれる。痺れを感じた。もう1歩。もう1歩。もう1歩。5歩進んだところで、触手が足に絡みつく。真っ黒い、まさに漆黒の黒だった。その触手が絡みつく事に、痛みを感じた。縁の方を見た。縁の裸体には、黒い触手がまとわりついている。体のラインに沿うように、触手がウネウネと動いている。細い足。クビレのある下半身。臍の緒の胴体。豊満な胸。か細くすぐ折れてしまいそうな首。美しい肌をした腕。全身へと絡みついていた。

間に合わない。そう、確信した。

いや、それは決心へと繋がった。

「…う、うあああああああああああ!!!!」

千則は踏み込んだ。漆黒の触手に侵食され、足から下半身へと登りつつある触手の痛みを感じつつも、霧により痺れを感じとも、進み続けた。

そして──────。


「良かった。間に合った。」

千則は縁を抱きしめた。全身を触手が絡みつき、痛みと痺れを感じても尚。抱きしめた。

幸い、縁の手は釘で磔にされていたのでは無く、太い紐によって固定されていた。

「…すごいね。お姉ちゃん」

ふと、千則は声のした方へ首を向けた。

先程突然現れた、黒髪の少女が千則を見ていた。

「できっこないと思ってたのに。すごいね。ねぇ。なんでそこまで無茶をするの?」

千則は答えた。

「…友達だからに…決まってるでしょ」

「そっか」

黒髪の少女は振り返った。

「いいよ。助けてあげる」

直ぐと、千則の視界は再び真っ白になった。




「(アレクシア様…?)」

書庫の正面4番目の本棚に悠介は隠れていた。正面1番目の本棚には、白髪で目を真っ黒い何かにした男がいた。その男は"アレクシア様"と言っていた。

「(一体誰の事だ…?)」

悠介はその男を観察していた。が、瞬きをしたその瞬間。


「──────おまぇ だぁれだぁああ?」


瞬く隙。悠介の視界が真っ白になった。



「もういいですよ。アーダルベルト当主。折角使用人としてやって来たのに。やらされるのは怪奇現象について只管に綴る事ばかり。ドイツ語を話せる日本人且つ使用人なんてそうそういないでしょうに。日本人の専門家に媚びたいからと言って私を散々扱き使って捨てる。どういうつもりです?」

「うるさいうるさい!!!!黙れ!!黙れ黙れ黙れ!!!知ったような口を聞きおって!!!」

「知ってるから言っているんですよ。今まで従順に従っていたのに。俺を侮辱しやがって」

「…!なっ!お前何を!!」

「こうするしかないんですよ。」

「待て!!辞めろ!!」

「…」



「きゃあああああああああ!」

「ぐっ…やめ…」

「やめて…助け…」

「死にたくな…」



「アレクシア様…ど…こ…だ」





「──────落ち着いた?」

明が光の顔を覗き込むように言った。

「仕方ないよ!気にしてないから元気出して!」

光は俯いて黙っている。明はあはは…と軽く微笑み、光の背中を優しく叩いた。

「さっ!みんなを早く探しに行こ!私たちがこんなんだったらみんな元気なくなっちゃうよ!あっ。くっ…早く邪龍王マハタティスの右目を見つけなければ…くっ!くうううう!!!」

光はそんな明を見てホッとしたのか、苦笑いした。発症点どこだよと光は思ったが、まあ別にいいかと放っておいた。光が立ち上がると、明はそれを見計らったのか、一言呟いた。

「じゃ、行こうか!」


2人は暗闇の廊下を進んだ。と言っても、光のライトはつかない為、明のライトを駆使した。何故光のライトがつかなくなったのかは分からなかったが、電池切れでは無いことを明のライトが証明していた。まるでRPGのように、歩いていた。光が明のライトを持ち前を歩き、その後ろを明が着いてきていた。

2人が廊下を歩くと、足音がした。2人のものだ。1歩進む事にトントン。トントン。トントン。トントン。トントントン。と。

2人は振り返った。何もいなかった。何故2人が振り返ったのか。それは、足音が。増えたから。2人のものでは無い。同じ音程の。何者かの音がしたからだった。明は安堵した。

「なんだ。何もいないじゃん」

光は頷く。もしかしたらこの場所に来て敏感になっているのかもしれない。当然だ。普段感じない怪奇現象。その余韻が、常に体に染み付いているのだから。2人は振り返った体を元に戻した。が。目の前に。ゼロ距離で。大きな瞳と、口があった。光の心臓は止まってしまうかのように悲鳴をあげた。

「きゃあああ!」

明は普通に悲鳴をあげた。

光の持っているライトが動転した後、"それ"に定まった。

「…人?」

見た感じ、普通の人だった。髪は金髪で、ただ一点を凝視している容姿の整った若い女性だった。その瞳は、涙を流し、まるで光を感じさせないように思えた。明は声をかけた。

「す、すみません!あなた…は人…ですか?」

よく分からない質問をしてしまった。と明は自覚していた。が、それが真であるか偽であるかで、その場の対応が変わるからだ。


「────アレクシア様…どうか…ご無事で…」


刹那。光と明の視界は、再び真っ白になった。

真っ白になる最中。明は嘘…また?と呟いていた事を、光は聞き逃さなかった。



「──────釘を。抜いて。」

真っ白の世界で、少女は、光にそういった。

「それが、最後の手段。

この屋敷を、角楼屋敷を解き放つ唯一の方法。」

視界が鮮明になる。

「あなた達なら。出来るかもね。」

少女は、ニヤリと笑った。

その少女の瞳には、涙が、溢れていた。




「──────かり!」

誰かの声が聞こえる。

誰のものだろう。

考える度に、頭痛がする。疼痛がする。

視界は更に鮮明になった。



「光!!!」

見て頂きありがとうございます。次回が報復のアルペジオ 〜殺しを拾う記憶〜最終回です。よろしくお願いします。

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