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第2章.幽霊

文化祭の案を生み出す為に明一行は幽霊が出ると噂の角楼屋敷を訪れていた。すると鍵が閉まり玄関が開かなくなり…そこには何かがいた。

第2章.幽霊


明、縁、千則、悠介が送る視線とライトの先には、謎の黒い人影があった。明達が所持していたライトでは階段上のなにかをはっきりと捉えることが出来なかった。その為千則が人であると自分に信じ込ませるため、再度視界の情報を呟いた。

「ひ、人…?」

「……いや、こんな所に人がいる訳…」

黒い人影は1段1段と階段を降りてくる。





──────とおりゃんせ とおりゃんせ





黒い人影の顔が鮮明になっていく。





──────こぉこは どぉこの ほそみち…




じゃ ?


挿絵(By みてみん)


途端。人影の口のようなものが不気味に笑みを作ったように見えた。場にいた全員の背筋が凍る。ネズミや子猫が猛獣から逃げるように。蜘蛛の巣に捕らえられた虫が逃げようと羽を羽ばたかせるように。

動物としての本能。本物の恐怖が、目の前にはあった。

「「きゃああああああああああああ!!!」」

「で、出たあああああお化けだああああ!!!」

女性陣が悲鳴をあげ、悠介が少し歓喜の気持ちが混ざった雄叫びをあげた。明と千則は腰を抜かして床に尻もちをついた。全員のライトが右往左往し、目の前の影の姿を徐々に鮮明に映していた。薄暗く不気味な漆黒の色のフード。右手には銀色にライトの光を反射させるナイフ。恐怖。彼女達にはそれしか無かった。このまま動かなければ殺される。しかし、それは"未知"だと思った。幽霊。存在しないはずの。眉唾物のお話。そう、全員が思っていた。動いても、死ぬ。全員の直感が、動物としての本能が、そう、叫んでいた。

1段1段丁寧にゆったりと降りてくる黒の人影。

影が最後の1段を降りた所で、明、縁、千則は尻もちを着いた状態でつき後ずさり、恐怖に満ちた顔をしていた。絶体絶命。絶望。そんな言葉がこの場面では似合っていた。屋敷の玄関にある開かずの扉に背をつけながらも、影に向かってライトを一斉に向けた。影の顔が鮮明に彼女達の目に映った。


「「えっ……」」


そこには、たった1人の、"ただの青年"がいた。

いや、正確には……。



──────裡月(りづき)くん……?」




七千沢高等学校気まぐれ部。主に4人の活動者で構成されている。各々個性を持っており、全員性格が見事にバラバラに分かれている。その為勿論いざこざもあり、喧嘩など頻繁に起こるがそれでも尚仲違いすることなく部活がずっと続いている為、仲がいい部活として七千沢高校では有名であった。しかし、そんな気まぐれ部にはこんな噂がたっていた。


幽霊が出る。と。




月明かりさえも立ち入ることを禁ずる角楼屋敷。

幽霊が出ると言われ、惨憺な光景が視界いっぱいに広がると謳われた幽霊屋敷。その幽霊の素顔が、今、露になろうとしていた。はずだった。

「ひ、(ひかり)……?な、なんでここに…てっきり本物の幽霊が出たのかと……」

「……」

その学校で噂されている幽霊が彼。冷静且つ無口で常に無表情の青髪の少年。裡月光(りづき ひかり)。悠介にほぼ無理やり気まぐれ部に入部させられたが、ほぼ幽霊部員である。無言且つ独特な暗い表情をする為、出くわした生徒が幽霊だと勘違いしてしまい、気まぐれ部には幽霊が出る。という噂がたってしまった。特技は演技。

「え、でもあの声は、?確かに聞こえたような…」

千則は疑問に思った事を口にした。すると悠介がへへっと満面の笑みで光に近寄った。

「そーれーはー、これ!!」

光のポケットに入っていた小型スピーカーを取り出し、その場にいた全員に見せびらかした。

「はっはっはー!!ドッキリ大成功!!!!やったな光!!やっぱ光は演技上手いなっ!!」

「……」

光はこくりと頷きまばたきを繰り返しながら悠介をフード越しに見た。光の瞳は赤く染まっており、フードの中から紅く輝いていた。

「ええええっ!!やられたあああぁぁああ…」

千則は安堵と同時に疲れが一気に放出され、角楼屋敷の玄関に設置されている虎柄の絨毯に横になるように倒れた。それに加え、明は床に片膝をつき手で右目の眼帯を覆うように抑え呟いた。

「なん…だと…!?我に漆黒の龍の如くけたたましい叫びをさせるとは…くっ……古傷が痛むぜ…」

「いや先輩いつも叫んでるじゃん」

明の厨二病発言に悠介はさらっと答えた。不気味で暗闇の中に笑顔と活気が戻る。

「もぉぉお本当に心臓止まると思ったんだから!!悠介のバカあぁあ!!」

千則は不意に立ち上がり怒りに任せ悠介に向かってフルスイングで懐中電灯を投げた。

「グォアッ!!?」

見事に顔面にクリティカルヒットした。




場面は一段落した角楼屋敷に進む。みんなそれぞれ冷静さを取り戻し、幽霊がでると言われる屋敷の中で明るい雰囲気が薄暗く漂っていた。

「あれ、そういやゆかりんは?」

「あぁ縁ちゃんならそこに……」

明が扉の前で尻もちをついていたはずの縁にライトを向けた。が、そこに居たのは。




────波のように白髪を靡かせる縁"ではなく"、こちらを蟲惑魔の如く微笑み見上げる、黒髪で赤眼の小柄な少女だった。

赤眼の少女は微笑みながらもゆらゆらと体を横に揺らしていた。その光景を目にした明は呟く。

「…子ども?」



──────お姉ちゃん。



「…?」



──────あぁそび ましょ。


「…!!」

不気味に口を歪ませた少女を見るなり、光が焦りに満ちた表情で明を押し倒し覆い被さるように守る体制に入った。千則と悠介が少女の姿、縁の行方を不安視する中。


刹那。今この瞬間。


瞬く間に、この場にいた人間の全ての視界が真っ白に染められた。赤色のリトマス紙に水溶液を垂らして一時、一時と色が青色に変わるアルカリ性のように。絵の具で使った様々な色の絵の具が混ざり合いどす黒くなるように。

黒から。白へ。

そして今。視界は、真白へと。変わった。






That memory was etched into Hikari's mind,

Leaving behind a white background.


その記憶は、白い背景を残して光の

脳裏に刻み込まれた。



──────おか…さ…!!こ………て!!」



──────おに………ん、あ…え………よ!」



──────い…の…。か……くる…。」





In this way, Black became black and white

became white.


こうして、黒は黒となり、

白は白となった。





──────が…ぁ…。お…あさ…。」




They beg. To your own destiny.

Their peace of mind.


彼らは懇願する。あなた自身の運命に。

彼らの心の安寧を。






──────…かり…ん!!


「…?」


「光くん!!!」

「…!?」

仰向けからバッと勢いよく起き上がった光は、瞬く間に頭痛を覚え、頭を抑え始めた。白い光の中で。白の世界で。何か。何かを思い出したような。そんな気がした。が、頭痛の原因は他にあった。

「いったああああ…!!」

光が明を見ると、明も同じ体制でライトを上に向け頭を抱えていた。光が起き上がった時に明に頭突きしたのだ。

「…!!」

光はごめん。といったポーズで手の側面を明に見せ、申し訳なさそうな顔をした。

「うぅ…と、取り敢えず元気みたいでよかった…」

明は光の容態をみて安堵し、立ち上がった。光もそれになぞって立ち上がる。光は周囲を見渡し、現在の状況を把握しようとした。しかしそれは叶わなかった。

「…ここ、何処なんだろうね。縁ちゃんも急にいなくなっちゃったし、早く見つけ…くっ…早く見つけなければ…動け…!!!我の双脚!!」

中途半端で唐突な明の厨二病の発症に光は苦笑いの表情を浮かべた。この状況、場所に於いて明の存在は有難いものだった。ただでさえ闇夜の如く暗い屋敷なのだ。1人であれば心細い。明が一緒であれば有難いのは尚更だ。また、部活中も同様であり、時々厨二病を発するので、喧嘩をしてようが恐ろしい状況であろうが、多少なりとも状況が緩和される。光はもう一度部屋の物の配置、模様の隅々までをライトを使い見渡した。

そこは、広い部屋の一室のようだった。光と明の目の前、即ち部屋の中央には、小型のテーブル。テーブルには赤色と金色が混ざった豪勢なテーブルクロス、何冊も重なっている古本、細かく黒い字で何かが書かれた茶色の紙。その上には筆のような物が置かれていた。いずれも埃が薄く覆っていた。この部屋の全てが長い年月を経ている事を暗示しているようだった。

「うっわ埃すごいねー…けほっ…うわあハウスダストが……早くこの部屋から出ようよ」

光も同意見だった。いくら何でも真っ暗な室内の中で、しかも埃まみれの中で、長居する必要は無いと考えたからだ。しかし理由はそれだけでは無かった。どこからとも無く声が聞こえた。


──────お兄ちゃん。


光の感情は焦りに満ち溢れていて、周囲から表現すると焦りと怒りの感情が交互に入り交じっているようだった。

「光くん?」

光の様子を懸念した明が肩を優しく掴んだ。途端、光が鬼の形相で明を見た。

「ひっ…!ご、ごめんね…」

光の肩から手を退かし1歩退く明。焦りに満ちた光の瞳には少し光が戻った気がした。右手のひらで自身の顔全体を覆い、体を反るようにして深呼吸した。深呼吸が終わると同時に振り返った。ライトを向けたその先には少し怯えた明がいた。光の心に申し訳ない気持ちが溢れてくる。明が不安そうに、心配そうに光を眺めていると、光が明の顔を見て微笑み、顔を上げて。下げて。ヘドバンし始めた。

「光くん?!?!」



廊下は非常に寒いものであった。夕暮れさえ立ち入ることを禁じられた角楼屋敷。陽の光が無いのみならず、あまつさえ夜に近づいているのだ。光や明が肌寒く感じるのも無理はなかった。

廊下に出た光達は警戒していた。冷酷な暗闇。そこに2つのライト。緊張せざるを得なかった。歩けばコツ…コツ…と静寂に包まれた足音が廊下を振動させ、響いた。

こうして、光と明の屋敷探索が始まった。しかしながら、少しだけ探索を要約させてもらおう。何故このような物言いなのか。それは、探索の長さにあった。いや、正確に言うと、屋敷の広さにあった。廊下には、それぞれの部屋に部屋の名前が書かれた札があった。光が目を覚ました部屋は、使用人室。即ち、屋敷の主の部屋がある事を示唆していた。その他にも、医務室、客室、食堂と、一直線上に並んでいた為、1階であることを理解させられた。明は医務室の扉を開けた。至って民家の扉と変わらない、押し引きする扉だった。キィ……という音が、木の扉である事を表していた。いや、精密には鉄の扉でも同じ音を表現できるのだが、木の扉特有の、軽い音であった。使用人室同様、明と光はライトを右往左往させた。暗闇のライトに照らされた室内は、とても質素なものだった。右を見れば棚。左を見れば棚。正面には机越しに暖炉。暖炉の中にはドス黒い何かが放置されていた。質素。とは言ったものの、部屋の端。即ち、部屋に入ってすぐ左手には、小型のベッドとカーテンが設置されていた。いずれも光は触る気にはなれなかった。また、眠りにつく気にもなれなかった。布団は埃を被っていて、灰色に染まっていたからだ。暗い部屋の中で薄暗い雰囲気が漂う中。埃を完全に被っていたのはベッドと机のみだった。いや、正しくは棚の上や暖炉の上部分に埃が溜まっているのだろうが、光の身長ではその存在すら認識する事を許されなかった。部屋に入って左手の棚を見やる。その中には薬の入った瓶がズラズラと並べられていた。医務室と言うだけのことはある。大量に薬が置いてあった。その他にも、棚の引き出しには少し使われたと思われる短くなった包帯に、絆創膏と思わしき箱が並べられていた。ベッドで眠る事は叶わないが、怪我や捻挫をした時にはこの医務室に来る事が最善だろう。そう 光の頭に思考が回る。続いて、光が右の棚を見やる、が、明が既に見やっていた。

「光くん。これを見て」

明はおいでという手振りで背中を隠した。

「ここ…ほら、ふたつの薬の間にボタンがある。」

明の指さした所を光は覗き見た。言ってた通りのボタンだった。なぜボタンだと分かったのかと言うと分かりやすく赤いボタンになっていたからだ。クイズ番組の、クイズ答えが分かった時に押す音のなるボタンのように、学校に設置されている火災報知器のボタンのように。とても分かりやすい物だった。




悠介は目覚めたら書庫にいた。現状を理解するのにそう時間はかからなかった。ライトをあらゆる方向へ向けた。古びた天井。朽ちかけた棚。埃まみれの無数の古本。どれもそれが書庫である事を意味していた。

「見た感じ誰もいない…ここは…書庫か?一体何が起こった。落ち着こう、整理だ」

心に平静を取り戻すべく、自信で省略しつつ、記憶を辿る。全員で屋敷に入り、ドッキリをした。光が幽霊役だった。その場にいた女子全員が悲鳴をあげ、悠介はそれを見て笑っていた。気がついたら縁がいなくなっており、縁のいた場所には黒髪で赤眼を輝かせた少女がいた。その少女が何かを呟いた瞬間、視界が真っ白になり気がつけばこの場所にいた。整理は一応できた。全員無事なのか?あの少女は誰なのか?みんな何処にいるのかなど、疑問が多々浮かんだ。

ただ、これは悠介の心を盛り上げる要因にもなった。これは──────

「怪奇現象だあああ!!!!」

まあ間違いではない。唐突に消えた縁に、唐突に現れた少女。その少女が呟いた瞬間に、視界が真っ白になり角楼屋敷の一室と思われる書庫に飛ばされた。それに、そもそも女子陣にドッキリをする前、扉が開かなかったのは、悠介や光の仕業では無かった。元々閉じ込めるつもりも無かったし、ドッキリが終わればさっさと帰るつもりでいた。今思えば、玄関の鍵が閉まったのも、さっきの少女の幽霊の仕業に違いない。

そう思考を回していた。

「…って…何考えてんだ俺…みんな無事かも分からないのに…」

高揚していた感情を抑え、冷静に考えた。もしここが角楼屋敷の中であるならば、他の4人もこの屋敷の中にいると考えていいだろう。まあ全員が角楼屋敷の各部屋に飛ばされた保証も無い訳だが、取り敢えずみんなが無事である事を祈った。

悠介は書庫を探索した。と言っても、ほとんど歩いてるだけに等しかった。古本が並んでいる棚は、もはや何の本なのか分からないし分かる気もしなかったと言うので、見渡すだけでほとんど無視していた。古本が並んでいる棚と棚の間を歩く。その棚も連れ連れと並んでいた。が、どの本棚も、悠介の気を引かなかった。どの本棚も光景が一緒で、もはや見飽きていた。

「…なんも無いか。一旦部屋を出るか」

現状理解はまだ足りていなかった。ここが角楼屋敷なのかすら怪しいのであるし、もしここが角楼屋敷なのであれば、他の4人と合流する事が出来る可能性がある。出ない手はなかった。

書庫の中の通った道を振り返った。途端。

──────人がいた。

いや、人でないのかもしれない。先程悠介が通り過ぎた1番最初の本棚の目の前で、直立していた。

「…!?人…?」

その"人"と思わしき者は、直立していた。"それ"は、体躯の良い体に、白髪であった。"それ"を認識した悠介は1歩下がった。理由は。

──────目がなかった。

瞳が、真っ黒い何かだった。白髪とは相対して真っ黒だった。4番目の本棚に隠れた。少しだけ顔を出し、"それ"の様子を伺う。

"それ"は、1冊の本を手にしていた。すると、一言4番目の本棚にいる悠介でさえ聞こえる声で言った。


──────アレクシア…様…。




光は、躊躇いなくボタンを押した。一瞬明が「えっ」と声を出したが、気にしなかった。赤いボタンは点灯を始め、薬棚がボタンを中心に2つに裂け始めた。

「えええ〜…。」

明は驚きを隠せない。

「これは……


──────地下?」

見て頂きありがとうございます。遅くなり申し訳ありません。これからも投稿していきますので応援の程よろしくお願いします。

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