第8話 マジェスティックトウェルブ
報告書
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アイズオンリー
(1)注意事項
この文書は本日の報告会が終了次第自動で破棄されます。ゾハル・シモンズ・枢木殿に向けた簡易的な説明資料であり、デトレフ・ブロンク博士によって作成されました。
この資料には合衆国の最高機密に属する情報が多数記されています。この機密が解除されることは未来永劫ありません。合衆国大統領、最高裁判所、連邦議会であってもこの機密を公開する権限を持ちません。
この機密はマジェスティックトウェルブ(以下MJ12)のメンバーにのみ閲覧の権限が与えられ、合衆国に複数設置されている会合場所でのみ専用デジタル端末を使用した閲覧が可能です。会合が終了した時点でこのデータは端末上から自動で廃棄されます。データの本体は特殊な伝送制御プロトコルでしかアクセス出来ない完全隔離された深層領域に保存されており、MJ12メンバーの三分の二の生体認証による同時アクセスによってのみ情報を引き出すことが可能です。
以下の概要は第八空軍司令官ロジャー・レイミー准将による報告書から引用されたものです。
(2)事件概要
1947年6月4日、ニューメキシコ州アラモゴード陸軍基地の西十七マイルの地点に未確認の飛行物体が墜落した。基地のレーダーには墜落の一五秒前に突然現れた為、空軍のスクランブル出動は不可能だった。
墜落地点はニューメキシコ州コロナ近郊にあるウィリアム・ブレイゼルが所有する牧場内で、数エーカーの範囲にわたって未知の飛行物体と思われる残骸が散乱していた。回収が大規模であることを把握した発見者のジョージ・ウィルコックスは、第八空軍第五百九爆撃航空群の拠点であるロズウェル陸軍基地に連絡し、ジェシー・マーセル少佐に回収を移管した。
陸軍のプレスリリースは、残骸の出自と目的を隠蔽するために、通常の気象観測用の気球が墜落したものとし、発見者のジョージ・ウィルコックスがアルミ箔の気球部分を手にした写真を報道機関に提出してこれ以上の詮索はしないように促した。
(3)回収物詳細
(a)飛行物体の外装の金属(不明な素材)
(b)飛行物体に使用されていたと思われる回路(ほとんど原型を留めておらず動作原理不明)
(c)可燃性のフィルム(大部分が消失)
(d)不燃性の金属箔(素材不明。強力な弾力性有り)
(e)炭素成分ベースの生命体の遺体四体
(f)珪素ベースの生命体と思われる遺体一体
回収された残骸は米国科学アカデミーによって分析されたが、そのほとんどは未知のテクノロジーで構成されており、損傷が酷いこともあって全く機能しない状況だった。その後七年間分析は続けたが、解析には至らなかった。
その後、私(注釈:レイミー准将)により、第三十三代合衆国大統領ハリー・トルーマンにこの件を報告、事態を重く見た大統領は緊急対策委員会を秘密裏に設置するという進言を受け入れて、選ばれた一二人による超法規的組織「マジェスティックトゥエルブ(以下MJ12)」を設立した。
(4)MJ12設立後
1953年1月20日、トルーマン大統領が任期満了。MJ12委員会は後任のドワイト・アイゼンハワーには詳細を知らせることを拒否。大統領交代の度に重大機密開示の危険性を排除したかったため。
1953年8月20日にオハイオ州の電波望遠鏡がとらえたシグナルに地球外生命体のメッセージらしきものを確認。メッセージは地球の言語でも解析可能な文字列であったため、同じ文字列を元の周波数で、今度は英語にて返信した。同日中に今度は英語にて返信があった。内容は以下の通り。
「ワレワレハキミタチニアウジュンビガアル」
1954年2月20日、異星人側とのファーストコンタクトはカリフォルニア州ランカスターのエドワーズ空軍基地にて行われた。合衆国側の人員はエドワーズ空軍基地の最小限の機密を守れる者とMJ12メンバー、異星人側は彼らが送ってきた全権大使一人のみ。自らを月棲獣と名乗り、個人を表す名はないのだという。便宜上合衆国の方で「クリル」という名前をつけた。なお、「月」が何を表しているのかは不明。回答なし。
(5)会談の内容
クリルによる彼らの状況説明
(a)月棲獣は長命種だが、生殖能力を失っており、地球人との遺伝子交配で種の存続を望んでいる。牛などの哺乳類を使用しての遺伝子実験も要求。
(b)これに代わり合衆国はクリルを通して高度な科学技術の一部の供与を受ける。
(c)合衆国はクリル以外からの地球外生命体からの異星人の侵入に対し防衛を引き受け、クリル以外の異星人とは接触をしない。
(d)地球人および月棲獣の遺伝子配合実験により、新たな生命を生み出すために、クリルたちが所有している植民惑星「セルポ」での無期限実験計画の提示。
MJ12はクリルの要求を受け入れ、彼らとの定期的なコンタクトを要求。しかし、地球人類と月棲獣の寿命の差により時間に対する感覚が著しく異なっているため、「定期的」という面では交渉がまとまらず、基本的にはクリル側からコンタクトをする旨で合意。よって、クリルからの連絡の間隔は数年単位に及ぶこともあり、当初考えていたほどの利益は得られていない。
以上
ゾハル・シモンズ・枢木は、手渡されたタブレットでその機密書類を確認した。正直言ってこの場にいなければ与太話と切って捨てるような内容だ。だが、いま自分がいるのは誰もその存在を知らない「カントリークラブ」の地下深くで行われているMJ12の秘密会合の場に他ならない。そして、ゾハルが目を通し終わったのを確認して、巨大なモニターの前にいる人物が話し始めた。現合衆国国防長官ジェームズ・フォレストである。
「それでは、本日の会合を始める」
そう言って、ここ十年にわたってクリルからのコンタクトがないこと。他国に別の地球外生命体が接触している痕跡がないこと、そして、合衆国内外で起きた奇妙な事件、その中でも常識では説明がつかない事件の概要が述べられ、一部の例外以外ではその原因はカルトに堕ちた人間やテロ組織の犯行であることなどが語られた。話を聞きながらゾハルは周囲を軽く見渡した。そこにいたのはCIAの長官やら軍部の大将やら米国天文学会会長やらMITの学長やら錚々たるメンバーである。これが現在のMJ12のメンバーかと改めて感心した。
「ここまでなら通常の会合と何ら変わらない。だが諸君、今回は一味違うぞ」
フォレスト国防長官がそう言ったすぐ後で、またタブレットに新たな書類が転送されてきた。先日ゾハルがデトレフ・ブロンク博士に提出した「脳缶」の資料だ。早くも成分分析が行われている。だが、ゾハルが思っていたよりもずっと簡素な内容に疑問を抱いた。そうして顔を上げるとフォレスト国防長官は続けた。
「この資料は会合の冒頭に紹介した新たな仲間ゾハル・シモンズ・枢木くんからもたらされたのだが、ここにある謎の金属で作成された脳缶という物体はとても興味深い。だが、もっと重要なことは、この脳缶を作成した者たちが高度な知識を有しており、尚且つ程度の差はあるが意思の疎通が可能だという点だ。これは、我々が宇宙全権大使クリル頼みだったここ数十年以上の無為な月日を一気にひっくり返すことのできる可能性を秘めている」
その言葉を聞いてゾハルは理解した。どうして自分のような魔術師という怪しい出自を持つ人間を、このような重大機密を取り扱う組織に招き入れたのか… つまりは新たな交渉役が欲しいという事だ。ゾハルは脳缶を手に入れるためにミ=ゴと接触している。半ば強引な形とはいえ、脳缶を手に入れることに成功している。混乱の最中脳缶の蓋部分はおそらく研究室に置き去りにしてしまったが、とにかく長年の研究の成果もあって神話生物とコンタクトを取ることに成功したのだ。クリルの時間感覚に煮湯を飲まされ続けてきたMJ12にとって、今回の信用ならない若造のもたらした情報はまさに渡りに船。科学アカデミーの分析結果も通常地球にあるような物質ではないというものだった為、金属の研究を進めるよりも新たなテクノロジーをもたらしてくれる存在に比重を移していくと判断したのもわからないでもない。そして、それそのものがゾハルのMJ12における立場をある程度保証してくれる事にも繋がるのだ。まさに暁光であった。
「ではゾハルくん。我々の新たなパートナーであり、重要な役目を担ってくれる君の言葉を聞こうではないか」
フォレスト国防長官に促されてMJ12のメンバーの前へと立った。
ゾハルは珍しく武者震いするような感覚を覚えた。そう、ついに自らの野望を叶える時が来たのだ。




