結婚初夜に「あなたを愛することはありませんわ」と言い放たれたので、女王陛下の血筋を明らかにして差し上げた
「今日からあなたが私の夫なのね、ロベルト」
「はい、王女様……いえ、女王陛下」
継承権第一位であられたスタリー王女様は、ハッレー公爵家次男である、私ロベルトと結婚することで、女王陛下となられた。
民衆、そして貴族たちの前で永遠の愛を誓い、初夜を迎えるために挨拶を交わしているところである。
私の寝室と扉で繋がっている女王陛下の寝室に呼ばれた。女王陛下はベッドに腰掛けており、私は私の部屋との間の扉の近くに跪いている。周りを見渡すと、女王陛下の寝室のあまりの絢爛さに言葉を失いそうだ。
我が家もかなり豪華な作りをしているが、どちらかというと質実剛健であり、女王の寝室のように絵画が飾られていたり、金糸で縫われた様々な装飾品などない。また、この部屋は、女性らしい華やかさも兼ね備えているのだ。
「ねぇ、ロベルト。私は美しいかしら?」
「はい、女王陛下。星屑を集めたような輝く髪に、エメラルドのような瞳、絵画のように抜群のスタイル、左右のバランスが対称で黄金比に配置されたお顔は、この国の全ての者が憧れる美しさです」
突然何を言い出したのかと思ったが、女心とはそのようなものなのであろう。実際、女王陛下はこの国で右に出る者はいない美しさであった。
ただただ整ったお顔をしていらっしゃる、前国王陛下とは違う種類の美しさではあるが、その美しさは、女王陛下の母君であられる、王妃陛下の美しさに大変似ている。
「そんな私を妻とできて幸せ?」
「えぇ、もちろんです」
“この世界でなくてこの国で、なのかしら?”と聞かれなくて、ほっとため息を吐いた。私はこの世界で一番美しい女性を知っているから、嘘をつくことはできない。
ただ、女王陛下のように美しい女性を妻とできるなんて、私はなんて恵まれているのだろう。半年前に婚約者となってから今までの間、お互い急ピッチの結婚準備で忙しかったために交流もなかったが、慈愛に満ちた素晴らしい女性だとも聞き及んでいる。
「ただ、私の心はあなたには奪えないわ。私の心はすでに囚われているもの」
「……どういう意味でしょうか?」
突然の女王陛下のセリフに疑問を抱く。確かに、女王陛下ほどの女性の心は、私如きでは奪うことはできないだろう。しかし、夫婦として相手や想い合って共に生きていく上で、心を割いていくべきではないだろうか。
そう思っていると、女王陛下は突然立ち上がってベルを取った。
「入っていらっしゃい。フィルス」
女王陛下の声に従った、一人の男性が寝室に入ってきた。見目麗しいその男性は見覚えがあった。確か女王陛下の専属護衛騎士だ。彼が今何の用であろう?と思って見つめていると、護衛騎士ではあり得ない距離まで女王陛下に近づいた。思わず、私は声をかけようとすると、女王陛下は信じられない行動をとった。
「ねぇ、フィルス。あなたに会えなくて寂しかったわ」
そう言いながら、その護衛騎士に抱きついたのだ。先ほどまで浮かべていた表情とは全く違う女性らしさの溢れる顔であった。
「女王陛下……」
「フィルス。女王陛下なんて他人行儀に呼ばないで? いつものように、スタリーって呼んで?」
「はい。スタリー様」
いったい私は何を見せられているのだろう、と思いつつ、言葉を失ってその光景を見つめていると、女王陛下はおっしゃったのだった。
「私の心は、このフィルスのものよ」
「……女王陛下。しかし、あなたが女王たるのは、私との婚姻が理由とのことお忘れではないでしょうか?」
「覚えているわ。あなたの実家の後見を得て、ということでしょう?」
「いえ、そうでは、」
「いいわ。たまにはあなたと夫婦の義務を果たしましょう」
「スタリー様。フィルス以外と触れ合わないでください」
「まぁ。愛しいフィルス。仕方ないのよ」
そう笑い合いながら、寝室でいちゃつき始めた二人を放置して、私は抜け出した。事態を説明するために、だ。
「どういうことなの!? 私の娘が女王の座からおろされるなんて! 許されないわよ!」
私の執務室に文句を言いにきた前王妃。そんな彼女に冷たく言い返す。
「理由は、誰よりもあなたがご存知でしょう。彼女は私ではなく、護衛騎士と夫婦生活をしたいそうですよ」
「……な! 王の浮気なんて、勲章みたいなものじゃない! 私だって耐えたわよ! それに、あなたと子をなして正式な王の血筋を残しさえすればいいじゃないの!」
「それがもう、不明瞭になってしまったのですよ。では、女王陛下に説明しに行って参ります。あぁ、次期国王は王配として臨時で私がすることになりましたので、よろしくお願いします。まぁ、前国王と隠居していてくださいね」
「な!?」
絶句する前王妃を捨て置き、女王陛下の元に向かった。
「ねぇ、フィルス?」
「はい。スタリー様」
「失礼いたします。あぁ、ちょうどよかった二人でいちゃこらしていらしたのですね」
「なによ! 失礼よ! 女王の寝室に無断で入るなんて!」
「あぁ、これから私の寝室になりますので。女王陛下。事前に説明した通り、あなたが女王として王位を継承するのは、私との結婚を条件に、とのことでした。しかし、あなたは男妾をそばに置き、正式な王の血筋を残そうとしなかった」
「それは、あなたの実家が後見になるという意味でしょう? しかも、私の子という時点で正式な王の血筋じゃない」
「いえ、あなたの血筋は、前王妃の浮気相手の男爵令息……まぁ、今は国外にいらっしゃるので元男爵令息ですね。彼と前王妃の血であって、王家の血は一滴も混ざっておりません」
「え……?」
「前国王、前王妃に大人しく地位を退いてもらうために、あなたには真実を伏せるとお約束したのですが、仕方ありません」
「でも、あなたにも王家の血は…?」
「お忘れですか? 我が母は、前国王の妹君です。つまり、継承権は第二位。しかし、公爵夫人という立場、同様に兄も次期公爵という立場です。そのため、継承権第四位の私が王配となり、王家の血を繋ごうという意味の婚姻だったのです」
「え……」
「ということで、女王陛下には退位していただきます。そして、私が王配として、また継承権第四位として、繋ぎ的立場で王位を継承させていただきます」
騎士たちに指示を出し、前王妃と元女王陛下、そしてその男妾を追い出しました。
前国王との約束を守って、一つだけ元女王陛下に嘘をつきました。
確かに、私は継承権第四位とされております。しかし、実際は、前国王が手を出した、とある女性を母としております。公爵家の両親は育ての親であって、血のつながりはありません。我が母は産後の肥立が悪く亡くなっておりますが、実際には私が前国王の長子。本当の継承権第一位は私なのです。
ちなみに、前国王が我が母と関係を進めるにつれ、前王妃は精神的に病んでしまい、その結果、浮気に走り、元女王陛下が生まれました。本来、前王妃の責任を問うところですが、自分が二人の女性を苦しめたことを反省した前国王が、我が公爵家の血筋の者と婚姻を結ぶことを条件に、前女王陛下の継承権を認め、全てを隠し通すこととなったのです。
「国王陛下……」
「あぁ。書類だね。ありがとう。マリタリア」
「こちらの嘆願には目を通された方がいいかと思います」
本当は王位を継承する予定のなかったロベルトは、持ち前の知性を生かし、国をより発展させたのでした。また、その横には幼馴染である伯爵令嬢が共におり、その子どもがまた平和な世界を作り上げていったそうです。