~らのべ日本昔ばなし・赤鬼と青鬼の過去話~
むかしむかしあるところに、とある保育園がありました。
その保育園には大変見目麗しい一人の娘さんが通っておりました。名前を桃喜多香奈子ちゃんと言います。そんな香奈子ちゃんのあまりのプリチーな姿に、常人ならばついつい誘拐したい衝動に駆られちゃうくらいには愛くるしい容姿なのでした。このまま順調に成長を続ければ、将来は漫画やアニメでしか拝めないレベルの、黒髪ロングが似合う超絶美少女となる事請け合いですぜ皆様。
また、同じ保育園には、眞田蘭丸ちゃんと綾小路響輝ちゃんと言う二人の男の子も通っていました。
この頃より、もう仲が良かった蘭丸ちゃんと響輝ちゃんの二人は、この世のものとは思えない香奈子ちゃんの愛らしさに引き寄せられ、一緒に遊ぶ為にお声掛けをしたのでした。
勿論、心優しき香奈子ちゃんは快く承諾し、三人は仲良くおままごとをして遊んでいたのでした。
所がそこへ、意地悪な他の男の子達がやって来て、有ろう事か「男と女が一緒に遊んでいるなんて卑猥だぞ」とからかったのです。
しかし、この頃の蘭丸ちゃんと響輝ちゃんは、まだ喧嘩の一つもした事が無く、その男の子達の言葉による暴力に屈してしまい、二人とも泣き出してしまうのでした。
ですが、香奈子ちゃんだけは違いました。その揶揄って来た男の子達を、見るも無残な半殺しの刑に処してしまいます。
実を言うと香奈子ちゃんのお家はゴリゴリの格闘一家の家系でして、当の香奈子ちゃんも、既にこの時点で大人顔負けの腕っぷしを誇っていたのです。
そんな香奈子ちゃんの圧倒的な強さに、蘭丸ちゃんと響輝ちゃんは甚く感動し、併せて強い憧れを抱いてしまったのです。
そこで蘭丸ちゃんは「きっと香奈子ちゃんの強さの秘密は、香奈子ちゃんの女の子然とした服装なんだよー」と結論付けるのでした。そして「明日からは自分達も香奈子ちゃんみたいな恰好をして保育園に行こうよー」と、蘭丸ちゃんは響輝ちゃんに提案を致します。
はい、ご覧の通り、蘭丸ちゃんは随分とお馬鹿なお子ちゃまだったのです。かてて加えて、不幸にもこの頃は響輝ちゃんまでも、そこまで賢くはなかったのですね。
当り前の事ですけれども、香奈子ちゃんの強さの秘密はおべべの違いではありません。しかし、思い込みのパワーを見くびってはなりません。この思い込みが身体や実力に影響を及ぼし、何らかの改善がみられる現象をプラシーボ効果と言います。製薬会社などが行う新薬の【臨床試験】で採用されているくらい実績があるものです。要は思い込みを舐めるなって事ですね。これが幼少期ならば尚更ってな話ですよ。
ですので、蘭丸ちゃんよりもちょっぴり精神年齢が大人な筈の響輝ちゃんでさえも、全力で共に女装をする事に乗っかってしまい、剰え件のプラシーボ効果にバッチリやられてしまうのでした。そう言った訳で、蘭丸ちゃんも響輝ちゃんも真に女装が好きになってしまうまで、そう時間を要さなかったってな感じなのです。
ええ、そうなんです。人格の土台は幼少期によって決まってしまうと言われています。正にこの時、蘭丸ちゃんと響輝ちゃんの概ねの人格形成が固まったと言っても過言ではないのです。
かくしてこの日を境に、蘭丸ちゃんと響輝ちゃんの二人は女装で日常生活を送る様になったのです。そんなで、香奈子ちゃんも二人の似合い過ぎる女装をとても絶賛したのが後押しとなり、更に二人は調子をぶっこいて、女装にのめり込んでいくのでした。
それからも三人は常に一緒に居る様になり、この時期から自然と香奈子ちゃんから武術の基礎も教えてもらう蘭丸ちゃんと響輝ちゃんなのでした。そう、香奈子ちゃんは蘭丸ちゃんと響輝ちゃんのお友達でもあり、同時に武術のお師匠様でもある訳ですね。
そんな中、香奈子ちゃんの思い付きにより、腕試しと称して隣町の保育園などに三人して喧嘩を売りに行ったりしまして、レベルアップを図ったりしておりました。迷惑な話です。これらの経験が、正に蘭丸ちゃんと響輝ちゃんに喧嘩の楽しさを教えてしまった事実です。幼少期の体験が将来に影響を及ぼす事は多々ありますからね。誠にもって迷惑な話です。
ところがどっこい、三人での楽しい生活は、小学校に上がる前に終わりを告げてしまいます。
ある日に香奈子ちゃんは、蘭丸ちゃんと響輝ちゃんにこう告げたのです。「私より強い奴に会いに行く」と。「……そんな某有名格闘ゲームのキャッチフレーズみたいな……それって一体どう言う事なの?」と、蘭丸ちゃんと響輝ちゃんは香奈子ちゃんに問いただします。
すると、御存知の通り香奈子ちゃんのお家はゴリゴリの格闘一家の家系だと申しました。これから成長するにつれて、周囲に舐められない肉体とメンタルを鍛える為の武者修行が、この家系代々の通過儀礼となっておるのです。その為に香奈子ちゃんは、単身で全世界を回る旅に出なければならないと言う事でした。
そんなこんなで、香奈子ちゃんとのお別れの日です。蘭丸ちゃんと響輝ちゃんは「自分達も、ここ地元で喧嘩最強になっておくね。いつの日か香奈子ちゃんがこの街に帰って来た暁には、三人でここいら全土を牛耳ろうよ」と香奈子ちゃんと共に誓い合います。子供の頃の他愛ない戯言とは言え、マジ迷惑な話だなオイ。
こうして香奈子ちゃんは海外へと旅立ち、小・中学校は別々となってしまいましたが、今やネットを通じて世界中どこでも繋がれる便利な時代です。ずっと三人は連絡を取り合っていましたので、どこぞの薄っぺらな映画やらドラマみたく「再会しても幼少期の記憶がない」みたいな愚行はあり得ない事なのでした。
結局、次に香奈子ちゃんが地元へと帰還致しましたのは、三人が高校生となってからでした。それでいて、帰国してからもちょいちょい三人で会って遊んでいる間柄なのです。
ちなみに蘭丸ちゃんと響輝ちゃんですが、香奈子ちゃんとの約束をきっちりと守り、小・中学校とバトルの日々は継続致しまして、喧嘩最強伝説が広まっていきます。この間の無敗の噂が、あることないことを含めて広く轟き、「赤鬼&青鬼コンビ」の名はレジェンド級となっていく訳なのですね。
ですが、三人の中心人物であった豪胆な香奈子ちゃんが不在となってからは、蘭丸ちゃんと響輝ちゃんの両者共々、その実大いに心細くなってしまっていたのです。なので女装をするのも若干恥ずかしくなっており、一旦は女装を封印してしまいます。そう、飽くまで女装は蘭丸ちゃんと響輝ちゃんの二人だけで、こっそりと楽しむ趣味の程度と化していたのです。
勿論、蘭丸ちゃんも響輝ちゃんも、お洒落をするのならば、洋服やアクセサリーにしても、圧倒的に女の子の方がアイテムが多い事も理解しています。しかしながら、喧嘩が強い男と言えばヤンキーファッションと言う固定概念が、蘭丸ちゃんと響輝ちゃんに根強く植え付けられていたのです。特に我が国・日本では、数多くのヤンキー漫画が大ヒットを飛ばしていたりしますからね。
しかれども、二人が香奈子ちゃんとリアルで再会した際に「え? 女装は辞めちゃったの? とっても似合っていたのに勿体ない。併せて昨今は多様性の時代よ。特に外国ではそんなの気にもしないし、恥ずかしがる事なぞ何も無いわ」との香奈子ちゃんの助言によりて、蘭丸ちゃんと響輝ちゃんはハッと気付かされるのです。更に更に香奈子ちゃんの追い打ち口撃にて「それに、一体全体誰が決めたのよ、そんな生き方。らしくないわ。やりたい事を貫く力……それこそが強さなのよ!」←(異世界〇じさんのアニメに丁度ドハマりした時期です。オープニング主題歌の歌詞を参照のこと)で、すっかり蘭丸ちゃんと響輝ちゃんは覚醒致します。そんなんで、世間体を気にして小ぢんまりと収まっていた自分達を恥じるのでした。
そこで、高校入学と同時に原点回帰し、再び女装で日常生活を送る蘭丸ちゃんと響輝ちゃんなのでありまする。
そう、女装を通してある種の高校デビューを果たす「赤鬼&青鬼コンビ」なのでありましたとさ。めでたし、めでたし。