6.アタオカ息子登場
自分に似ているものに、複雑な感情を抱くのは人間だけではないはずだ。
小生のようなユニコーンもまた、自分の息子や娘に対して思うところがあるものである。例えば、ユニコーンという種族は、高慢で暴力的と言われることが多い。
その自分の短所を受け継ぎやすい仔ユニコーンを見て、親はいつも嘆くのである。
ああ、どうしてこの仔は、こんな高慢ちきになってしまったのだろう。これが、一般的な親ユニコーンの嘆きの言葉である。
小生の息子はとりあえず高慢に育つことはなかった。それは親としても嬉しい限りである。ただ、小生ことファルシオンとしては、別の点がものすごーく気になるのだ。
こうやって現実逃避をしていた小生だが、エマの指先を見ないわけにはいかなかった。
そっと後ろを振り返ると、黄色い角と立派な翼を持つ艶のある黒毛の若馬が立っている。
『やあ、お父さん』
コイツこそ、小生ことファルシオンの血を斜め上に進化させた次世代ユニコーン。18番目の仔グラディウスである。
『この女の人が、次のお父さんのお嫁さん候補か……』
グラディウスは早速、物色をはじめた。
『かなり心が澄んでいる人だね。次に生まれ変わるときには、このおねーさんから生まれてくるのも理想的だ!』
グラディは輪廻転生思想を持つツーノッパ地域では珍しいユニコーンであり、次はどの女性から生まれ落ちるのかを妄想し、勝手に喜んでいる上級者的な性癖を持つ。
さすがは我が息子にして、2代目アタオカユニコーンの筆頭候補である。
「か、変わった息子さん……ですね」
『な、なにをしに来た?』
そう質問すると、グラディは笑った。
『いやだな~ お父さんが海賊になると聞いたから、親孝行しに来たに決まってるじゃないか。この愚生も父と共に世界を股にかけて見聞を広め……世界に名だたる一角獣になる!』
『お前は今すぐ戻って、お母さん孝行してきなさい!』
『残念ながらお母さんは、別の牡ユニコーンとくっついたよ。まあ……世の中は世知辛いものだよ』
『お前に……人生訓を諭されたくない』
小生は妻が取られた悔しさに震えていると、息子は言った。
『ああそうそう。来る途中で船旅に詳しい人がいたから、航行術についていろいろと教わってきたよ。天体と器具を用いて現在地を知る方法とか、海流の種類とか……』
さすがはグラディ。なかなか要領がいいものだ。
『ほう。さすがに手際がいいな……その者にお父さんも教わりたいものだ』
『ああ、兵舎に投げ落としてきたから、今頃は縄を括り付けられていると思うよ。何せ孤児院を襲って弱い者いじめをしているヤツだったからね。やられたらどんな気持ちになるのか実体験してもらうべきでしょ?』
息子の身体から血の臭いが全然しないところが怖い。一体、何をしたんだコイツは……。
グラディウスは、知的な表情でこちらを見た。
『あとお父さん。船員を募集しているというから、愚生からも3人ばかり紹介したい人がいるんだ』
『それは助かる! して、その者とは?』
グラディウスが口笛を吹くと、建物の上から3人の天使娘……もとい有翼人たちが舞い降りてきた。性別は全員が女性で、背格好や匂いが似ているため姉妹なのではないかと思えた。
「高原の国からやってきた3姉妹……長女、長弓のレオニー」
「同じく次女。槍のラウラ」
「末女。杖のカミール!」
こいつらは名乗ると同時に左右対称のポーズを決め、グラディウスも得意げに角を光らせていた。
「名付けて、グラディウス軍団!」
個々の能力を見るとなかなかに優秀だし、全員が美女というグラディウスの手腕を体現したような3人娘であるが、ポーズを決められると、なんというか……こう。
『どう、お父さんも次に生まれるとき……この子たちの誰かから生まれて来たいと思った?』
そのやり取りを見ていたエマとレンチはクスッと噴き出すように笑い、小生は恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になっていく。
『このアホ息子が!』
グラディウスはとても優秀だし何かと機転も利く男である。だからこそ、この変な性癖が気になって仕方ない。一体どうすればコイツの残念なところは治るのだろう?
『とにかく、次の仲間と船を見つけるぞ』
『うん! みんな……行くよ!』
【グラディウスの挨拶】
ここまで読んでくれてありがとう!
お父さんは早くも悩んでいるみたいだけど、残念ながら愚生の性癖は治らないんだなぁ。
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関係ないけど、お父さんは左利き、愚生も左利き。
両親がともに左利きでも、右利きの子供が生まれる確率は……6割(※諸説あります)くらいあるらしいよ。不思議だよね。