2.死亡フラグだらけの賊たち
遺跡から出ると、すぐにエマニュエルは話しかけてきた。
「さて、キャプテンファル……早速ですが、どれくらいの規模の海賊団を作るのでしょうか?」
なんだか秘書みたいだと思いながら、小生は答えた。
『そうだな。船員は相手の都合もあるから、まずは海賊船の動力からだな』
動力という言葉を聞いたエマは意外そうな顔をしていた。角が生えているとはいえ、こんなウマが動力を気にしているとは思わなかったのだろう。
表から、男の笑い声が聞こえてきたので、小生は赤い角を魔法で隠した。
遺跡の出口には、ごろつきと思しき武装した男たちがいる。
数は6人ほどで、そのうちの2人は、後ろ手縛りにされた村娘たちを暴行しており、かなり悪質だ。
『…………』
確認してみると、ならず者たちの魂は捨て置けないレベルで汚れていた。
帝都の下水道の汚水を濃縮したかのような瘴気が体中から湧き出ている。凶悪犯罪を幾つも犯さないと、ここまで汚れ切った魂にはならない。
エマに止まる様子がなかったので付き合うと、ならず者の一人が声をかけてきた。
「おい、止まれよお嬢ちゃん」
話しかけられたエマは、目を細めながら言った。
「何か御用ですか?」
「決まってるじゃねえか。大人しく俺たちに捕まればいいんだよ。そこの女どもみたいにな!」
男たちはそう言いながらゲラゲラと笑うと、剣や槍を手に取った。
「ついでに、お供のお馬さんも頂いていくぜ」
「飛んで火にいる何とやらってやつだ!」
その言葉を聞いたエマは十字を切ってから言った。
「神よ……どうかこの者たちに、人としての心をお与えください」
「言うに事欠いて神頼みか……傑作だな!」
「信心深いお嬢さんだぜ」
エマの態度は毅然としていた。武装した男たち数人で睨みつけられても、物怖じ一つせずに睨み返している。魔王に捕まっていた時に比べれば、この程度のことは大した問題ではないのだろう。
遂に痺れを切らしたらしく、賊の1人は大声で叫んだ。
「さっさと這いつくばれ、おらァ!」
ならず者がエマに掴みかかろうとしたので、小生はならず者の顔面に蹄をめり込ませた。歯が何本か折れたらしく、白いものが飛びながら血を噴き出し、木の幹に突っ込んでいた。
「あべぐぼ!?」
小生が尊重するのは普通の人までである。凶悪犯罪者に人権などない。
「こ、このウマぁ!」
近くにいた2人が剣を振り上げたが、はっきり言って角を現すまでもない。
軽く攻撃を交わすと2人目のアゴに膝蹴りを見舞い、3人目には素早く体を回転させてから、後ろ脚での回し蹴りを浴びせると、血を吐きながら頭から岩に突っ込んでいく。
「がらは!?」
「ぷきゅっ!?」
4人目は小生に向けて矢を放ってきたが軽く避けると、脚元に転がっていた石を蹴り上げて、顔面に命中させた。
「ぼぬご!」
攻撃を受けた4人目の弓使いは、崖から転落して川に落ちた。
『次!』
睨みつけると、残った賊2人は腰を引きながらも睨み返してきた。
「お、俺たちが死ぬワケねーだろ……」
「馬刺しにしてやる!」
5人目と6人目はショートスピアを構えて突きかかって来るが、こちらも生身のまま突進すると及び腰になり、そのまま当て身を浴びせると、崖を転げ落ちて川へと突っ込んだ。
「ぎゃあああああああああ!」
『魚のエサにでもなって、少しは世の中の役に立て……小悪党ども』
「す、凄い……!」
「強い!」
「それにかっこいい!」
エマや捕まっていた少女たちは、顔を赤らめながら小生を見ていた……が少し違う。小生が強いというより、相手のレベルがあまりに低すぎるのである。
『エマ……その少女たちをすぐに解放せよ』
エマはすぐに少女たちを縄から解き放つと、彼女たちは小生の前で十字を切ってから深々と頭を下げ、感謝の意を示した。
『ただの黒毛馬に、そこまでする必要はないだろう』
「そんなことはありませんよ。力を隠していても……キャプテンが情け深く、そして誰よりも強いことは我々にもわかるものですよ」
エマが言うと他の村娘たちも、そうそうと言いたそうに頷いていた。
幸いにも近くに村があるから、捕まっていた少女たちとはその場で別れることにした。しかし、最近の治安の悪さにも困ったものだ。
ため息をついていたら、エマが視線を上げた。
「そういえば……何の話をしていましたっけ?」
『……海賊船の動力の話ではなかったか?』
そう伝えると、エマはそうだったと言いたそうに頷いた。
「そうでしたね。何かお考えがあるのでしょうか?」
ちょうど、近くには遺跡に入る前に倒した車型ゴーレムがあるので、これの動力を利用できないか考えてみるとしよう。
幸いにも心強い助っ人も呼んでいることだし……
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