1 過去1
私には、嫌な過去がある。
簡単に分けると、それは二つだ。
一つは、施設を出て、
小学校に行くようになってから三年が経った、
あの日から始まった。
あの日、友達から誘いを受けた。
ある男子の家にみんなで集まり、
秘密の遊びをしようという。
なんだか楽しそうだ。
そう思って断らなかった。
その男子の家は大きな一軒家で、大部屋を一つ持っていた。
そして、親が午後5時を過ぎても家に帰ってこなかった。
つまり、秘密の集会をするのに適していたわけだ。
当然、親たちには内緒で行われた。
約20人はいた。
みな知っている友達だった。
私達は、まず、最初に、普通に遊んだ。
トランプを席に見立てたフルーツバスケット、
ハンカチ落とし、それから何かをした。
トランプもやった。
みんなで、ババ抜きをやった。
二枚しか持っていなかったけど、楽しくやれた。
ココで、最初の間違いが起きた。
皆が次の遊びは何にしようかと、円形に座っていた、
そこに、一人の男子が中央に現れた。
その男子は、この家の子だった。
「これを見てくれ、新品のトランプだ」
そう言って箱からスムーズにカードをとり出し、皆に見せつけた。
私を含む皆は、なにが始まるのだろうか、とワクワクしながら静観した。
近くにいた女子に、そのカードをシャッフルさせた。
今思うと、きっとその子が好きだったのだろう。
シャッフルさせたカードを手元に持ってきて、
見せびらかした。そして、こう言った。
「見てください、種も仕掛けもありませ~ん」
カードを裏にした。
それから、
「今から、カードを当てます。
すごいですよ。全部のカードを当てますよ」
カードを予想し、一枚ひっくり返した。
当たった。
次のカードを予想した。当たった。
次も当てた。
何度も当てるうちに、場は熱せられていった。
じっくり見てカードを当てる、
誰かが言った。
時を巻き戻しているんじゃないか。
そうだ。そうに違いない。
すごいっ、何回も巻き戻せるの。
いや、一回やって、全て覚えたんじゃないかな。
男子はその言葉にピクッと反応し、カードをめくるのをやめた。
そして言った子に近づき、「シャッフルしてみろ」と言って、
残ったカードをシャッフルさせた。
再び、カードを予想し、当てた。
やっぱり、何回も巻き戻しているのね。
そう言ったのは、最初にシャッフルした女子だった。
男子は得意げに顔を上げて、「すごいだろ」と言った。
みんなココで勘違いした。
実はこの男子は親から細工のされたトランプで、
カード予想をしていたのだ。
それなのに、私達は勘違いした。
噂で聞くようになった、"時を巻き戻せる"
それを重ね合わせたのだ。
その噂には、
何回でも時を戻せる。しかし、問題が起こる。
いや一度だけしか戻せない。むやみに使ってはいけない。
戻せない、そんなのは嘘だ。
といろいろ憶測も入っていた。
この話を、私の両親は、中学生になったら言おうとしていたらしい。
しかし、遅かった。
注意されていた子もいただろう、
しかし、そんな子は注意なれしていた子であり、
効果をなさなかった。
私達は、時を巻き戻せる。
そう、勘違いした。
男子はカッコを付けるためか、
間違いを正さなかった。
その男子がいた位置を始めとして、時計回りにゲームをしよう。
それは、時を巻き戻して遊ぶゲーム。
絶対勝つじゃんけん、くじを当てる人を当てる。
そんなことをした。
場は熱狂に包まれていて、
現況の男子でさえ抑える気はなかった。
時を巻き戻せるのは一度だけと言うのは、ガセだ。
なんてったって、自分たちは戻しているんだから、
かき消せない空気が浸透していた。
順調にゲームは進んでいた。
皆、独創的な発想で楽しませていた。
そんなとき、急に男子が、うわっ、うわっ、と言った。
どうしたのか。
男子の顔に怯えが張り付いていた。
不安がすぐ皆に波及した。
おいっ、どうしたんだよ。
そう呼びかけるものがいた。
状況に気づいていない眠そうな子もいた。
でも大半はビクビクとして、なにもできないでいる。
不安はまして、恐怖となった。
抑える人がいなかったからだろう。
そのうち、誰かが泣き出した。
泣き出したのにつられて、また泣き出した。
耐えている子もいたけれど、私は耐えられなくなった。
泣き出した。
またたく間に大合唱となった。
それは、近所に聞こえたようだ。
大人が家に飛んできた。
どうやって入ってきたのか、それは覚えていないが、
大人が多数、武器を持って入ってきた。
その大人に触発されて、泣いていない子は、
泣きつかれた子だけになった。
私は、よくわからないままに外に運び出され、
知らぬ間に、両親のもとにいた。
両親と一緒に家に帰った。
大忙しで、遠くに引っ越した。
そして、教えてくれた。
この世界の"時の巻き戻しについて"
引っ越した理由は、
このことを近所に知られたままではいられないからだった。
子供がこんなことをやらかした。
どんな災難が待っているかわかったものではない。
それは、家族全員に降りかかる可能性が高かった。
要するに、土地から逃げたのだ。
それからが私の嫌な過去となる。
移った学校で、すぐにバレた。
そして、社会の制裁の一端を受けた。
まず男子がちょっかいを掛け、
女子はそれを見て、好きな男子がやったからなのか嫉妬し、
女子から、無視を決め込まれた。
約半年間続いた陰湿なそれは、私に深い傷を負わして、終わった。
私は物静かに生きるようにした。
目立たず、絶対に再燃されることのないように。
家は毒の温床となった。
あなたは悪くないのよ。
母はそう言い、私を無意識に縛った。
そう、私が不幸をまとい続けた一端である。
嫌な過去は続いた。
図書室を訪れるようになってから、
私は第一の進化を遂げた。
本を友達とし、寂しさを感じず、暮らすことができた。
しかしその平穏な暮らしは、中学二年になった時に終わりを告げた。
第二の進化を告げるきっかけにもなる、
始まりは嫌な記憶。
私は橋場 瞳を恨んでいないし、むしろ感謝している。