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ひとまず一人立ちしたフィオの元に、受付のドニがやって来た。
「フィオ君! 助けて欲しいの!!!」
「え、助け? 何かあったんですか?」
「良いから、こっちに来て!!!」
腕を引かれて連れて行かれる。依頼の張られた掲示板の前に居たフィオは、ギルドの建物奥の部屋に連れて行かれる。
「な、何があったんですか!?」
まだ新米冒険者のフィオは、ギルドのこんな奥に入った事が無い。廊下に高そうなツボが置かれていて、ドキドキしてしまった。
ドニが、大きな扉の前で立ち止まる。
「フィオ君! これから見聞きする事は、絶対他の人に言っちゃダメだからね!!!」
「は、はい!」
ドニが部屋の鍵を開けて、フィオをさっと引き入れる。
「あーーーー! さっきより酷い事に!!!!」
部屋の中は、嵐が過ぎ去ったような有様だった。応接間の高そうなソファーにひっかき傷がいくつもついている。テーブルはひっくり返り、窓のカーテンは半ばからちぎられている。
「ど、どうしたんですかコレ……」
「あの子がやってのよ!」
ドニが指さしたのは、長ソファーの下である。フィオは体をかがめてソファーの下を見る。するとそこには、子供が居た。
黒髪で、雪のような白い肌をして、目は白と黒が反転している。目が合うと、シャー!!! と牙を剥いて威嚇された。
「あ、あの子、どうしたんですか……?」
「たぶん、記憶が無いみたいなのよね……」
「記憶が無い?」
「えぇ、『子供帰り』の呪いにかかると、だいたい記憶も当時に戻ってしまうらしくて……」
「呪い?」
「そう、ダンジョン内で、魔物にかけられちゃってね……」
「あの、待ってください」
「どうしたの?」
「もしかして彼は、元は大人なんですか?」
「そうよ」
「じゃあ、もしかして彼って……」
「アーヴィンドよ! アーヴィンドが、呪いで子供になっちゃの!!!」
フィオはしばらくその驚きの事実に思考が停止してしまった。
ダンジョンでは何が起きても不思議ではないと、聞かされていたが、よもや大人が子供になってしまうとは、思いもしなかった。
数秒茫然とした後で、フィオはドニを見た。
「アーヴィンドさんが、攻撃をくらう事なんてあるんですか……?」
「三日前に、『未階』に行ったのよ!」
『未階』とは、まだ誰も踏破していない、調査途中の階である。危険なので、Sランク冒険者のみが行う仕事である。
「パーティーを組んで行っていて幸いだったわ。六人メンバーの内、二人は呪いにかからなくて済んだの。それで、どうにか地上に戻って来れた」
「呪いを解く方法は無いんですか?」
「一番手っ取り早いのは、呪いをかけた魔物を殺す事よ! けど、未階の魔物だから難しいでしょうね……」
「それじゃ、アーヴィンドさんは一生このまま!?」
「そんな事はないわ! 呪いはだいたい、ひと月くらいで戻るの」
「あ、そうなんですか」
フィオはほっとする。
「けど、問題はその間、誰が彼を見ておくのかって事よ……」
ドニは、ソファの方を見る。警戒するアーヴィンドは出て来る気配は無い。
「孤児院に預けるとか……」
「こんな狂暴な子、無理よ。シスターがノイローゼになっちゃうわ」
「それじゃ、誰か彼の仲間に見て貰うとか……」
「アーヴィンドは基本一匹狼なの。今回パーティーを組んでくれたのも、かなりレアな事なのよ。彼を預かってくれる、親しい仲間なんていないわ」
ドニは悩まし気に、眉を寄せる。
「だからね……貴方にお願いしたいの」
「えっ」
「お願い、ひと月バディを組んで貰った恩を返すと思って引き受けて頂戴!!」
「え、えぇ……」
「ちゃんと仕事として依頼するわ! 報酬も払う!」
ドニが依頼用の紙を見せる。報酬額にフィオの目は吸い寄せられた。
(き、金貨三十枚!? 二年は働かずに暮らせる額じゃないか!)
それだけ、ギルドが子供のアーヴィンドの扱いに困っているというわけである。
「や、やります……」
「本当!?」
「はい……」
「ありがとう!!」
ドニは嬉しそうにフィオの手を握った。
ドニが去って行ったあと、フィオはひとまずソファの下のアーヴィンドに声をかけた。
「ねぇ、アーヴィンド……出て来ないかい」
出て来る様子はない。体をかがめて、ソファの下を覗き込む。
「おいで、怖い事はしないよ」
「シャーーーー!!!!」
手を伸ばしたら、ひっかかれた。
「いてっ!」
ひりひりする手を見る。
(俺、本当に面倒見れるんだろうか……)
つづく




