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フィオはアーヴィンドに担がれて、街に戻って来た。ギルドの医療室で治療を受けて、宿屋に帰った。魔法の治療を初めて受けたのだが、折れていたあばら骨は一晩でくっついてしまった。ただし、魔法で直した傷は痛みだけはしばらく残るらしい。なので、痛み止めの薬を出して処方して貰っている。
次の日、フィオは風封亭でアーヴィンドと会った。
「どうだ、冒険者止める気になったか?」
アーヴィンドは干し貝を食べながらニヤニヤと笑っている。
「全くないです!!!」
フィオは大声で言った。
「あぁ?」
「それより、俺、感動しちゃいました!! アーヴィンドさんって凄いんですね!!」
フィオは机から身を乗り出す。
「竜族が戦うとこ初めて見ました! あんなかっこよく変身しちゃうんなんて、ビックリしました!!」
「変身……」
「黒い鱗で体が覆われる奴です!」
「あれぐらい竜族なら、誰でも出来るだろ」
アーヴィンドは呆れたように言う。
「そうなんですか!?」
「そうだよ」
「けど、あの! かっこよかったです!」
フィオはあの時に受けた感動をどうにかアーヴィンドに伝えたかったが、うまく伝えられない。自分の語彙力の無さがもどかしくなった。
アーヴィンドがフィオをじっと睨んで来る。
「あう……」
鋭い目で睨まれると、さすがに委縮してしまう。
「怪我の具合はどうなんだ」
「あ、怪我は! この通り、もう完全に治りました! 痛みはありますけど!」
フィオは自分の胸を撫でる。
「そんじゃ、動いても大丈夫だな。ほら、訓練場に行くぞ」
アーヴィンドはテーブルに銀貨を置いたあと、店を出て行く。フィオもその後を追いかける。
「ま、待ってください!」
訓練場に着くと、アーヴィンドは教官と話をし始める。
「こいつを鍛えろ」
「アーヴィンド、また突然だなぁ。訓練は予約制なんだ、突然来られても見てやれないよ」
「次の予約はいつだ」
「ひと月先だよ」
「なんで、そんな先なんだよ」
「最近は冒険者になる子が多くてね。教官の数が追いつかないくらいだよ」
「チッ」
アーヴィンドは舌打ちをする。
「君はその子のサポート冒険者だろ。君がその子に、訓練を付けてあげると良いじゃないか」
アーヴィンドはイライラした様子で頭を掻く。
「くそっ……おい、行くぞ」
アーヴィンドが訓練場を出て行ったので、フィオも後を追いかけた。街中を歩き、街外れの人の少ない空地のような場所にたどり着く。
「おい、剣を構えろ」
「え、あ、はい!」
アーヴィンドが前方で構える。
「打ち込んで来い」
「えっ!?」
フィオが持っているのは真剣である。触れれば切れる。
「おまえなんかの剣で俺が怪我するわけねぇだろ! 早くしろ!!」
叫ばれて、フィオは慌てて走り出した。アーヴィンドを思いっきり切りつける。アーヴィンドは、腕に付けた防具で剣を受け止める。
「軽い!!!」
剣は、弾き返される。
「まずおまえに足りてないのは筋力だ! 筋トレしろ! 人間の軟弱な体で魔物と対峙しようと思うんなら、徹底的に鍛え抜け!」
「は、はい!!!」
アーヴィンドに提示された筋トレメニューは気が遠くなるような内容だったが、彼の言う事はもっともなので、フィオは死ぬ気でやる事にした。
(俺もいつかアーヴィンドさんみたいな、Sランク冒険者になるんだ!!!)
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毎日、必死で走り込みし、腕立て、腹筋、重量上げを行った。殆ど一日中筋トレしていて、夜になるとへとへとになってしまい、宿屋で気を失うように眠った。更に毎日五食たっぷりと飯を食わされた。
(は、吐きそう……!)
しかし、アーヴィンドが注文した料理をフィオは気合で飲み込み続けた。
そんな地獄のような特訓を三週間続けた。アーヴィンドはずっと着いているわけではなく、たまに様子を見に来るような感じだったが、フィオはそれでも十分嬉しかった。アーヴィンドの凄さがわかった今、彼が自分に一日数分でも時間を割いてくれるだけで嬉しかった。
そして、再び二人はダンジョンの二十五階にやって来た。ダンジョン内のボスは、日にちが経つと復活してしまうらしい。アーヴィンドが倒した、あの黒トカゲも復活していた。
大きなフロアをわが物顔でノシノシと歩く様子を見て、フィオは少し震えた。
「なに、ビビってるんだよ」
肘で小突かれる。
「だ、だって。魔物と対峙するの久しぶりだから!」
「死にそうになったらフォローしてやるから、行って来い」
背中を押し出される。
「わわっ!」
物音に気付いてトカゲがこちらを向いた。
(まずい!)
フィオは慌てて横に避けた。トカゲの吐いた炎が横をかすめる。
フィオはトカゲの背面に回り込む。
(やるぞ、やるぞ、やるぞ!!)
剣を振り上げ、この三週間の特訓の成果を全て叩き込んだ。
「たぁ!!!!」
フィオの剣はトカゲの胴体を切り落とした。
「!?」
三週間前は全く歯が立たなかった相手を、切り捨ててしまった事にフィオは驚く。
「ーーーーー!!!」
トカゲは呻き声を上げて、こと切れた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
フィオは驚いて自分の手を見た。
(う、嘘みたいだ……)
アーヴィンドが柱の陰から出て来て、歩いて来る。
「やるじゃねぇか」
頭をガシガシと撫でられた。
「え、えへへへ」
褒められた事が嬉し過ぎて、フィオは笑い続けた。
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先輩冒険者がサポートに着いてくれるのは、ひと月間だけである。
「今日までありがとうございました!」
風封亭でフィオは礼を言った。
「おう、これで面目躍如出来るぜ」
アーヴィンドは清々したと言う様子だった。
(本当はもっと一緒に居たかったけど……仕方ないよな……)
最後の夜を、フィオは名残惜しみながら過ごした。
つづく




