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しばらく、町の中を見て回って挨拶をした。顔を覚えて貰うのは、新人冒険者として必要な事である。合間に、小さなお使いもいくつかこなした。街に来たばかりの冒険者は金が無いので、こうして小さなお使いを依頼して駄賃をくれるらしい。村で稼いだ金はまだあったが、日々食事や宿代で減って行くので助かった。
アリーシアの街に滞在して一週間が経った。町の中のお使いをしつつ、俺は道場で剣の鍛錬を受けたり、ダンジョンについての講習を受けていた。いきなり新米冒険者をダンジョンに行かせるのは危険なので、前もって生き残る為の鍛錬と、ダンジョン内の知識を与える為の講習を行うらしい。以前はこんな事は行っていなかったそうだが、前途有望な冒険者が若くして知識不足が原因で死んで行くのを無くす為に行われるようになったそうだ。
そしてフィオは、ギルドに呼び出された。
「では、アーヴィンド。フィオの事を頼みますね」
受付のエルフの娘、ドニが微笑む。一方、彼女に微笑みを向けられたアーヴィンドと言う男は顔をしかめていた。
(う、わ、わ、わ!! 竜族だ!!)
竜族は珍しい種族である。北の極寒の大地や、南の灼熱の大地に住む種族で、滅多に人の前に出て来る事がない。
アーヴィンドは、驚く程白い肌をしていた。髪は黒色で、ぼさっと伸ばしているが、その野暮ったさがかっこいい。頭に二本の立派な黒い角が生え、腰辺りで太い尻尾がゆらゆらと揺れている。身長は高く、二メートルはあるだろう。見上げた彼が、フィオをじろりと睨み付けて来る。その目は白と黒が反転していた。
(か、かっこいい!!!!!!)
生まれて初めて見る竜族に、フィオは興奮が限界までブチ上がった。
「なんで、俺がこんなガキの面倒を見なきゃならねぇんだ」
アーヴィンドはもの凄く不愉快そうな声で言う。
「貴方は、Sランク冒険者なんだから、新人の育成は当然の義務でしょう? 」
ドニが噛んで含めるように言う。
「ギルドに登録した冒険者は、ランクに応じて様々な利益を得る。けど、それに応じて背負う責任も増えていく。フィオも覚えておいて。この街の冒険者は、みんな助け合って生きているの」
フィオは何度も頷いた。
「チッ」
腕を組んで、アーヴィンドが舌打ちする。
「もしも新人育成しなかったら、風封亭でご飯たべれなくしちゃうわよ」
アーヴィンドがドニを睨む。それから、フィオを見た。
(こ、こわいぃ、け、けど、かっこいい……)
腕を解いて、アーヴィンドが背を向けて去って行く。
「あ、あ……」
大きな背中がドンドン遠ざかって行く。そして彼は振り向いた。
「何してる、早く来い!」
怒鳴られて、フィオは慌ててアーヴィンドの元に走って行った。
「やれやれ、先が思いやられるわね……」
ドニは小さくぼやいた。
つづく