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 目を開けると、白い壁があった。

(あ?)

 白い壁はよく見ると、広い胸板だった。フィオが恐る恐る顔を上げると、そこにはアーヴィンドの顔があった。

(おわあああ!!!)

 大人アーヴィンドである。その大人アーヴィンドに抱き寄せられている。

(これは! これは非常にまずい!!)

 どうやらアーヴィンドの呪いは夜の内解けて、無事に元の姿に戻れたらしい。それは大変喜ばしい事だが、今の状況は危うかった。

(目を覚ましたアーヴィンドさんの目の前に俺がいたら、絶対アーヴィンドさん不機嫌になる!!!)

 ただでさえ人嫌いな人なのに、後輩と同じベッドで目なんか覚ました日には、どんな顔をされるかわからない。

 フィオはゆっくりとアーヴィンドの腕を解いて、彼の腕の中から抜け出した。

 ベッドを下りて、防具と荷物を手に取って、どうにか彼が目を覚ます前に部屋を出る事ができた。



 アーヴィンドは目を開ける。やけに、気分の良い夢を見ていた気がする。

(あ?)

 右腕を動かして、何かを探すような動作をしてしまった。しかし、手に触れる物はない。自分のその動作の理由がわからず、首を傾げる。

「ここ、どこだ」

 起きあがった部屋は知らない場所だった。ベッドはデカいが、おそらく安宿だろう。アーヴィンドがねぐらにしている部屋ではない。記憶を思いだそうとするが、どうにも霞がかかって思い出せない事が多い。

「……確か、あいつらとダンジョンに潜ったはず……」

 同じSクラス冒険者達と、『未階』に潜ったところで記憶は途切れていた。何があったのか、考えても思い出せそうになかったので、棚に置かれた服を来て部屋を出た。一階に下りて店主に尋ねる。

「おい、二階の端の部屋は誰が借りてるんだ」

「フィオ=クルージュさんですよ」

(フィオ?)

 なぜ、新米冒険者のフィオの名が出て来るのだろうか。

「そうか」

 宿屋を出て、ギルドに向かう。

「おい、どういう事だ」

 受付のドニに尋ねる。

「うわぁ、起きて早々不機嫌! そんなだから、敵を作るんですよ」

「良いから、説明しろ。俺に何があった」

 ドニが辺りを見渡して、声を潜める。

「アーヴィンドさんは、ダンジョンで呪いを受けちゃったんですよ」

「俺がか?」

「他の方達もです。二人だけ呪いにかからずにすんだので、どうにか帰って来れたそうです」 

 これだから『未階』はやっかいなのだ。

「なんの呪いだ」

「『子供帰り』の呪いです」

「あっ!?」

「睨まないでくださいよ!」

「俺が子供になってたって言うのか」

「はい」

 ドニは頷く。

「どれくらいの期間だ」

「一ヶ月です」

「いっ」

(一ヶ月だと!)

「おい、その事は誰が知ってる」

「あの時一緒に潜った人達と、呪いの診察をしたヒーラーのハルネスさん。それから、私とギルド長です」

「それだけか」

「いえ、あともう一人……」

 ドニが言いにくそうにアーヴィンドを見る。その時、不意にフィオの顔が思い浮かんだ。

「あの新米に頼んだのか!?」

「だ、だってー! アーヴィンドさんの面倒頼める人がいなくて! 昔からの知り合いの冒険者に頼むより、新米のあの子に頼んだ方が、まだダメージは少ないかなって……」

 確かに、これで仲の悪い冒険者になど預けられていたら、きっと一生の弱みを握られただろう。

「フィオはどこにいる」

「あ、フィオさんなら、買い物に行くって言ってましたよ」

 アーヴィンドは舌打ちをして駆けだした。ギルドを出て商店の並ぶ通りに行く。人込みの中、背の高いアーヴィントはすぐにフィオを見つけた。

「おい!」

 低く叫ぶと、フィオが振り向く。目を見開き、驚いた顔をする。

「ア、アーヴィントさん!」

 アーヴィントは、フィオの腕を握って路地裏に連れ込む。

「おおおおお、お久しぶりですアーヴィントさん!」

 フィオは視線をせわしなくキョロキョロさせながら言う。

「嘘つくな」

 睨むとフィオは、肩を跳ねさせて固まる。

 顔を寄せて睨む。

「……良いか。アノ事をバラしたら、殺すからな」

「ひっ!」

 フィオは涙目で、何度も頷いた。 

 肩に手を置き、爪を食い込ませる。

「絶対に言うんじゃねぇぞ」

「はいぃ!!」

 フィオは震えながら返事をした。

「ふん」

 手を離して、その場を離れた。コレだけ脅しておけば、口を滑らす事も無いだろう。 

 それからアーヴィントは、この事をすっかり忘れてしまう事にした。


つづく

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