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久しぶりにラウロと会う。
「お、子供を世話してるって噂は本当だったんだな」
「うん」
ラウロが体を屈めてアヴィを見る。
「よっ、俺はラウロだ」
するとアヴィはフィンの後ろに隠れてしまった。
「ははっ、警戒されちまった!」
「他人が苦手みたいなんだ」
安心させる為にアヴィの頭を撫でる。
「冒険者の仕事には、いつ頃復帰できそうなんだ?」
「うーん、来月中には……できるかな」
「そうか! それじゃ、その時は俺とパーティ組まないか?」
「えっ? 良いの?」
アーヴィンドとの研修期間が終わったフィンは、一人だった。ダンジョンに潜る時は、普通数人のパーティを組むものである。
「あぁ! 良かったら来いよ!」
「喜んで!!」
ラウロとなら、きっと上手くやれるだろう。命の危険のあるダンジョンでは、信頼しあえる者同士でパーティを組んだ方が生存率が上がると、講習で教えられた。
その時、アヴィが腰にぎゅっと抱きついてフィオのお腹に爪をたてた。
(いてて)
「じゃあ、また体が空いたら連絡してくれ!」
ラウロが去って行く。フィオはアヴィを見下ろす。
「どうしたんだアヴィ? お腹空いたの?」
アヴィはふいっと、顔を反らしてしまう。
(つまんなかったのかな……)
フィオはポシェットから小さな箱を取り出して、中の飴をつまんだ。
「ほら、これあげるから機嫌をなおして」
飴を差し出すとアヴィは飴を口に含んだ。フィオの腰から離れて腕に抱きつく。
「俺、決めた、冒険者になる」
「えっ」
「冒険者になって、フィオと一緒にダンジョンに潜るんだ。良いよな?」
「それは、うん、嬉しいよ」
(君、本当はSランク冒険者なんだけんどね)
大人になったアーヴィンドは格下過ぎるフィオとパーティなど組んでくれないだろう。それは彼にとって、なんのプラスにもならない。
「なら、決まりだ!」
アーヴィンドがフィオの手を引いて走り出す。
「ど、どこに行くんだ!」
「空き地! 筋トレするんだ! 強くなる為に!!」
目をキラキラさせたアヴィは、夢を抱いた瞳をしていた。それは、この一月で初めて見る物だった。
筋トレをたっぷりして、疲れ果てた二人はベッドに横になった。
「もう、腕が痺れて、動かない……」
「俺も…無理……」
互いに疲労で震える腕を見て笑った。
「冒険者になったら、フィオとずっと一緒にいられるんだよな?」
「そうだね」
「へへっ、嬉しいな」
アヴィの小さな手がフィオの手に触れる。フィオはその手を握り返した。
「おやすみアヴィ」
「おやすみフィオ……」
瞼が落ちるままに、フィオは眠りについた。隣では既に規則正しい寝息が聞こえていた。なんだかその音を聞いていると、幸せな気持ちになった。
つづく