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7.早朝訓練、ソシテパーティー

「んー、誰もいないな」


「この時間から訓練に来るやつはどうかしていると思うぞ」


「お前は、自分でどうかしてるとわかってるもんな」


「あたりだ」


ストレッチをしながら龍陽が大きくあくびをする。昨晩は森羅に起こしてくれと言っていたものの、元の世界ではかなり適当な生活を送っていたので早起きは辛いのだ。


「もう少し体を倒せ。肘で足が閉じないように抑えながらな」


「これ以上は、きつ、い、ぞ」


自らはまたを完全にあり、体をベッタリと地面につけながら森羅は龍陽に指導する。


「やっぱり硬いな」


「それほど、体をまじめに鍛えてきた、わけじゃあ、ないからな…!」


「ああ、痛いならそこで時間をかけたほうが良い。無理に伸ばしても意味ないぞ」


「まじかよ、イテテ…」


うめきながら龍陽が体を起こす。普段からストレッチをしてこなかった分、体がそれほど柔らかくなく、深くストレッチをするのは難しいようだ。


森羅もカウントを終え、体を起こしながら言う。


「ストレッチをするのは、体の可動域を増やすという意味で相当重要だ。筋力があっても体が硬ければ動かない方向が存在してしまうからな。それをなるべく減らすのがストレッチだ。次のをするぞ」


森羅の言葉に、龍陽が愕然とした顔をする。


「まだやるのか?」


「体中を伸ばすんだ。あと20分はかかる」


だはー、と奇妙な声を上げて龍陽が突っ伏す。


「お前はステータスもそこそこあるんだし、正直トレーニングよりも柔軟が先だと思うぞ。夜寝る前も、風呂上がりにでもしっかりしろよ」


「…りょうかい」


嫌そうにしながらも、龍陽は最後までストレッチを行った。この世界に着てからやる気を出している、というのは嘘ではないようだ。


「よし、ストレッチは終わりだな」


「やっとか…。ああでも、体が軽くなった気がするな」


肩をぐるぐると回す。


「ストレッチも念入りにすれば運動になるからな。それに、眠っていた筋肉一つ一つを起こすように丁寧にしたんだ。体のエンジンが掛かった頃だろ」


「なるほど。そんな意味もあんだな。適当にやってたわ」


体をあれこれと動かしてる龍陽の満足気にうなずいて、森羅は次のメニューを告げる。


「お前はとりあえず体力が足りなそうだから、ひたすら走るぞ」


「まあ、そんなことだろうとは思ったよ」


「結局体力をつけるなら走るのが一番だからな。根性もつく」


「りょうかい」


森羅が先頭に立って走り出す。龍陽も後ろからついてくるが、森羅は最後までついてこれるとは思っていない。


「龍陽、きつくなっても死ぬ気でついてこいよ。俺よりステータスは高いんだからな」


「意地でもついてってやる、よ」


特に息を切らしてはいないようだ。スタミナというのがステータスの何処に反映されるのかはしらないが、体力も筋力も敏捷度も森羅よりも高い龍陽が森羅より走るのが遅いということは無いだろう。後は、どれだけきつくなっても維持できるかだ。


それから30分ほど走ったところで龍陽が遅れ始める。だが、森羅は自分のぎりぎりの速度で走っているので声をかけることはない。ついてくるのは龍陽自身の意思なのだ。


それからさらに30分。ひたすらに森羅は走り続ける。龍陽もかなり遅れながらだが、走り続けているようだ。


そしてさらに30分。結局龍陽は、普段ほとんど運動していないと言っていながら1時間30分走り抜いたのだ。ステータスが高いというのもあるが、こんな世界だからこそやる気を出すという言葉に偽りがなかったのだろう。


「お、おつ、かれ」


「ふ、ふーっ、ふぅ、はぁ、はぁ。しばらく、歩けよ」


森羅は苦しい息の中から、座り込んだ龍陽にそれだけ吐き出す。この世界ではどうかわからないが、クールダウンをすることで身体の状態がもとの状態へと回復し、酷使した体に大きなダメージが残らないのだ。


“身体把握”で体に目を向けると、この世界でもクールダウンをすることは効果的なようである。暴れていた心臓がおとなしくなり、体中の筋肉が落ち着いていく。


「お前、すごいな」


「あっちにいた頃から走ってたからな。お前も、初めてにしては相当走れていたと思うがな。それにしても、全力で走っていたんだろ?」


「もちろん、まあ、途中で手を抜いてしまおうかとも思ったけど、お前がエグいスピードで走ってたから、逃げるに逃げれなくてな」


「不思議なものだ。ステータスには明確に差があるのに、実際に走ってみると俺のほうが速い」


「ステータスは一種の指標に過ぎないんだろ。それかスタミナはステータス上には表示されてないとか。そもそも数値に表せるところに違和感があるからな」


「それだと敏捷度が俺よりも高いお前のほうがトップスピードが遅いのが説明がつかない」


「トップスピードなら、多分俺のほうが速いよ。まあ、全く維持できんけどな」


「ほお、そんな感じがしたか?」


「最初の一周程度な。そのあとはついてくのに必死だったけど」


「なるほど、それは興味深い」


二週ほど訓練場を歩いたところで足を止め、軽くストレッチをする。


「これから剣を振ると思うが、自分の体の可動域を把握しておけよ。どの角度なら剣をふれるのか、ぎゃくにふれない方向はあるか、とかな」


「それ次第で戦い方が変わってくるんだろ、わかってるよ」


軽くストレッチをしてから部屋に戻る。訓練場の入り口では、二人が部屋を出たときは寝ていたはずのサーヤとアリサが待っていた。


「おはよう」


「おはようございます…じゃないです!シンラ様!」


「お、おう、どうした?」


サーヤによると、メイドは仕える者に付き従って常に行動をともにし、仕えるものが快適に生活できるようにしなければならないらしい。サーヤたちに関しても、昼間は森羅たちが訓練をしているので常に張り付いていなければいけないわけではないが、訓練以外の時間はそばについていなければいけないらしい。


「それは、すまなかったな」


「明日から、ちゃんと朝の時間を教えてくれればついていきますから、教えて下さい」


「わかった」


結局、明日からはサーヤたちも連れて早朝の特訓に行くことになりそうだ。龍陽も同じ小言を言われたようで、謝っている。森羅としては別に訓練を見られても嬉しいわけではないので、寝ているならそれでいいと思ったのだが、メイドの職務としてそうしなければならないとうのならそれでも良いと思う。


部屋に戻って軽く体を流し、新しい服に着替えて食事をとってから再び訓練場に向かう。もう8時も近く、他のクラスメイトも思い思いに集まり雑談をしていた。


やがて、オキド団長と王宮騎士団の騎士らしき者たちが姿を現す。


「ふむ、全員集まっているな。それでは早速だが、皆を担当する騎士を一人ひとり決めるぞ。といっても人選はこっちでしてるから、紹介するだけだがな。じゃあ、まずはヒロ、シズク、セイヤ、ヒトミ。前に来てくれ」


呼ばれた四人が前に出ていく。伊東仁美は優しげな少女だが、普段から比呂や星夜、雫とよく一緒にいたので、なかよしの四人組が同じ組になれたということだろう。


「一人ずつじゃないのか?」


「一人ずつ担当の騎士はつくが、あの四人で一緒に活動することがあるってことじゃないのか?対人戦の練習をする相手だって、本職の騎士以外にいたほうが精神的にも楽だろうし、そういう意味でパーティーを組んだんだろう」


「あー。なるほどな。指導は個人レベルでも行えるけど、集団レベルでの指導も行っていくってことか」


「ああ」


森羅の予想通り、オキド団長が四人を担当する騎士をそれぞれ紹介し、個人での指導を行うと同時にパーティーを用いて集団戦を想定した訓練や、対人戦の練習も行なうということを説明する。


「な?」


「あたってるな」


順番に団長が担当の騎士と生徒の組を紹介していき、やがて森羅たちの番になる。


「次は、シンラ、リュウヒ、アカネ、ヒナコだ。来てくれ」


呼ばれた四人が前に出る。それに合わせて四人の騎士が前に出た。


「リュウヒにはキース、アカネにはラトルヒ、ヒナコにはシリエル、シンラにはアイトが担当としてつく。この四人をパーティーとするので、協力して頑張ってくれ」


騎士との対面が終わったところで、他の組がそれぞれに集まって残りの紹介を待っているところへ移動する。早い組ではすでに騎士と生徒の自己紹介を行っているようだ。


残っている生徒は12人、つまり後三組である。


「あの、待ってる間に自己紹介しませんか?」


伊月日向子が、勇気を出してそう言う。学校では家庭科部に所属していたおとなしい少女であり、彼女の目線では怖い人達に見えていた森羅と龍陽とは話したことはない。


「それがいいわね。騎士同士、あなた達同士はわかっていても、私達とあなた達は互いのことを全く知らないものね」


シリエルと呼ばれた日向子を担当する騎士の女性が賛同し、自ら自己紹介をする。


「シリエル・べクラールよ。得物は剣。ヒーリングが得意だから、騎士団の中では治癒師として行動することもたまにあるわ。よろしく」


「私は伊月日向子です。私も治癒師なのでよろしくおねがいします」


組のみなへと自己紹介をしながら、日向子はシリエルにペコリと頭を下げる。


「わ、私は、詩季茜と言います!絵を描くのが好きです!よろしくおねがいします!」


詩季茜は美術部に所属していた、性格に天然なところのある少女だ。ときどき抜けたことを言ったりするので、クラスの雰囲気をよく和ませていた人物である


「ラトルヒ・アークウィルです。私はこれが得意というものはありませんが、一通りある程度できますよ。よろしく」


「早坂龍陽です。よろしくおねがいします」


「キース・エルエンデだ。よろしく。私も得物は剣だ。だが、他も一通り多少は使えるので、君の力になれると思う」


「上地森羅です。よろしくおねがいします」


「ああ、俺に敬語は良いよ。それよりお前だな、面白いことを言っていたというのは」


アイトの言葉に、他の皆が注目する。


「おっと失礼。俺はアイト・マクガレフだ。以後よろしく」


マクガレフがそう言って差し出した手を森羅はためらいなく取る。森羅の面白い話を聞いていたということは、彼がオキド団長の言っていた、戦争に詳しい人物だろう。


「そのあたりの話は、また個人訓練のときにな」


「わかった」


二人が交わした会話に他のメンバーが「?」と言いたげな目を向けてくるが、気にしないでおく。


その後すべての組の紹介が終わったあとで、解散となった。基本的に個人個人に担当の騎士がついており、それぞれに十分な能力を持った騎士を選んでいるので全体での訓練といったものは行わず、パーティーもしくは個人で行うようだ。


森羅とマクガレフも、パーティーで今日は個人で訓練することが決定されたので、二人で訓練場の隅に来ている。


「さてと、改めてよろしく、シンラ」


「よろしく、アイトさん」


森羅が戦について知りたがっているとオキド団長から聞いていたアイトが、まずは話そうと言ってきたのだ。


「シンラは、戦闘の仕方よりも、戦争を知りたいらしいが、詳しく教えてくれるか?」


「わかった」


それから森羅は、なぜ戦争を知りたいのか、をアイトに話した。元の世界では穏やかな生活を送っていたこと。この世界でも、国に大切にされた生活を送ることになりそうなこと。命をかけて戦う者たちがなぜ戦えるのかを知りたいこと。こんな世界に来たからこそ、それと向き合ってみたいこと。そして純粋に戦いや戦術に興味があること。


「なるほど、それはまあ、確かに王宮にいては無理な話だろうな」


「この世界には傭兵、みたいな集団はないのか?」


「うーん、それも含めて考えさせてくれ。その考えは、お前の本心なんだよな?」


「当たり前だ」


話を聞くだけ聞いたところで、アイトは考えると言ってそれ以上を話そうとしなくなった。


「お前の考えはわかった。俺もとりあえず考えてみるから、とりあえず訓練をしておこう。どちらにしろ力が無ければ戦えないからな」


「ああ。そうしてくれると助かる」


まずは森羅の身体能力を把握するためにテストをするらしい。森羅のステータスはオキド団長経由で知っているはずなのでそのことを森羅が確認すると、どうやらステータスはそのまま能力に直結しないらしい。


「ステータスっていうのは身体能力の一つの要素に過ぎない。本当の身体能力っていうのは、ステータスの数値と肉体そのものの鍛え方で変わるんだ。だから例えばの話、めちゃくちゃ鍛えてるやつの身体能力は、そいつよりステータスが上のやつの身体能力を上回ることもある、ってことだ」


「それで、か」


「何か思い当たる事があったか?」


そう尋ねられて、森羅は素直に朝のことを話す。それに対してアイトは、驚いた顔をしていた。


「勇者様でも、そんなに努力をしようなんてやつがいるんだな」


「勇者様は比呂の特権だ。俺はただの剣士。そうだったからこそ、努力できるんだがな」


そう笑いながら言う森羅に、アイトは内心かなり感心していた。


(史実によれば、才能だけで戦ったっていう勇者もいたぐらいなのに、こいつはどれだけストイックなんだよ。そもそもステータスが5倍の相手よりも動ける、ってのは相当鍛えている証拠だ。面白いやつが回ってきたな)


そう思いながらアイトは、森羅にテストの内容を指示するのだった。

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