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2.イセカイ召喚

かなりあいてしまいましたが、ある程度固まったのでどんどん投稿していきたいと思います。

「おお!本当に召喚が成功したぞ!」


「神の御心だ…王女殿下」


「ええ、これでこの国は救われます」


そんな声を聞いて、森羅は目を開ける。そこが教室ではないことを察していた森羅はすぐに周囲を確認する。


今いる場所は石でできた建物の中。周りにはクラスメイト39人。そしてそれを囲うように、白色で装飾のついたローブを着た男女が30人ほどとドレスを着た少女が一人。足元にはもうほとんど光を失っているが、教室で最後に見えたあの紫の魔法陣がわずかに見える。


それらを確認した森羅が最初に思ったのは、どこだここ、でも、何が起きた、でもなく、


(本当に起きるんだな)


だった。もともと森羅はファンタジー小説をかなり読んでいるので、今の状況は、特殊な映画の撮影といったイレギュラーでないかぎり把握できている。だから、本当に異世界への召喚なんていうのが起きるんだな、と的はずれな感想を抱いていた。


「森羅、これは…」


「十中八九召喚だろ。どうせ説明してくれる」


「まじかよ…」


突然の自体に呆気に取られていた龍陽がつぶやくのに対して、森羅は端的に答える。龍陽はまだ驚いているが、森羅の言葉で現状を認識したようだ。


二人に対して、他のクラスメイトの反応は鈍い。


「ここ、は…?」


「夢でも見てんのか?なんか杖持った奴らが見えるんだが…」


「夢、よね?こんな…」


それぞれが思い思いに現状を信じられないことを表現している。そんな中で真っ先に行動を起こしたのは、やはり比呂だった。


「みんな、落ち着いてくれ!これは多分夢じゃない」


教室にいた頃の位置関係がそのまま反映されているのか、比呂はドレスを着た少女に一番近い位置、つまりクラスメイトからしたら一番後方にいる。そこから声をかけたのは、比呂が落ち着いているからではなく、皆が落ち着けていないから自分がまとめるという、一種のリーダーシップの賜物だ。


「こんにちは、選ばれし勇者の皆様」


比呂の言葉で皆が落ち着いたのを見計らって、クラスメイト以外の人間の中で、一人だけきらびやかなドレスを着た少女が話しかける。


「私は、このカンランテ王国第一王女のナーナ・イル・カンランテと言う者です。勇者の皆様方はじめまして」


ナーナと名乗った少女の言葉を聞いて、再びクラスがざわつく。


「王女、って言った?」


「カンランテ王国なんてあった?アフリカの国かな」


そこで、再び比呂が口を開き、それを聞いたクラスが静かになる。


「はじめまして、十束比呂といいます。質問させていただきたいんですが、ここはどこで、なぜ私達はここにいるのでしょうか?それと、勇者というのは…?」


比呂の少し戸惑ったような質問に、ナーナ王女はニコリと笑ってから答える。


「詳しい説明は、父上、いえ、国王陛下も交えて行いますので、ついてきてください」


そう言うとナーナ王女は、こちらへ、と促してから部屋に一つだけある扉の方へと歩いていく。


森羅は、すぐに王女の後に続いてその部屋を出る。龍陽も、いまだに状況を完全に理解できているわけではないが、森羅に続いて部屋を出た。


一方残りのクラスメイトは、隣や近くの友人と顔を合わせて、戸惑っている。


「ねえ。これってなにかの撮影?」


「こんな撮影ってある?」


「でも他に考えつかなくない?」


「今の人可愛かったな」


「まじで可愛かったよな、写真取らせてくれっかな」


皆、現在がどのような状況か把握できておらず、友人と雑談をすることで現実逃避をしている。そこで、再び比呂が声を上げた。


「みんな、いったんさっきの人について行ってみないか?さっきの人なら、何が起きているのか説明してくれると思う」


「そうだな、ここで話してても何も変わらないし、とりあえず行ってみようぜ」


「私達も、行ってみましょう」


比呂や星夜、陽音が率先して行動したことで、他の皆もそれについて動き始め、先に出ていったナーナ王女を追った。


一方真っ先に部屋を出てナーナ王女についていった森羅と龍陽は、視界の開けた通路を歩いていた。柱の向こう側に見える外には、あきらかに現実世界、森羅たちの生まれ育った日本には現存しないであろう石造りの城と、その向こうの家々が見えている。極めつけに、空には双子の太陽が輝いており、改めてここが現実ではないんだと実感させた。


ガラスが存在せず通路に外から風が流れ込んできているとはいえ、石造りの床と壁自体は、非常に精密に作られているようで、技術自体は少し高いのかと考えると同時に、どこを通れば城の外に出れるだろうかと考えていた。


「龍陽」


「なんだ?」


わずかに後ろを歩いていた龍陽を引き寄せると、森羅は耳元で、逃げ道を考えておけと伝える。


もともと、異世界に召喚されるということまでは起こりうると思っていたので納得したが、自分たちが歓迎される存在だとは森羅は思っていない。ファンタジーで言うなら主人公たちが奴隷のように扱われたり、魔法によって操られることもあるので、それを警戒することは十分に必要なのだ。


「わかった」


それを手短に伝えられたことで、龍陽の寝ぼけていた目の色が変わる。普段ぼーっとしている姿からは想像できるものは少ないだろうが、何かしらに焦点を当てて集中したときの龍陽の脳みその回転はすさまじい。あまりにも暇そうにしているので、一度学習に巻き込んだことのある森羅だけが、龍陽の本機の状態を知っている。ただ、その一度しか彼の本気を見たことはないが。


そして、森羅は他のメンバーが遅れているのに気づいていたので、ナーナ王女に声をかける。なにも他のクラスメイトをあんじただけではなく、王女の態度から何かさぐれれば良い、程度の考えだった。


もともと、森羅と他のクラスメイトとの仲は良くない。それは別に悪いというわけではなく、どちらからも関わろうとしないので何の関係も築けていないというのが正しい。森羅は常に何かに集中して取り組んでいるので、授業中でも無い限り周りから話しかけづらいのだ。


「ナーナ王女殿下、お待ち下さい」


森羅がそう声をかけたことで、王女と、先程の部屋の外で待機していた侍女らしき女性が足を止める。隣では急に声を発した森羅に、龍陽がわずかに驚きの目を向ける。


「下賤の者が、王女様に…」


「良いのです。ハイリ。なんでしょうか、勇者様」


森羅が王女に声をかけたことに対して、侍女が侮蔑の言葉を吐こうとするが、すぐに王女が止める。その姿に、やはり自分たちは優遇される身分に扱われそうにはない、と森羅は思いを強める。


しかし、森羅に答える王女の声はわずかに震えていた。


その震えが何から来ているのか、それは森羅には検討がつかなかったが、警戒を緩めること無く丁寧な言葉で続ける。少女が少し震えている程度のことなど、今の森羅にとっては大した問題ではないのだ。最悪の場合命が危ない。そんな状況では人に気を払っているわけにはいかない。


「他の者が少し遅れているようです。追いつくまでお待ちいただけないでしょうか?」


「あ、あら?お二人しかいらっしゃらない、ですね。ハイリ、気づいていましたか?」


王女が、今気づいたかのように首を傾げながら、ハイリと呼ばれた侍女に尋ねる。それに対してハイリは、先程森羅にかけようとした声とは違う優しい声で答える。


「気づいておりましたが、王女様のお手を煩わせることではございません。王女様のお言葉に従わない者に温情を与える必要など無いのですよ」


「そ、そう言うわけにも行きません!ここで待ちましょう!」


仲の良い、姉妹のように見える二人に対して、森羅は考えを改める。少なくとも、王女の震えや言動は、演技のようには見受けられない。もちろん、森羅程度の洞察力では気づかないほど演技が上手かもしれないが、そうであった場合には警戒していてもどちらにせよ気づけないだろう。


さらに、侍女、ハイリの先程の厳しい言葉も、王女に忠誠を誓っているならばわかりやすい。単純に、勇者とて王族とみだりに言葉を交わすことがあってはならない、と考えているのかもしれない。


そう考えて、森羅は少しだけ警戒をとく。


「ご厚意に感謝します、王女殿下」


「感謝します」


森羅が頭を下げ礼の言葉を言うのに隣の龍陽も頭を下げる。このあたりは、森羅も龍陽も、現実世界でこういった行動を取る機会があったと言うよりは、見知ったものからこういう場合にはこういう言動を取るべきだと想像しているに過ぎない。


「あ、はい。お二人は、えっと…」


礼を言われて戸惑った王女が、言葉に詰まる。森羅は何を言いたくて言葉に詰まっているのかわからず、助け舟を出さない。しかし、今度は龍陽が察して行動した。普段から適当な行動の目立つ龍陽だが、人の心の動きには敏感なのだ。周りからの視線に気づいた上であえて無視しているのがそれを示している。


「王女殿下、私はリュウヒ、こちらはシンラと申します。以後、お見知りおきを」


王女が二人の名前がわからずに困っていると判断しての言葉だ。


それを聞いた王女の顔が晴れる。


「あ、ありがとうございます。リュウヒ様とシンラ様は、随分と丁寧なのですね」


「殿下、私達のような身分の者に敬称をつける必要はありませんよ。それに、王族の方に敬意を持って接するのは当然です」


もちろん、見ず知らずの相手に対していきなりフレンドリーに接することを避けただけという意味合いもある。だが、龍陽はそんなことをわざわざ説明しない。体の良いことを言っておけば丸く収まりやすい。森羅なら素直に

(初対面の王族らしき相手なのでとりあえず丁寧に話しただけ)

と言いそうだが、龍陽はこういう場合は建前を語ったほうが良いのを知っている。


龍陽の説明に対して、ハイリの表情も少し和らいだ。先程までは、何か王女様に無礼があればすぐに叩き出してやる、と言わんばかりの顔をしていたが、今は二人が王族への敬意を持って会話していると知って落ち着いたようだ。


森羅が敬語で話しかけたのは無駄に敵意をかわないためであったが、それが功を奏した形だ。


「そうなんですね。随分と…いえ、私が勇者様に敬意を示すことこそ、当然のことです。皆様の生活を奪ってまで、私達のために力をお借りしようというのですから」


王女が演技でこれを言っているとしたら相当なものだな、と、誠実な王女の返事に対して森羅はそんな感想を抱いた。通常ならばもう少し人の感情について気にする森羅だが、こんな状況下では思考のほうが先走り、感情が後まわしになってしまうのだ。


王女が何かを言いかけたのが森羅の心にわずかに引っかかったが、後ろから足音が聞こえてきたので、あえてそれを尋ねることはしない。こんな状況下ではあるが、先に王女と会話を交わしていると知ると、周囲からいらないちょっかいをかけられそうで嫌だったのだ。


「お待たせしてすいません、王女様、十束比呂と言います。はじめまして」


「は、はじめまして、勇者様」


森羅と龍陽が王女と会話していることを無視しての比呂のいきなりの挨拶に、王女は動揺する。正しく言うなら、龍陽も森羅も他のクラスメイトに、王女との会話などしていないと勘違いさせるために足音が聞こえた段階で会話をやめていたので、比呂にとっては無視したと言うよりは普通に話しかけただけなのだが、王女にとっては話を遮られたように感じたのだろう。


森羅は、ハイリがこちらを向いているのに気づいて、そちらに視線を向ける。会話はそれまででいいのか、と視線で尋ねている気がしたので、コクリとうなずいた。それはおおよそあっていたようで、戸惑う王女にハイリが後ろから話しかける。


「お話中に失礼します、王女様。陛下がお待ちです」


「そ、そうですね、では、皆さんついてきてください」


慌てて思い出したように王女が歩き始める。陛下というのは、先程言っていた国王のことだろう。国王も含めて説明をするということだったので、国王は今から向かう先で待っているのだ。会話をしていて王女はそれを忘れてしまっており、思い出して慌てているのだ。


それに続くようにしてクラスメイトが歩き出す。森羅と龍陽は全員が通り過ぎるのを待って一番うしろについた。目立つ必要はない。そういうのは比呂の仕事だ。


「どう思う?」


前を向きながら小さな声で森羅は龍陽に尋ねる。


「演技にしちゃあうますぎると思うけどな。こっちの常識がどうだか」


「同感だ」



そこからおよそ5分ほど歩く。城の一番外側に面しているところを歩いているようで、とぎれとぎれではあるが、外の景色がよく見えた。他のクラスメイトは外を見るほど心の余裕がないものが多いようだが、やはり目を引くのは双子の太陽である。丸が2つくっついたような形をしている。そして、部屋を出てすぐのあたりで森羅と龍陽が見た街の様子は、今は見えなくなっている。代わりに高くそびえ立つ城壁が見えている。城壁の所々には物見台があり、そこに弓を装備した兵士の姿がかすかに見えることで、ここが本当に、戦うことを意識した城なのだと、森羅は改めて確認した。


ここが王宮であるならば使用人やメイドなどとすれ違ってもおかしくないが、人払いをしているのかそういった人たちとすれ違うことはなかった。


しばらく歩いた一同は、巨大な門の如き扉の前にたどり着く。重厚な作り込みがされており、その左右には衛兵らしき兵士が立っている。


王女とハイリの姿を確認した衛兵が、扉を開ける係らしき人間に指示を出す。やがて、扉が開ききったところで中央を向いた兵士のうち一人が大声で森羅たちの入場を告げる。


「ナーナ王女様、並びに勇者様方が参られました!」


かなりの大音声に、生徒の数人がビクリと体を揺らす。しかし、漂う緊張感からか誰も言葉を漏らすこと無く、王女に続いて門をくぐった。


王宮

最初はありきたりな異世界召喚だと思いますが、楽しく読んでいただけるとありがたいです。

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