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10.歩ムト決メタ 剣ノ道

昨日分の投稿を忘れていたので今日は二話投稿します。

森羅たちが召喚され、訓練を始めてから一週間がたった。


「今日は俺との実戦練習はなしだ。レディア副団長に頼んであるから、団長がヒロに訓練つけてるのを見せてもらえ。見学しか頼んでないからな」


「了解。アイトさんの剣だけじゃあ俺の剣が濁るってことだな」


「まあ自分で言うのもなんだけどそういうこと。じゃ、頑張れよ。あの人は気難し屋だからな」


朝パーティーでの集まりが終わり、それだけを告げてアイトが去った後、森羅は比呂と彼を担当している騎士のレディア副団長を探す。大体のクラスメイトは訓練場で訓練をしているので、探せばすぐに見つけることが出来た。


金髪をポニーテールにし、他の騎士より少し軽装の若い女性が比呂と話している。彼女が比呂の担当としてオキド団長に指名されたレディア副団長である。ステータスとレベル、技能によって男女の格差が存在しないこの世界では女性の騎士というのも珍しくはないが、多くの騎士の中で副団長になっているのその実力は相当に高いだろう。


アイトが話を通しているということだったので、森羅は近づい話しかける。


「レディア副団長、お時間よろしいでしょうか」


声を掛ける前から気づいていたのか、特に間を置くこと無く振り返る。


「君が、アイトの担当しているシンラくんだね。よろしく。と言っても、私は君に指導するつもりはないよ。文字通り、今日は見ているだけにしてくれ。私はヒロに指導しなければいけないからね。役たたずに指導している暇はないんだ」


「わかっています。それでは、横で見ていますのでどうぞ」


役たたず、などと言われて他者からの評価に興味のない森羅とて気分がいいはずがない。だが、だからといってそれをレディアにぶつけたところでどうにもならないだろうし、実力的にも劣っているのは事実だ。


レディアが比呂に剣の振り方や一連の型を指導しているのを見ながら、森羅は考える。


つまるところ、森羅の戦闘力で今最も足りていないのはステータス、である。ステータスが低いことで努力が必要になり、それが楽しいことであるとはいえ、それをそのまま放置しておくつもりもない。剣さばきに加えて、何か別の方法も必要なのだ。


二日前から、文章を読む練習をしがてら龍陽にコツを聞いた魔力操作を実践している。龍陽自身は技能として“魔力操作”を持っているので何らかの訓練をしているわけではないが、実際に魔力を動かす感覚を知っているのでそれを聞いたのだ。


感覚としては“武器創造(漢)”を使う際に指先に魔力を集めるように、腕や脚、全身に魔力を充満させるらしい。だが、森羅がやろうとしても魔力が自由に動かず、体中に張り巡らせるのが困難なのだ。確かに、腕や脚に張り巡らせた状態では身体能力が変わっているのはわかるが、それすらもするのに時間がかかる。しばらく訓練して魔力操作をスムーズに行えるようにするしか無い。


龍陽も『俺がやってるのに比べて、お前のは無駄にもれてる魔力が多いし、魔力の移動も遅い。もっと、体の皮膚の下に充満させるイメージでやれよ。体から出したら無駄が出るし、それは俺の“魔力武装”がないと意味無いぞ』と言っていた。ただ、時間を見つけては取り組んでいるが、まだまったく身についていない。


そう考えている間にも、レディアから比呂への指導は続く。レディアはアイトとは違って、相手のどんな攻撃に対してどう返すのが最適なのかを一つ一つ教えているようだ。比呂がそれを実践するのに合わせて森羅も、体を動かして真似る。そして、自分の中の理想と比較して取捨選択を行っていく。どの要素が必要でどの要素が必要ではないのか。それを考えていく。


レディアと比呂の動きが止まる、もしくは森羅自身が必要ないと判断した場合は、体を動かすこと無く考える。


結局の所、魔力操作を体得することでステータスの差を多少は埋めれそうだが、相手も体得していたら意味がない。では他に策はないのか。


“暴血”の技能が使えるようになれば解決するかもしれないが、まったく関係のない技能かもしれない。得体のしれない技能に期待するのは意味がない。


そんなことを考えながらレディアの教える剣技を再現していると後ろから肩に手を置かれ、森羅は振り返る。


「シンラ、俺が指導してやるぞ。アイトに頼まれたからな」


「アイトさんが?今日はレディアさんの剣技を勉強してこいと言われたのですが」


「俺が暇だったら俺が教えたほうが早いからな。どうせレディアのことだ。お前に指導はしてないんだろう?」


「そうですが…」


「なら決まりだ」


ポンポンと森羅の肩を叩くと、レディアに大声で声をかける。


「レディア、こいつは借りていくぞ!」


それを聞いてレディアが振り返る。


「承知しました。いなくても何も問題はありませんので」


それを聞いてオキド団長が森羅に笑いかける。


「な、聞いたろ?」


「まあ、はい」


「では、行くぞ」


「レディア副団長、失礼します」


オキド団長について離れていく森羅を、レディアが暗い目で睨む。それに森羅が気づくことはなかった。


******


訓練場を横切って比呂とレディアとは反対側へと着いた。


「さてと、どうだ?訓練は」


「特に。これといって困っていることは無いです」


「そう、か。まあアイトから一応話は聞いてる。正直俺はお前が一番きついだろうと思っていたが、存外大丈夫そうで安心している」


「気にかけてくれてありがとうございます」


森羅が丁寧に返していると、オキド団長が嫌そうな顔をする。そして頭を掻きながら言う。


「別に敬語を使わなくても良いんだぞ。俺はお前たちとは対等な立場でやっていきたいと思っているからな」


「では、お言葉に甘えて。別に敬語使うのが好きって言うわけじゃない。ただ、適度な距離を取るには敬語を使うのが便利なだけだ。敬語を取っ払うってことは、心の垣根を一つ取っ払うことにつながってしまう。それが俺にはめんどくさいだけだ」


「…まあ、俺はお前らの元の世界ので事情は知らんが、俺達と親しくなるぐらいならヒロたちとは仲良くしておいたほうが良い。なにせヒロたちはこの世界では圧倒的な力を持っている。俺達が今後常にお前たちに気をかけることができるかわからない以上、彼を頼るのが一番安全だ。」


オキド団長は団長なりに、ステータスの低い森羅の身を案じてそう言ってくれているのだろう。だが、それこそ余計なお世話というものである。人に頼らず己を極めたいからこそ努力しているのだ。


「興味ない。俺は俺を極めたいだけだ。誰かに頼るのは俺を極めることの障害になる」


「…アイトから聞いていたが本当に向上心が高いのだな」


「オキドさんの剣を、見せてくれるとありがたい」


「…そうだな。訓練と言いながら余計な話をしてすまなかった」


いつものように木剣を手にして、オキド団長と打ち合う。アイトの戦い方が相手のリズムを崩し自分のリズムに引きずり込んで戦うある種意図的に崩した剣術であるのに対して、オキド団長の戦い方はまさに騎士としての王道のように感じられた。


こちらの攻撃をガッチリと受け止め、的確に的確に隙をついて攻めてくる。苛烈な攻めというわけではないが、非常に受けづらいタイミングで攻撃してくる。実力のほんの一割も出していないのだろうが、森羅には難攻不落の要塞のように感じられた。


これを体験すればわかる。一人の相手に対して磨いた剣技は、その相手がよほど多様な戦い方をする人物でない限りは他の相手に通用しないのだ。


「ここまでだな。しかし、なかなか…。本当に素人か?」


剣を止めてオキド団長がそう言う。


「素人です。ありがとうございました」


「ああ。おまえたちが生き残れるように指導するのが俺の仕事だからな。また暇なときなら手を貸してやる。ただ、レディアにはあまり関わらないほうが良いぞ」


「元々、人を役たたずなどという人に頼るつもりはない」


「あいつは、騎士団の方針としてではなく個人としてエリート志向でな。力のあるものが優先され、それ以外の者が虐げられるのは当然だと考えているんだ」


「剣にはその者の心があらわれるというが、さまざまな剣を見れればどうでもいい。だから、俺は興味ない」


「まあ、気はつけておく。では、今後も励めよ。おまえたちには死んでほしくない」


オキド団長の気遣う言葉に対して、森羅はペコリと頭を下げる。そんな森羅の肩をたたきながらオキド団長は語りかける。


「お前が、お前の目的にたどりつき最強に至るのを楽しみにしている。勇者を育てるものではなく、一人の友人としてだ」


「努力する」


「うむ。ではな」


オキド団長が離れていく。その背中に森羅は声をかけた。


「オキド団長」


「なんだ?」


「俺よりも、他の者に気をかけてやってください。俺は、自分で言うのも何だが芯がある。だが、彼ら彼女らはまだただの若者だ。心を、支えてやってくれ」


「…当然だ。それが俺達の役目だからな」


頭を下げて、離れていくオキド団長を見送る。森羅は、進んで死にたいとは思わないが、自分の身の安全をそれほど重視していない。それよりも自分を鍛えることを重要視しているのだ。


だが、他者もまたそうであるとは思っていない。自ら積極的に助けたいと思うほどではないが、自分の知っているものが傷ついてるのを見るのは後味が悪いのだ。


******


「今日は、オキド団長と何やってたんだ?」


夜の自主訓練を終え、ストレッチをしながら龍陽が話しかける。今日はランニングと体幹トレーニングをしたが、龍陽も相当慣れてきており余裕なようだ。


「普通に訓練だ。俺の剣の鍛え方だと、一人を相手にしていては偏った剣になってしまうからな。いろんな戦い方を見る意味で訓練に付き合ってもらった」


「あー、なるほどな。わかった」


「そっちはどうなんだ?」


「まあ、ぼちぼちよ。お前ほど速くは無いけど、多少は上達してると思うぞ。今度打ち合ってみるか?」


「それは良いな。明日でもどうだ?」


「明日は休息日だろ」


「自由にしていいなら多少訓練しても問題ないだろ」


「まあ、そのとおりだな。わかった。じゃあまた朝起こしてくれよ」


「わかった」


この世界では、森羅たちが元いた世界と違って定期的な休息日と言ったものはないらしい。騎士には時々休みが与えられるらしいが、それも極稀なことであり七日に一度与えられるようなものではないようだ。


ではなぜ森羅達に休息日が与えられるかと言うと、数名の生徒が雑談の中でオキド団長に訴えたからだ。それを聞いた団長は、森羅たちの精神状態を回復する意味も込めて元の世界と同じように休息日を設け、街への外出も許可してくれたのだ。ただし、街への外出には騎士もしくは専属のメイドを連れて行くことが義務付けられている。自由な活動を認めているとは言え、監視下から離れられると困るのだろう。


「外出の予定とか無いのか?」


「特に出かける相手もいないし街でしたいこともないしな。強いて言うならこの世界の普通の人たちの生活を見てみたいとは思うが、それは今じゃなくてもできるしな」


「…まあ、お前らしいが、せっかく二日あるんだから息抜きぐらいしとけよな。楽しいことだからって延々と続けられるわけじゃないだろ?」


「…まあ、そうだな。考えておく」


確かに、森羅が自分で振り返ってみればこの一週間、少し気が急いていたのかもしれない。もちろん、だらけることなく常に全力で何かに打ち込みたいのは事実だ。だが、だからといってそれに熱中するあまり心の余裕を失うのはまた別の話だ。訓練をするときは全力で、だがそれ以外のときにはときに気を抜くタイミングが必要なのだ。


「よし、終わりだ。風呂入ってから食事にしよう」


「はいよ。あー疲れた」


「随分と様になってきた、どころではないぐらい鍛えられていると思うがな」


「まあ、なんていうか、体が変わってるのがはっきりわかるんだよな。毎日毎日。レベルも上がって数値上のステータスは変わってるが、多分それだけじゃないんだよな」


「そうか。俺も負けてられんな」


「お前は相変わらずストイックすぎるんだよな。もう少し休んでくれても良いんだぜ?」


「比呂とのステータスの差を埋めるまでは鍛えるのをやめんぞ」


そもそも、比呂や龍陽など高いステータスと強力な天職を持った人間と、森羅のようにステータスが一般人並で天職もありきたりの人間では成長の速度が違うのだ。


この一週間で森羅のレベルは一つも上がっていない。それに対してすでに龍陽のレベルは6になったらしい。それを森羅は龍陽には告げていないので龍陽はそんなことは少しも知らないだろうが、だからこそ体の鍛え方は負けたくないと思っているのだ。


才のある友人がやる気になり、競ってくれるのは嬉しく思う。だが、負けるつもりはない。先に進むのは俺であると、森羅は心に誓った。

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