第７話 私はマキナ、マークの妻よ！
「ようやく来たな」
蹲り泣きじゃくるマルニータを見ながら扉の向こうからやって来る気配。
この気配、間違い無い。
「おいスチュワート」
「間に合ったかな」
相変わらず気取った奴だ。
スチュワートは落ち着いた表情で私達を見た。
「嘘ギルド長が...」
「どうして？」
ニキータ達が唖然としている。
そんな事より早く服を着ろ。
「遅い」
「いきなりだな」
「２日もあればここに着くだろ。
１日何してたんだ？」
「マキナ、お前...まあいい、こいつを探してたんだ」
「こいつ？」
「ああ、連れて来い」
スチュワートは扉の外に呼び掛けると２人の男が１人の男の両脇を抱えて入って来た。
「ん？」
男の顔が酷く腫れている、既に相当殴られたみたいだ。
「誰だこいつ？」
「サンプレスだ」
「ほう...」
「「「何ですって！！」」」
女達が叫ぶ、マルニータも顔を上げ男を睨み付けた。
「こいつは名前を変え、ある街で奴隷商をしてやがってな。
まあ本人は逃げたつもりだろうがギルドの目は誤魔化せんさ」
「良いのか？」
「何がだ？」
「こいつをまだ捕まえる事は出来ないと以前お前は」
「ああ」
私の言葉にスチュワートは頷く。
サンプレスは女達を食い物にしたが薬や魅了等の禁止されている物は使って無い。
男を痛めつけたのも訓練と言い張っていた。
何より女達がサンプレスを庇うので罪を立件出来なかったのだ。
「確かにな、だがここでマークを襲った事を明らかに立証すれば？」
「なるほど」
スチュワート意図は分かったよ。
マリアが居なくて良かった。
「おいマルニータ」
「は、はい」
「お前がマークを襲ったのはサンプレスの命令だな？」
「あ、それは私も一緒に...」
「やかましい！一緒かなんて聞いてねえ！
こいつの命令か聞いてるんだ！」
「はい！」
私の言葉にマルニータは体を硬直させた。
少し殺気を出し過ぎたかな？
スチュワートが苦笑いしている。
「そうか...確か仕返しは本人か妻に許された権利だったな？」
スチュワートに尋ねた。
「そうだが...まあいい、書類はこっちで作ってやる」
もったい着けやがる、最初からそのつもりだろうに。
「覚悟しな」
「ひ、ひゃめて...」
「やかましい、お前はあの人が止めてと言った時１回でも止めたか？」
「ひ、ひょんな...あへはファルヒーハにはのはへへ...」
「うるさい！」
少し力を込めてサンプレスの腹を殴る。
ブヨブヨの腹だ、全く鍛えて無かったのだろう。
「「うわ！」」
いかん力加減を間違えた、両脇の男まで吹き飛ばしてしまった。
「ウゲエ...」
盛大に胃液を撒き散らすサンプレス、肋骨までやっちまったかな？
いやそれより食堂が。
「すみません、お義母様....」
「構いません、思いっきり殺りなさい」
「はい！」
よし許可が出た。
「おいマキナ」
「なんだスチュワート？」
「殺すなよ、後始末が大変だ」
「分かったよ」
仕方無い、とっておきを殺りますか。
「ヒール・ウーンズ」
両手に治癒魔術を発動させる。
これで殴るダメージと同時に怪我を治せる。
つまり死なない訳だ。
でもタイミングを間違えりゃ後遺症は残るかもな。
「うりゃ！」
サンプレスの顔面を殴る。
首が捻子切れないようにするのが大変だ、さすがに千切れたら治せない。
骨が砕け血管も千切れ、同時に治癒魔術を施す。
あら？
久し振りでタイミングがずれたな。
サンプレスの首は変な方向で固まってしまった。
「死ななきゃいいか」
両腕と両足、覚えている限り同じ場所を殴る。
武器を使わないだけ優しいもんだ。
「もういいだろ？」
スチュワートが止めた。
そう言えば昔スチュワートを半殺しにしたのもこの魔術だったな。
「ふう」
サンプレスから離れる。
全ての関節がいろんな方向を向いてるな。
とても生きてるとは思えんが、息もしてるし大丈夫か。
「ん？」
マルニータ達がおかしい。
「あれがＳ級...」
「勝てないわ」
「何の事だ？」
「「「ヒッ！！」」」
「マルニータ達め...」
「すみません、お義母様」
「構わないって言ったでしょ、床掃除する手間は血より楽だからね。
そんな事よりマキナ、まだ残ってるわよ」
「残ってる？」
お義母様はボロ雑巾のある場所を指差した。
「ああ」
「もう被害者が出ないようにお願い」
「分かりましたお義母様、治癒は無しで行きます」
「おいマキナお前まさか....」
「ふん！」
スチュワートが止めようとするが私の足は止まりません。
『プチっ！』
足の裏に伝わる感触、完全に潰れたね。
「「「おぅ」」」
何故かスチュワート達男３人は股間を押さえて後ずさった。
「終わったよ」
「あ...ああ、連れていけ」
スチュワートは部下に命じてサンプレスだった物を運ばせた。
「この後サンプレスはどうなる？」
気になったので聞いた。
「そうだな、おいお前達」
「は、はい」
スチュワートは部屋の隅で怯えるマルニータ達に声を掛けた。
「サンプレスの罪を王都で裁判に掛ける、お前達証言出来るか？」
「分かりました」
「はい」
「全て致します」
「よし、それじゃ行け。
外に馬車を待たせてる、裏口からそっと出るんだぞ」
「「「はい...」」」
項垂れながら部屋を出る３人、哀れと思わない筈なのにどうしてだろ？
心が...疼く。
「マルニータ」
お義母様がマルニータを呼び止めた。
「はい」
「しっかり罪を償いな、それで憎むのは止めてやるよ」
「え？」
お義母様の言葉にマルニータの足が止まる。
「いいだろマキナ？」
「分かりました」
『仕方ない』何故かそう思った。
馬車は静かに走り出す。
マークは最後まで顔を出さなかった。
「やれやれ」
馬車を見送りようやく終わった、ホッと一息。
大きく背伸びをした。
「おいマキナ」
「なんだスチュワート、もう帰れよ」
「こっちはどうするんだ？」
「ん？」
スチュワートが指を差した方に半壊したギルドの建物があった。
「これから直すさ」
「待ってられるか、ほれ」
私の言葉にスチュワートは数枚の書類を差し出した。
「何だこれは？」
「王都ギルドからの依頼だ、報酬は弾むぞ」
「おい！遠征ばかりじゃねえか！」
「たまには良いだろ？」
「やだ！」
マークと離れるなんて！
「ママ行ってきなよ」
「マリア？」
いつの間にかマリアはマークに抱っこされて笑っていた。
「マキナありがとう、頑張ってな」
「マーク...」
優しいマークの瞳に私は...
「そう言う訳だ、今の生活を守りたきゃ働くんだな」
「分かったわよ！やりゃ良いんでしょ！」
私はマキナ、このサイキシで愛する家族に囲まれ最高に幸せ！
まだまだ頑張るよ！
ありがとうございました。
