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第6話 お義母様の怒り

泣き崩れるマルニータ。


その光景を私とマーク、そしてマリアは物陰から見ていた。

今すぐ八つ裂きにしてやりたい、だがお義母様にここで待つように言われたのだ。


特に可哀想とも思わない。

当たり前だ、全てマルニータの自業自得。

冒険者は自分の行動が全て、好きに生きられる代わりに責任も負わされる。

それが嫌なら最初から冒険者にならなければいい。


マークはあのマルニータを見てどう思っているのだろう?

サンプレスの言動に踊らされていたとは言え自分を殺そうとした相手。

幼馴染みで恋人だった女が後悔の涙を流している姿はどう映るんだろう?


お義母様の考えが見えて来た。

こうやってマルニータ達漆黒の薔薇の連中に救いの手を差しのべて生きる希望を与えてやってるんだ。


「気に入らない」


込み上げる怒り、お義母様の行動は冒険者の宿屋の女将としては正しいのかもしれない。

しかしあいつ(マルニータ)息子(私の命マーク)を裏切り、殺そうとした下劣な女でしかない。


マークはただ無言で会場を見ながらマリアの手を握っている。

マリアはそんなマークを見ていた。


会場ではマルニータ達3人が並び、頭を下げている。

何も知らない町の人達からの温かな拍手、意味が分からない。


お義母様は私よりマルニータが大事なのか?

私がマルニータの立場だったら、マークを奪いに来た私を町に迎え入れたりしないだろう。


私は余所者、そんな疎外感に胸が痛くなる。


「ママ」


「なに?」


マリアは真っ直ぐに私を見た。

その顔は真剣で、決して揶揄(からか)ったりする物では無かった。


「安心して、お婆ちゃんはママの味方だから」


「味方?」


「うん、お婆ちゃんいつも言ってるよ。

本当にお母さんがお父さんのお嫁さんになってくれて良かったって」


「お義母様...」


「マキナ、マリアの言ってる事は本当だ。

俺は本当にお前と結婚して良かった。

あれを見て実感しているよ」


マリアとマークの言葉は私の心を強く掴む。

そうだ、私を愛してくれるお義母様の気持ちも本物。

私が疑ってどうする!


視線を再び広場のマルニータ達に向ける。

もう迷わない、だけどマルニータは許せない。


「マルニータ、積もる話もあるでしょう」


広場では頭を上げたマルニータ達にお義母様が近づく。

突然現れたお義母様にマルニータは驚いた表情。


しかし優しい笑みを浮かべているお義母様にマルニータ達は黙ってこちらに歩いて来る。

広場の人達も拍手で見送る。

打ち合わせをしていたのだろう。

私達は宿の食堂に移動した。


「さあ入って」


お義母様が扉を開くとマルニータ達3人が怯えた顔で入って来た。


「...マーク」


「.......」


マルニータはマークの姿を見つけると大きく目を見開いた。

反対にマークは全く表情が変わらない。

ただ無言でマルニータを見ていた。


「あ、あの私...」


何か言おうとしているマルニータ。

広場でマリアとマークのやり取りが無かったら間違いなく殺していたね、命拾いしたな。


「あのマークさん」


マルニータの隣にいた女が前に立つ。


「君は?」


「わ、私はマルニータのパーティーメンバーでフルーナと申します。

マルニータはサンプレスに洗脳されていたんです、反省していますから...だから...だから...」


「だから?」


マークの声にマルニータとフルーナとか言った女が震える。

そりゃ何の感情も籠ってない声ですもの。


「あ、あのだからせ、せめてマルニータともう一度幼馴染みとして交流を...」


もう1人の女がふざけた事を言った。

ダメ我慢出来ない。


「お前ら何を言ってるのか分かってるのか!

このアバズレ(マルニータ)はな...」


「止せマキナ」


殺気を堪え、叫ぶ私をマークが止めた。


「マ...マキナ」


「やっぱり本当に...」


マルニータの両隣に居た女達が固まる。

そう言えばこいつらと面識は無かった。

あったとしても下級ランクの冒険者の顔など覚えない。


「君も彼女(マルニータ)の仲間かい?」


マークは静かな表情を崩す事なくふざけた事を言った女に尋ねた。


「は、はいニキータと申します」


震える声でニキータとか言った女が頷いた。


「話は聞いた。

その人(マルニータ)を連れて、出ていってくれないか?」


「「え?」」


「マーク?」


マークの言葉に唖然とするマルニータ達、当たり前だろ?

許すとかの次元だと思っていたのか?


「マークお願い話を!!」


「...貴様 」


マークに手を伸ばすマルニータ、腕を叩き折ろうと私は足を踏み出す。


「ママ駄目!」


マリアが私の体を抱き止めた。

震えてる?

あのマリアが...


「ごめんなさい...マリア」


後ろに手を回しマリアの頭を撫でると気持ちが落ち着く。


「あんた達諦めな」


「母さん?」


「お義母様?」


「...お婆ちゃん?」


それまで腕を組み無言で見ていたお義母様が呟いた。


「マルニータ、もう諦めな。

あんたは捨てたんだ、冒険者の栄達と引き換えに息子との未来をね」


「お、おばさん...それはサンプレスに」


「人のせいにするんじゃないよ!」


お義母様の一喝、何故か私までビクッとする。


「そのサンプレスとか言うバカがいきなりあんたのパーティーに入ったのかい?

マルニータ、どうせお前自身が引き入れたんだろ、マークを捨ててね」


「......」


お義母様の言葉に何も言えないマルニータ、後ろの2人も。

同じ様な事をしてきたんだろう。


「あんたを殺したいくらい憎い、でもそんな事はしない何故か分かるかい?」


「それは...私がこの町の出身で」


「違うよ、私が今幸せだからだよ」


「...幸せ?」


「ああ、冒険者は危険と隣り合わせだ。

でもマークは帰って来てくれた。

こんな可愛い孫まで連れてね。

みんなマキナのお陰さ、マキナも冒険者を辞めたんだ。

冒険者の女が身籠るって意味もあんた達だって女だ、分かるだろ!」


「お義母様...」


冒険者が子供を身籠る。

それは出産以上に困難な道、悪阻が始まれば体力が奪われ、安定期に入るまで心配の連続。

拠点を持たない冒険者に保護等無い。


金銭的な物も大変だ。

何しろ依頼を果たせなければ金も入らない。

幸い私には蓄えがあったが金銭的な問題で子供を諦める冒険者も多い。


「勘違いしないでおくれ、だからマキナが好きって事じやないよ。

あんたは本当に最高の嫁...いや私の娘さ」


「...はい」


お義母様の言葉に涙が止まらない。



「マルニータ、あんたの故郷は残してやる、だから過去は諦めな。

新しい幸せを探すんだね」


「...遅いのよ」


「ん?」


「「「もう遅いの!!」」」


マルニータ達3人はそう叫ぶと黒いフードを脱ぎ捨て、更に上着も脱いだ。


「ふーん」


下着姿の3人、まあ予想はしていたけど。

お義母様は全く驚いた様子が無い。

私と一緒だね。


「マーク、マリアと部屋に行ってて」


「分かった、マリア行こう」


「...うん」


マリアにはさすがに刺激が強かったか。

変な刺青見せやがって。


「フルーナは下腹に[サンプレス専用便器]か」


お義母様が呆れながら呟く。


「あんたは首筋に[舐めて下さいサンプレス様]ね」


ニキータに彫られていた文字、余りな悪趣味に吐き気が。

しかしマルニータには目立った刺青が無い。

臍付近に3つのバツって...


「まさかあんた」


お義母様が悲しそうにマルニータのお腹を見つめる。


「ええ、もう子供は無理と言われました」


涙を流すマルニータ、刺青と違い内臓の損傷は治癒魔術では治すのが困難だ。

無茶な堕胎を繰り返したなら尚更。

それにしても堕ろす度にバツの刺青を入れるとは正気の沙汰じゃない。


マルニータへの洗脳の酷さとサンプレスの屑っぷりが分かる。


「マークは知っていたけどね」


「え!?」


「あんたが子供を堕ろしていた事」


「まさか...」


マルニータは一番のショックを受けてる、でも本当の事。


「10年前に診療所へ入ったあんたとサンプレスをマークが見掛けてね、調べたそうだよ。

まさか3回も繰り返したなんてね」


「ア、アアアア!!」


一際の大声でマルニータは叫び崩れ落ちた。



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[一言] 知らん知らん帰れ帰れ消え失せろ
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