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第4話 マキナの気持ち

「ありがとう」


私のグラスにお酒を注いでくれるマーク。

彼の優しい笑顔に私の心も満たされて行くのを感じる。


「お疲れ様マキナ」


「...うん」


何がお疲れ様なの?

嫉妬に駆られ派手に暴れただけなのに。

恥ずかしさからグラスの酒を一気に(あお)る。

アルコールの高い蒸留酒だが私には丁度良い。


「美味しい」


「良かった」


マークは微笑みを絶やす事なく戸棚から干し肉と木の実をテーブルに置いた。

彼は昔からそう、決して焦らない。

聞きたい事は私が言いたくなるまで待っていてくれる。


「私が初めて貴方と会った日の事覚えてる?」


「もちろん、リンチを受けて倒れていた俺に声を掛けてくれたんだ」


「そうよ、ギルドの練習場でね」


恥ずかしそうにマークは笑った。


「びっくりした。

サンプレスの噂は聞いていたけど、まさかあれほど貴方を痛めつけていたなんて」


「そんな俺の為にマキナは稽古をつけてくれたんだ。

でもどうして?」


「まあ、気まぐれかな」


その言葉に真っ直ぐ私を見るマーク。

その瞳は初めて会ったあの時と同じ。

....本当は一目惚れだったんだよ。


恥ずかしいからスチュワート達にはダンジョンで初めて会った事にしているけど。


「毎回俺の為に飲み物や食べ物を持って来てくれて助かったよ、あの頃報酬も殆ど取り上げられてたからな」


「そうだったの?」


初めて聞いた、ギルドの報酬は基本パーティー内で山分けだ。

もちろんリーダーの裁量で配分が多少変わるが殆ど取り上げていたなんて。

だからマークはあんなに嬉しそうに私の拙い料理を...


「許せない」


今更ながら怒りが込み上げて来る。

やはりマルニータは殺すべきだな。


「いいんだマキナ、それだけあの頃の俺が弱かったって事だし」


マークはそう言って笑うが私は我慢出来ない。


「違うわ」


「マキナ?」


「そうじゃない、貴方は薬を盛られていたの」


「薬を?」


「ええ、初めてマークを見た時に貴方の吐いた胃液の臭いで分かった。

あれは痺れ薬よ」


「まさか」


「巧妙に量を調節されていたみたいだから分からなかったでしょうけどね。

たまに居るのよ、邪魔になった仲間や、ライバルを消す為に一服盛る奴等が」


「でも、いつの間に?俺はあの頃あいつらと生活は別にしていたぞ?」


「タイミングなんていつでも有るわ、依頼の時に携帯している水筒に溶かしたり、寝ている貴方の口に流し込んだりね」


「...まさか」


驚愕の顔で私を見るマーク、ショックでしょうね。


「マルニータが」


「間違いないわ」


信じられないでしょうね、まさか恋人...元恋人がそこまでしていたなんて。

だから今までマークに言わなかった。


「それじゃマキナがあの時毎回飲ませてくれたのは」


「解毒剤よ」


「そうだったのか、ありがとう」


「ウハ!」


不意に抱き締められ思わず奇声が、こんなの我慢出来るもんですか!


「お陰で俺はサンプレスに勝てたんだ」


「それも違うよ」


「違うのか?」


「ええ、貴方の本当の力、私は少し手助けをしただけ」


「だとしてもマキナのお陰さ、ありがとう」


「どういたしまして」


私の手を握るマークの温かさ、本当にあのダンジョンで失わなくて良かった。


「あの時ダンジョンで俺を助けたのは?」


考える事が伝わる、以心伝心って事ね。


「貴方がサンプレスを倒したのを聞いてね、プライドが無駄に高い奴等だから何か仕掛けると思ってギルドから聞き出したの」


「それでマキナ達もあのダンジョンに?」


「ええ、怪我をさせてごめんなさい。

あいつらを見失った隙に貴方は...」


「いいんだ、スチュワートさん達もびっくりしただろうな」


「うん、間に合って良かった」


「あの時、俺を抱き留めてくれたマキナが女神に見えたよ」


「...そんな」


潤んだ瞳のマーク。これは、


「マキナ愛してる」


「私もよマーク」


ああ!マークの唇!!


「そうだったのかい」


「へー」


「「わ!!」」


突然の声に慌てて離れるマーク!

そんな!


「母さん、マリアも?」


「どうして?」


気配は有ったが、まさかこんな近くに居たなんて。勘が鈍ったわ!


「ママ、いい話じゃない!」


「う...」


恥ずかしい、マリアそんな目で見ないでよ!


「マーク、マキナちゃん、言いにくい事だったかもしれないけど、やっぱり言って欲しかったわね」


「ごめん母さん」


「すみませんお義母様」


「明後日マルニータ達が来るそうよ」


お義母様は腕を組み難しい顔で言った。


「そうなの?」


「本当母さん?」


「さっき町長から聞いたのさ。

で、あんた達マルニータをどうする気だい?」


『殺す!』

そんなのマリアの前で言えるもんですか!


「俺はどうでもいい」


「マーク?」


「なんのつもりで帰って来るのか知らないが本当にどうでもいいんだ。

俺にとってあいつ(マルニータ)は関心を持つ事さえ(わずら)わしいんだ」


「そうね、私もだよ」


「お義母様も?」


「私も!」


「マリアまで?」


「だって私幸せなんだもん!

その人がした事は許せないけど、ママとパパ、お婆ちゃんとお爺ちゃんが居る今がこんなに幸せだからそれで良いの!」


なんて出来た娘なの?

これは負けたわ。


「それでいいかい、マキナちゃん」


「...はい」


「それじゃ後は任せな」


「え?」


「マルニータが帰って来る訳は大体想像が付くよ、長年やってる宿屋の女将、その勘ってやつだね」


「はあ」


「母さん本当かい?」


「ああ」


自信たっぷりに頷くお義母様、この貫禄は真似出来ない。


「それじゃ私は行くよ。

マリアおいで、今日はお婆ちゃんと寝ようね」


「うん、パパ、ママごゆっくり」


「「マリア!」」


笑顔でマリアとお義母様はリビングを出ていった。


「....飲み直すか?」


「うん...」


マークは私のグラスに、私はマークのグラスにお酒を注いだ。


「改めて乾杯」


「乾杯」


(...また子供が欲しいな)


そう思った熱い夜だった。



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