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第1話 マキナ参上


「おはようマキナ、朝だよ」


「ん...マーク...」


朝寝坊の私を起こすのは最愛の夫マーク。

本当はマークよりも早く起きている。

でも毎朝こうして寝たふりをして貴方に起こして貰うのを待ってるの。


「さあマキナ、朝食が冷めるよ」


ふふ朝ごはんで私を起こそうなんて甘いわ、1年はそれで起きてたけどね。


「マーク...キスして...」


「あ、え?マキナ...そんな朝から」


可愛い!

顔を真っ赤にして狼狽えるマークを見ていたら冗談のつもりだったけど、本当にしちゃおうかしら?


「仕方ないな、早くしないとマリアが、」


「マリア?」


その言葉に慌てて身体を起こす。

私達夫婦の5歳になる1人娘マリア。

えげつない程のお父さんっ子、パパラブ娘なのだ。


「しまった!」


「マキナ?」


ベッドサイドでマークがタコさん口をしているけど申し訳無い、早くしないと私の朝ごはんが!


「おはようママ、遅かったね」


「ああ!」


息を切らしダイニングに駆け付けた私が見た物は口の周りをトマトソースとコーンスープで2周に染めたマリア。

そして綺麗に食べられ空になった私とマリアの皿だった。


「マリア、どうしてママの朝ごはんまで食べちゃったの!?」


「狸寝入りなんて姑息な真似をするからだよ」


「うぐ...」


僅か5歳の娘に言い返す事が出来ない。

確かに冒険者時代の癖か私は熟睡する事が余りない。

僅かな気配に気づかず、寝ている間に魔物の餌になってしまった仲間を大勢見たからだろう。


「...待って、どうしてマリアがその事(狸寝入り)を知ってるの?」


「スチュワートさんがこの前泊まりに来た時に聞いた」


「あの野郎...」


スチュワート‐アレックス、冒険者時代の仲間。

昔、私のテントに夜這いしに来たあいつを半殺しにしたっけ。

『誤解だ!』って最後まで叫んでたが。

意趣返しか?


「マリア、スチュワートの馬鹿が言う事を信じちゃいけません」


「やだ」


「マリア?」


「だってスチュワートさんの冒険のお話面白いんだもん」


確かに、ベテラン冒険者のスチュワートは貴族の出身と言うだけあって教養が高く、話に臨場感があったな。


「それくらいママだってしてあげます」


「やだ」


「どうして?」


「だってママのお話は

『バサッ』とか『シュバッ』とか擬音だらけで最後は『こうしてパパと結ばれました』、ばっかりなんだもん」


「だってそんな話上手な人って、そう沢山いないよ?

それにママの素晴らしいパパとの出会い、もっと聞きたく無いの?」


感動の足りない娘は呆れ顔で私を見る。

仕方ない、今から1時間の感動絵巻を語ってやろうか。


「マキナもう食べたのかい、さすがだね」


マークが私のシーツを手に持ちダイニングに入って来た。

毎朝こうして洗ってくれるの!って今何て?


「うんママ凄く早かったよ」


「うぇ?」


いつの間にか私の前に空になった自分のお皿が、元S級の私が全く気づかないなんて!

更にマリアは自分の口の周りを綺麗に拭いていた。

この娘只者じゃないわ!


「パパそろそろ時間だよ」


「分かった、それじゃマキナ行ってきます」


「あ、行ってらっしゃい」


マリアは椅子を飛び降りマークの手を取る。

娘は学校に行くのだ。

本来は8歳からなのだがスチュワートの奴が『マキナ、マリアは早く学校に行かせろ。あの娘は化けるぞ』

真剣な顔で言って、お義父様やお義母様が乗り気になったから行かしている。


スチュワートの見立てが正しかったのか、今や学校一の秀才らしい。

誰に似たんだろ?(私かな?)


学校まで本当は1人で行けるくせにマリアはマークに送って貰うのを日課にしている。


「あの()は」


「大変ね、マキナちゃん」


お皿を片付けようと立ち上がると後ろから声が掛かる。

気配は先程から察知していた、誰か分かっていた私はのんびり振り返る。


「お義母様」


「おはよう、また食べそびれたんだろ?ほら朝ごはんだよ」


「ありがとうございます」


お義母様が肉がサンドされたバゲット1本を直接手渡してくれた。

ありがたい、普段マークが用意している朝ごはんの倍はある。


「美味しいかい?」


「ふぁい、とっても」


一気にかぶり付く私を見るお義母様の目は優しい。

さすが冒険者の宿を30年以上営んでるだけの事はある。

この人の前で女の見栄(少食)は不要だ。


「お義父様は?」


いつも一緒にいるお義父様の姿が見えない。


「町長に呼ばれたわ。

何でも有名なA級冒険者パーティーがここに来るとかで宿泊の打ち合わせに」


「A級パーティー?」


「ええ、詳しくは知らないけど」


「そうですか...」


お義父様夫婦はここサイキシの町で唯一の宿を営んでいる。

狂暴な魔物が出る様な場所では無いし(全て私が狩り尽くした)

ダンジョンがある訳でも無い。


A級パーティーと言えば世界に50000あるパーティーでも上位100程しかいない。

そんな奴等がこんな田舎町に何の用だ?


「マキナちゃんどうしたの?」


「いいえ、何でも」


知らず知らずの間に目付きが険しくなっていたみたいだ。

お義母様は全く気にしないでくれるが、以前お義父様にうっかり見せてしまい腰を抜かされてしまった、気を付けねば。


「マークは?」


「し、主人は今日水源地の調査に」


「マキナ無理しないで、マークで良いのよ、マークで」


「そんな、お義母様の前で呼び捨てなんて」


恐縮する私にお義母様は優しい笑みを浮かべた。


「マキナ、貴女には感謝してるのよ。

マークは冒険者としては二流だった、でも一流を諦め切れないあの子を無事に連れて帰ってくれたでしょ?」


「そんな...」


確かにマークは冒険者を辞めて故郷の町に戻り役場で働いている。

でもそれは私が望んだ事、マークの実力は十分一流だった。


「いいの、あの子の実力は私が一番知っている。

沢山の冒険者達を見てきた私がね」


「お義母様...ごちそうさまでした」


これ以上話をしても埒が明きそうも無い。

バゲットも食べ終わったし、私も出掛けなくては。


お義母様夫婦と一緒に暮らす家を出た私は職場に向かう。

着いたのは冒険者ギルド、私はこのサイキシでギルドマスターを務めている。


「おはようカミーラ」


「おはようございますマキナさん」


扉を開け掃除をしていたカミーラに声を掛ける。

彼女はこのギルド唯一の職員。

小さなギルドには私と彼女の2人しかいないのだ。


「今日も暇ね」


「はい」


一緒に掃除を終えてカミーラは受付の椅子に座る。

私も奥の椅子に座るがギルド内には誰もいない。

依頼はあるが大した依頼がある訳でも無いので(どぶさらいや薬草採取等)冒険者は近隣の大きなギルドに仕事求めに行ってしまうのだ。


「またスチュワートさんに仕事を回して貰いましょうか?」


「やだ」


カミーラの言葉を却下する。

王都でギルドマスターを務めるスチュワートに頼めば大きな依頼は来る。

(ヘビーモスやゴブリンキングの合同討伐等)

でもそれは小さなギルドである私の所では手に余るのだ。


結局私が出張る事になってしまう。

戦うのは構わないが日帰りじゃない依頼だとマークに会えないじゃないか、離れたくないのだ(マリアにも)。


「でもギルドの運営資金が」


「そうよね」


カミーラの言葉に頭が痛い。

お金が無いとギルドが回せない。


「A級パーティーでも専属にならないかしら」


「そりゃ無理よ、そんな奴等王都から離れないし...」


そこでふと今朝の話を思い出す。


「ねえカミーラ、A級パーティーがこの町に来るそうだけど知ってる?」


「ふぁ!?」


カミーラは驚いた顔で振り返る。

『何で知ってるんだ?』って顔だ。

彼女は町長の娘だ、もう情報を聞いていたな。


「知ってるみたいね」


「知りません」


「嘘はいけねえ...カミーラ、嘘はよ」


思わず冒険者時代の口調に戻る。


「あ、ああ止めて!」


身体が動かない様に少し威圧を掛けてカミーラの肩に手を置く。


「まさか...」


「貴女肩が凝ってるみたいね」


「止めて~!」


肩の凝らないカミーラの肩を揉み解す、かなりコチョバイそうだ。


「で、話して貰える」


「は...はい」


上気した顔、カミーラは観念したね。


「パーティー名は漆黒の薔薇、マルニータさんがリーダーです」


「漆黒の薔薇?リーダーがマルニータ?」


はてどこかで聞いたな?

確か冒険者をしていた時に...


「あの...マークさんの幼馴染みだった人です」


「ああ!」


思い出した!

漆黒の薔薇はスチュワートから聞いたんだ、新進気鋭のパーティーで訳ありの女ばかり集まっているって。


「そうかリーダーはマルニータか」


「...マキナさん」


私の全身から殺気が迸る。

マルニータ、マークの幼馴染みで恋人だった女。



そしてマークを裏切り殺そうとした女....


カミーラが気を失って倒れる音がした。


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