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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
2-4.お近くのオカルト、ご相談下さい
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幕間.私共、オカルト秘密結社でございます

「早朝組、休憩シフト入りまーす」

「……おう」


 スーパーおかると新町店、昼。

 開店前から働いている早朝組の皆が食堂に向かうのを、開店時から働く朝組の班長をつとめる岡本吾郎は歯切れの悪い返事で見送った。

 スーパーおかると新町店は黒の十四軍との衝突以降、ギクシャクしている。

 圧倒的な実力を前にして張り合う事をあきらめたか、それとも嫉妬したか。

 この差がスーパーおかると労働組合に決定的な亀裂を生んでいた。


「仕方無いですよ。あいつらデタラメですから」

「アラン……」


 そんな岡本を彼を訪ねて来た人族の騎士、アランが慰める。

 彼はエルフィンとは別の国の騎士であったが、人族ゆえにエルフィンの事は良く知っている。

 アランはこの世界に渡る前から、黒の十四軍のデタラメさを知っているのだ。

 だからアランはサバサバしたもの。彼は始めからあきらめていたのだ。


「特にエルフィン・グランティーナは別格中の別格。俺達人族はおろか怪物だって全く歯の立たないデタラメの中のデタラメです。縁談を組まれた王子だってトンズラするし国を統べる国王だって土下座する。張り合うのが間違いってもんです」

「そうか……そうだよな」


 対する岡本は、嫉妬した側だ。

 岡本も大吉と同様、起きるのを惜しんで寝ゲーしまくった者の一人。

 寝ている時間もプレイしたゲームの数も誰にも負けない自信がある。

 しかし彼を訪ねたオカルトである騎士アランは、それなりだ。

 強いが黒の十四軍のような圧倒的な力は無い。


「俺と井出大吉、一体何が違うんだ?」

「さぁ?」


 岡本はスマホを操作し、自分が執筆していたブログを開いた。

 そこには今までクリアしたエクソダスのゲームタイトルがずらりと並んでいる。

 その中にはフラットウェスト社が最初にクリアしたと公認したタイトルも多い。

 それだけの数を寝まくってクリアしてきた。エクソダスのゲームに行き詰まったらここを見ろと言われる程には有名な、岡本の輝けるゲーム歴……だった。

 この世界にオカルトが現れるまでは。

 今はもう、色あせて見えるのみ。

 岡本はこのブログを見る度に黒の十四軍とアランを比べ、あまりの差に心を嫉妬に疼かせる。

 時間をかけてきた分、周囲から賞賛を受けていた分、岡本の嫉妬は大きい。

 あの圧倒的な差を見せつけられても消えぬ嫉妬が、心に渦巻いていた。


『こんにちは』


 そんな岡本が見つめるスマホがぺかっと輝き、画面に文章が現れる。


『私はVと申します』


 チャットだ。

 スマホでネットが当たり前となった現在、スマホでチャットは当たり前。

 ちょっとした事で写真や動画が配信され、コメントが溢れる。

 ブログを見た者だろうか……岡本が返事を返さず見つめる中、次の文章が現れた。


『スーパーおかると労働組合の、岡本吾郎様にご相談に参りました』


 いきなりの個人情報に岡本の身体が震える。

 ブログにそんな情報を載せた事は無い。

 今はちょっとした事で個人を特定される世の中。

 そして同級生が就職して働いているのに起きる間を惜しんで寝ゲーしていたとブログ読者に知れればこてんぱんに叩かれる世の中だ。

 だから岡本も細心の注意を払い、ブログを続けていたのだ。

 それが、なぜ?

 冷や汗を流す岡本のスマホに、次の文章が流れた。


『私が率いる秘密結社に参加して、世界を変えませんか?』

「……ここが黒島だと知って言っているのか?」


 たまらず岡本が返信する。

 ここは黒島。

 黒の十四軍の本拠地。先日の件もあったように情報など筒抜けだ。

 こんな奴らと関わりを持っていると知れれば間違い無くこてんぱんだ。

 すぐに黒の十四軍に……と、岡本が思った直後、Vの返信が来た。


『ご心配にはおよびません。我らのIは黒の十四軍の諜報軍すら欺く輝きの持ち主。この情報が漏洩する可能性はゼロでございます』


 文字がぺかぺかと輝いている。

 絵文字の一種かと岡本が目をこらすが、輝いているのは液晶では無い。

 輝いているのは文字そのもの。間違いなくオカルトだ。


『輝きの望むままに興味を喪失させる輝きスルー。Iの得意技です』


 周囲を見れば、誰も岡本の振る舞いに興味など持ってはいない。

 すぐ側にいる騎士アランもまるっと無視だ。

 スマホの画面は大きいから側にいれば文字は読める。

 それなのに誰も岡本に興味を持たず、スーパーの仕事を続けている。

 もう岡本も働いていなければならない時間だというのに、だ。


「このチャットは、黒の十四軍もわからないのか?」

『はい。諜報軍のAも、あのエルフィンも知らない事でありましょう』

「信じられん」

『何ならこのスマホを持って黒島支店に行き、エルフィン・グランティーナに見せてごらんなさい』

「……そうするさ」


 このまま黙っていたらこてんぱんなのだ。

 岡本はアランに外出する事を告げ、黒島支店のエルフィンにスマホを見せた。


『この、ダメ無限力女!』

「ぶっ!」


 Vのタイムリーな罵倒に岡本がのけぞる。

 しかしエルフィンは首を傾げ、岡本に聞いた。


「このスマホの待ち受け画面が、何か?」

「い、いや何も無い。うちの猫は可愛いだろ?」

「はい。可愛らしい猫ですね」


 岡本は慌ててスーパーおかるとに戻る。

 誰も、この事を知らない。

 あの黒の十四軍を、アランがデタラメ中のデタラメと評したエルフィン・グランティーナさえ出し抜く輝きが岡本の手の中にある。

 岡本の心に嫉妬が疼き、不安と恐怖が踊る。

 その心情を見透かしたかのようにVの文章が輝いた。


『お試し入社もOKですよ』

「えらく軽いな」


 輝く軽さに不安と恐怖が薄らぐ。

 いや、スルーされる。


『我が秘密結社が目指すのは世界をより良く変える事。オカルトの全力利用という、スーパーおかると労働組合が目指すさらに先でございます。共に貢献と賞賛の栄誉に輝きましょう』

「……じゃ、とりあえずお試し入社で」


 岡本の心に残るのは嫉妬のみ。

 疼く嫉妬が囁くままに、岡本はVの提案を受け入れた。


『ありがとうございます。そしてようこそ岡本様。我らが秘密結社の名は……』


 しばらくして、四文字がスマホの画面に現れた。



『ひらにし』



「平西? オカルト秘密組織なのに日本名なんだな」

『おおっと失礼。うっかりカナ入力で打ってしまいました』

「オカルトって、皆ヌけてるのか?」

『愛嬌と思って頂けると幸いです。それではもう一度』


 ぺかぺかぺか。画面が輝き文字が記される。


『VOIDでございます』

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