10.スーパーおかると労働組合、頭を抱える。
『明日、午前十時に予定している地震は、震度四。身の回りの準備をお願いいたします。壊れたら困るもの、揺れたら落ちそうなものは、前もって対処してください。また、午前中の不要不急の外出は、ご遠慮ください』
夜、スーパーおかると新町店の労働組合事務室。
労働組合の皆は頭を抱えていた。
部屋にあるテレビからは明日の分割払い地震情報が流れている。
はじめは震度三から始まった地震も今は震度四。分割払いが周知された事で上げられた震度は最終的に震度五になる予定だ。
そこから千回払い。
一日一回。払い終わるまでにおよそ三年。
巨大地震のエネルギーはすさまじい。
それを行っているのが黒の十四軍だ。
地殻の歪みを完全に制御し、決められた時間と規模で少しずつエネルギーを吐き出させる実力はスーパーおかると労働組合のオカルト達にはとても真似出来ない。
しかし彼らとてオカルト。
輝きで超常現象を起こす事は出来る。
人々が頑張っても出来ない事を、輝きで実現する事が出来るのだ。
そんな力があれば、有効に活用しようと考えるは自然の事。
だから彼らは労働組合を結成し、貢献を表明した。
しかし彼らが行っているのは照明、雨よけ、風よけ、荷物運び。
爆弾低気圧から大した事はしていない。
はじめはひどい災害が起こっていないだけだと思っていた。たまたまだと。
しかし何度も照明係を繰り返せば彼らもオカルト、さすがに気付く。
人々の中に、雨風の中に、そして大地に淡く輝くオカルトの輝きを。
そして彼らの耳に輝きが囁くのだ。
ちゃばーん……と。
「結局、黒の十四軍の掌の上と言う事か」
人間の誰かが呟く。
この世界の人間にとってエクソダスの世界はゲームでしか見る事は出来ない。
だから実力差などはじめは分からなかった。
しかし、オカルト達は初めから知っている。
「人族でエルフィン・グランティーナと黒軍を知らぬ者はおりません」
「我ら怪物の中でも同様」
「聖軍のエリザベスも獣人族では知らぬ者の方が珍しい強者です」
「黒の艦隊やロボ達は?」
「あれは我らの星の者ではありません。存在すら知りませんでしたよ」
「しかし要塞世界樹バウルと互角に殴り合える以上、とんでもない者達である事は間違いありません」
「この黒島もあのロボ達が作ったというではありませんか」
「黒の十四軍は我らにとってもオカルト存在。何もかもが雲の上の存在です」
彼らも世界を渡る実力者。それなりの実力はある。
そんな彼らから見ても黒の十四軍は底の見えないオカルト。どこまでの事が出来るのか見当も付かないのだ。
「奴ら、何をしようとしているんだ?」
「わかりません」
だから何をしようとしているかもわからない。
達人を知る者は達人のみ。
差があればあるほど言葉も行動も理解出来ないものになっていく。
スーパーおかると労働組合と黒の十四軍の実力差は圧倒的。真意など知るよしもない。
実力に劣る者の実力差を埋めるのは、羨望、嫉妬、そして疑念だ。
「……裏でロクでもない事をしているのではないのか?」
「まさか!」
「エルフィン・グランティーナは我ら人族に真摯でありましたぞ!」「黒軍も同様!」「聖女エリザベスもです!」
「それならばなぜ、このような事をコソコソやっているんだ? 災害を弱め、人々を動かす意味は一体なんだ? なぜ地震の分割払いのように公表しない?」
「それは……わかりません」
「だろう? 地震の裏でこっそり輝き、何かをしているのではないか?」
「しかし災害の弱体化や人々に危機を知らせる事は良い事なのではないですか?」
「今は確かにその通りだ。しかしこれが出来るなら逆も、災害の強化や人々を鈍感にする事も可能なのではないか?」
「それどころか操る事だって可能だ。都合の良い情報を頭にすり込めば良いのだからな。そうなれば誰も知らないうちに全てが思い通りだ」
「井出大吉がそれを?」
「まさか。井出大吉はただの隠れ蓑だ、協調アピールのダシに過ぎん」
そして多くの者が嫉妬や疑念を抱けば想像や妄想は膨らむもの。
彼らは口々に妄想を垂れ流し、やがて人間の一人が立ち上がった。
「黒の十四軍の目的を確かめねば!」
「そうだ! 彼らが裏で何をしているか探り、悪意あるなら止めねばならない」
しかし、彼らの意気はすぐに挫かれる事になる。
閉店作業をしていた組合員が駆け込んできたからだ。
「黒の十四軍が、店の前に!」
叫びに彼らは慌てて外に出て、そして絶句した。
「黒の、十四軍……」
出入り口の前に立つのは光の黒騎士エルフィン・グランティーナ。
並ぶのは金剛竜ブリリアント、巨人ガトラス、サキュバスフォルテ、スライムボルンガ、リッチービルヒム、聖女エリザベス・ウルフハウンド、黒の艦隊セカンド、グレムリン使いミリア・トゥルーフィールド、そしてA。
店を囲むのはグラン、アクア、ウィンザーらテラフォーミングロボ。
エルフィンらの背後には要塞世界樹バウルが、パウロ。
さらに天空には黒の艦隊クーゲルシュライバー。
黒の十四軍、全軍団長勢揃い。
彼らが頭を抱えている間にスーパーおかると新町店は、黒の十四軍に包囲されてしまっていたのだ。
「諜報軍の情報は、やはり正確ですね」
「我らを出し抜くくらいだからな。こやつらの考えなど筒抜けだろうさ」
「ありがとうございます」
エルフィンが一歩、前に出る。
そしてうろたえる彼らに静かに言った。
「私達は、私達がやりたいようにやっているだけですよ?」
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