8.黒の十四軍、オカルト千回払い
『本日午前十時ちょうど、地震が発生いたします。五分前からサイレンを鳴らしますので、サイレンが鳴りましたら火を止め、水を止め、物が落ちてこない安全な場所に移動して下さい。この地域は震度三の予定です。これは訓練ではありません。本当に起こります。サイレンが鳴りましたら、準備をしてください。繰り返します……』
その日の朝、日本の全自治体に流れた放送に人々は面食らった事だろう。
地震が指定した時刻に起こるなど聞いた事が無いからだ。
緊急地震速報は地震が発生してから報じるもの。地震が伝わる速度が電波よりも遅いから出来る事であり、数時間後の地震を予告できるものではない。
朝のニュースでも一斉に流された地震予告に人々は騒然。
当然、ネットも騒然だ。
『午前十時ちょうど?』『まだ三時間もあるじゃんか』『予知技術なんて無かったよな?』『訓練?』『いや、訓練では無いって言ってる』『本物かよ?』
『なんか、黒の十四軍が関わっているらしいぞ?』『遊びで地震?』『あいつらならやりかねん』『まあ、震度三なら日常だな』『うち、四国だけど震度三』『佐渡島だがうちも震度三だ』『東京も震度三だ』『待て、震源どこだ?』
『震源は南海トラフ全域の予定だと』『予定?』『全域ってなんだよ』『あいつら本当にデタラメだな』
ニュースで情報が出る度に話題が変わる。
日本は地震大国。それだけ地震に対する関心も耐性も高い。
人々は半信半疑ながらも準備を整え、午前十時を待った。
そして予定通りに五分前にサイレンが鳴り、午前十時。
グラリ……地面が揺らめいた。
『揺れた!』『マジか!』『オカルト震!』『震度は?』『三くらいじゃね?』『四国もそのくらいだな』『東京もだ』
皆が騒ぐなか地震は続き、一分ほど揺れたところで静寂が訪れる。
ふたたび放送が流れた。
『本日の地震は、終了です。身の回りをご確認下さい。皆様、ご協力ありがとうございました。次回の地震は明日、午前十時の予定です』
そしてテレビ各局も終了をアナウンスし、次回の地震を予告する。
『次回予告!』『これ、地殻を制御してるって事?』『デタラメだ!』『あいつら、地震よりもハイパワーって事かよ』『とんでもねーっ』
『なんか千回の分割払いとか』『そんなにタマッてるのかよ』『そろそろ来るって言ってたもんなぁ』
始まる前も騒然、終わった後も騒然。
かくして、オカルト千回払いが始まったのである。
「井出さん。やっぱりすごい騒ぎでしたね」
「そうですね。これが千回かぁ……」
そして黒島役場。
ネットの喧噪を見つめながら、大吉は谷崎に頷いた。
エルフィンが言った通りの震源、規模、時刻。
前もって大吉がスマホで調べたところ、南海トラフ地震の想定マグニチュードは八から九。
さらに調べたところ、核実験で使われた五十メガトンの核爆弾のエネルギーがマグニチュード八程度らしい。
マグニチュードは数字ひとつ違えばエネルギーが三十倍くらいになる。何十年にもわたり蓄積される地震のエネルギーとはとんでもないものなのだ。
そんなのを小出しに出来るエルフィン、さすがデタラメ一号。
そのエルフィン、大吉の言葉に首を振る。
「いえ、これは千回払いの内に入りません」
「は?」
「信じて貰わなければ危険ですからね。それを示す為に最初は小規模に行い、皆が信じた頃に本番を開始します」
「これ、チュートリアルなの?」
「当たり前ではありませんか」
さすが一撃で地上から宇宙艦隊をこてんぱんにするデタラメ一号。
とんでもねー。
「大吉様、我ら黒軍だって出来ます」
「私は出来ませんです!」
「出来るでしゅ」「テラフォーミングの範囲内です」「ですぅ」
「黒の艦隊もテラフォーミングは出来る。だから当然可能」
「わてもグレムリン使いやから、酒くれればやるでぇ」『『『サケーッ!』』』
「お前ら、毎日遊んでばかりなのになぁ……」
「「「「「「「「「「「「「ひどい!」」」」」」」」」」」」」
「すまんすまん」
黒軍は出来る、エリザベスは出来ない、三幼女は出来る、黒の艦隊は出来る、ミリアは出来る。
普段とのギャップが素直に口に出てしまった大吉は皆の抗議に頭を下げ、気になった事を聞いてみる。
「で、スーパーおかると労働組合は?」
「「「「「「「「「「「「「無理」」」」」」」」」」」」」
そりゃそうだ。
エリザベスが出来ないのだからそれ以下のスーパーおかると労働組合が出来る訳がない。言わずにやってる黒の十四軍とは違い、オカルト貢献を表明している彼らは今から前途多難だ。
「お前ら、なんでそんなにデタラメなんだよ」
「大吉様のせいに決まってるではありませんか」
「いや、俺は遊んでただけだし」
「私達とは遊びだったのですか!?」
「うん」
「「「「「「「「「「「「「ひどい!」」」」」」」」」」」」」
「すまんすまん」
だって仕方無い。寝ゲーなのだから。
と、大吉と皆がじゃれあっている間にも世界は動く。
谷崎が大吉に声をかけた。
「井出さん、なんか来るみたいですよ」
「へ?」
爆弾低気圧。
声をかけられ大吉が見たテレビの画面に、そんなテロップが踊っていた。
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