7.起こらない事はわからない
『昨日、黒島で新たにオカルト労働組合が誕生しました』
次の日の朝。黒島大吉アパート大食堂。
大吉は皆と共に、新たな労働組合のニュースを眺めていた。
『名称は「スーパーおかると労働組合」。この労働組合は黒島を作り上げた「黒の十四軍」とは別のオカルト達により作られた労働組合であり、オカルトによる災害の削減を目的として活動するそうです』
『黒の十四軍の対応は?』
『黙認です。過去「黒の十四軍」を経済的に利用しようとした事でオカルトの経済的活用は制限されましたが、災害を減らす目的ならば問題無いという事でしょう。オカルト活用に新たな道が開いた事になります』
『これで災害の悲劇が減ると良いですね。では、次のニュースです……』
テレビは大絶賛。
「ムシのいい事言ってるなぁ……」
そんなテレビを苦々しく見る大吉だ。
大吉にも大絶賛する気持ちはよくわかる。
技術が発展しても手に負えない災害というものは多くある。
また、技術があっても経済的な理由で出来ないという事も多い。
作る時には莫大な費用がかかり、維持するのにそれなりの費用がかかる。
そんなものをオカルトにぶん投げられるなら願ったりかなったりだろう。ムシも良くなろうってものである。
「大吉さん、スマホ検索ですごい反響ですよ!」
「どれどれ?」
あやめの言葉に大吉と皆があやめのスマホを覗き込む。
『スーパーオカルト労働組合?』『超オカルト?』『怒髪天で輝くのか?』『黒の十四軍よりすげえのか?』『だってスーパーだぞ。超だぞ』『すげえ!』
「違うぞ。店の名前だ」
もう言葉遊びかよ。
スマホの画面に大吉はツッコミを入れた。
ニュースでは『スーパーおかると新町店の労働組合』とテロップが出ていたので勘違いしている者はいないだろうが名称だけを聞いたら超オカルト。
この言葉遊びからズレた認識が広がっていくんだろうなぁと思う大吉だ。
黒島に引きこもった黒の十四軍に代わるオカルトの活用に皆、沸いているのだ。
『黒の十四軍オワッタ』『まあ、あいつら黒島で遊んでるだけだし』『期待外れだよなー』『黒島歓迎音頭より俺らの役に立ってくれよ』『井出大吉は一時間労働らしい』『その話題は気をつけろ、呪われるぞ』『井出大吉様にはそろそろ働いて頂きたく思う今日このごろでございます』
「大吉様は働いています!」
「いや、世間では一時間労働は働いてない方だから」「ええっ!」
仕事が無いとはいえさんざんな評価と丁寧な罵倒に大吉は苦笑い。
持ち上げられる対象が出来れば落とされる対象も出来る。
スーパーおかると労働組合の誕生により黒の十四軍は株を下げた形だ。
しかし黒の十四軍の株が下がっても、黒の十四軍が爆上げしたオカルトのハードルが下がる事は無い。
世の中はそんなものである。大小全て「オカルト」でくくられている現在、スーパーおかると労働組合は黒の十四軍への期待が全てぶん投げられる事になる。
昨日誕生したばかりなのに、今から前途多難だ。
「そういえば大吉様は彼らに条件を出されましたよね。大吉様はなぜ、あのような条件を出されたのでございますか?」
フォルテの問いに大吉は答えた。
「国際条約違反ってのもあるけど、欲には際限が無いからな。オカルトにも限界が有る以上、欲と離れた事柄に限定しないとまずいだろ」
まあ減災にも経済的な側面があるのだが、災害を許容範囲内におさえるピークカットなら欲に絡みはしないだろう。
世間ではオカルトは不可解で底が知れないと思われている。
言葉を変えれば何でも出来ると思われている。黒の十四軍のデタラメが植え付けたものだが、何でもぶん投げられては彼らもたまったものではないだろう。
それが災害に限定した理由だ。
「それでは、未然に防ぐ事は?」
「ダメになる前に何とかしてくれよと、普通は思うだろ?」
「それは……当然ですわね」
何でも出来ると思われているなら、被害が出る前に何とかせねば恨みを買う。
大吉はニュースで言っていた言葉を思い出し、皆に聞いてみた。
「皆は『悲劇』って何だと思う?」
「誰かが悲劇と思ったら悲劇。そうですよね?」
「悲劇とは主観だからな」
エルフィンとブリリアントが即答し、皆がうなずく。
大吉もうなずいた。
「さすかだな」
「当然です。戦わずして光の黒騎士の名を頂いてはおりません」
「我ら黒軍とて同じ。力を示したからこそ一目置かれているのでございます」
戦えば勝敗が生まれ、悲劇が起こる。
オカルト達のこてんぱん世界にもこてんぱん世界なりの悲劇がある。
強者や英雄は多くの悲劇の上に立っているものだ。
「未然に防ぐってのはそういう『悲劇』を減らす意味もあるんだよ。今のところオカルトは何でも出来ると思われてるフシがあるからな。恨まれないに越した事はないだろ」
ほとんどの人にとって、無縁の大勢より身近な一人の方が重要。
距離でも規模でもなく、残された人々の心情が悲劇。欲と同じく際限が無い。
そんな恨みを出来なかったという理由だけで押しつけられてはたまらない。
災害が起こるのは世界の都合。オカルトの責任ではないのだ。
「それならば、彼らがする事は何も無いでしょう」
「そうだな」
「へ? 何かしてるの?」
えっへん。
エルフィンとブリリアントの言葉に大吉が首を傾げると、皆が胸を張る。
「輝き弱体化と輝き虫の知らせです」
「災厄の力を弱めると共になんとなく嫌な感じを与えて注意を促す。そのくらいの事は我ら造作もありません」
「獣達もがんばってるです!」
「わてもセカンドもロボちゃん達もグレムリンで色々しとるでぇ」
「タイマー切ったり、ブレーカー落としたり」
「オカルトのせいにされたら困るでしゅ」「大吉しゃまのせいにされるです」「だから色々するですぅ」
「……お前ら、そこまでするならもっとしっかり教えてやれよ」
大吉がそう言うと、皆は明後日の方を向く。
「私達は神でも保護者でもありませんので」
「ここまでやってダメなら、我ら黒軍も知った事ではありませんな」
「獣も同じくです!」
「すでにサービス過剰やでぇ」
「全くその通り」
「でしゅ」「です」「ですぅ」
別に黒の十四軍が何もしていない訳じゃない。
ただ、皆が知らないだけ。
起こらない事はわからない。だから評価もされない。
皆はそれでも良いと思っているのだ。
「でも、地震は耐えられる程度の千回払いなんだな」
「それ以上細かくしたら、面倒臭いではありませんか」
「そりゃそうだ」
そしてオカルトにだって都合はある。だからやりたくない事もある。
大吉は笑った。
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