5.オカルトも、集えば派閥が出来るもの
「店長、倉庫の整理終わりました」
「よし、今日の仕事は終わりだな」
「はい。お昼にいたしましょう」
平日昼、黒島支店。
配達と荷物の整理が終わった大吉は、額の汗をぬぐった。
住民のほとんどはオカルトだから集荷も無い。
谷崎に頭を下げて得た自衛隊関連の仕事をこなせばもうおしまい。相変わらずの一時間仕事だ。
最近スーパーおかると新町店が開店したが、あっちはオカルト社員の担当。
「収穫、持ってきましたー」「仕分けまーす」「積みまーす」「乗りまーす」
樹軍は海から海産物を、竜軍と鬼軍と獣軍は農地から農作物や肉を黒島支店に集め、屍軍が荷物をまとめてグレムリンが宿ったぶるるん達に積み込み、ぶるるん達が要塞世界樹パウロに乗り込む。
「昼の配達に行ってきまーす」
そして、しゅぱたん。
パウロが配達に動き出す。
配達先はスーパーおかると、そしてそれぞれの軍の町だ。
バウルらに続き運送会社に入社したパウロはホームぺージに黒島移動支店として紹介されている。店長は当然大吉だ。
荷物がどれだけ多くてもパウロなら楽勝。
町がまるっと入ってしまう要塞世界樹の運搬力は半端無く、大吉が勤める運送会社の一日の全物流量も軽々運べる大容量。
そんななので、もう全部パウロでいいじゃんみたいな紹介がされていた。
パウロはまず新町でスーパー行きのぶるるんを降ろし、そこから黒島大吉アパート前の広場に移動してぶるるんを降ろし、ぶるるんがそれぞれの配達先に向かう。
それが黒島オカルト流通だ。
「どうですか大吉様! 我らの修行の成果は!」
「お前ら、もう一人前だな」
というか、俺よりずっと立派だな。
自慢げに語るブリリアントに苦笑いの大吉だ。
自衛隊駐屯地の食料と雑貨だけを扱っている大吉と黒島全オカルトを相手にしているブリリアントらの物量は雲泥の差。
ムダに広かったトラックターミナルも有効活用されて満足だろう。
「まあ、私達なら輝き転送で全部解決なのですが」
「わかっておらぬなエルフィン」
「そうだぜ。手間をかけるのがいいんじゃねーか」
「てま、ひま」
「確かに輝き転送なら一瞬で終わるでしょう。ですがそれでは大吉様に失礼というものです」
「……暇潰しと言ってるようなもんだよな、それ」
「「「「ええっ!」」」」
このオカルト共めと、心で呟く大吉だ。
スーパーおかるとは繁盛しており、運搬する食材は量も種類も増える一方。
先日売り場を拡張し、人手不足で求人を出すほどだ。
ミリア率いる生産軍の手にかかれば売り場もサクッと拡張。オカルトとはまったく便利なものである。
そんな事を思いながら大吉がエルフィンと雄馬と共にボルンガレストランで昼食を食べ終わると、パウロが配達から戻って来た。
「配達、終わったよーっ」
「お疲れさま」
そして求人に応じた者が、パウロから降りてくる。
ルビーレッドやピンキーといった黒軍の家族だ。
「大吉様!」「大吉様こんにちは!」「今日もお暇げふんげふん、スローライフが輝いております!」
「余計なお世話だよ!」
仕事無いんだから仕方ないじゃんと大吉は心で呟き、皆を出迎えた。
皆はパウロの午後の配達と共にスーパーおかるとに行き、パートとして働くのだ。
「どんな仕事があるんだ?」
「私達竜軍家族は主に宅配を担当しております」「今日も運ぶよーっ!」
ブリリアントの妻子、パートで宅配。
フットワークの軽い一家だ。
「鬼軍は主に陳列と接客でございます」
「惑軍も接客です」
「獣軍は商品運搬ですね」
「屍軍は主に裏方です。揚げ物など惣菜各種を作っておりますよ」
「え? 屍が惣菜作ってるの?」
屍が料理に盛り付けたり、コロッケに衣付けたりしてるの?
なんか嫌だなぁと大吉が思っていると、屍の皆が騒ぎ出す。
「ひどい!」「屍差別!」「屍ケアは完璧なのに!」「大吉様より絶対手間かけてます!」
「あー、悪かった悪かった」
新陳代謝も免疫も無い屍、生きてる大吉より色々面倒臭い。
何もしなくても身体が何とかしてくれる大吉より気を遣っているのだ。
「「「まあ、ケアは輝き一発なのですが」」」
「……」
あっはっは……屍の皆が笑う。
何でもかんでも輝き解決な屍達に、このオカルト共めと心で叫ぶ大吉だ。
「そうだ大吉様。最近スーパーおかるとの店員を二分する論争があるんですよ!」
「……なに?」
「炭派と反炭派です」
「好きにすればいいじゃん」
「「「そんな!」」」
「あいつら炭の美味さがわかってないんですよ」
「本当。黒がわからない方って、困りものですわね」
「いや、お前らの黒好き過ぎの方が困りものだ」
「「「「ひどい!」」」」
黒好き過ぎの元凶の大吉、黒否定。
まあ、議論できる事は良い事だ。
これまでは黒の十四軍の価値観一辺倒だったが新町の住人も増えてきた。
数は力。黒の十四軍の黒ゴリ押しに否を言えるようになってきたのだ。
大吉はいつものように暇げふんげふん仕事上がりの雑談を楽しみ、パウロに乗ってパートに出る皆を手を振って見送った。
「さて、俺らも帰るか」
「そうですね」
大吉とエルフィンが店じまいの後片付けをしていると、駆けてくる者がいる。
谷崎だ。
「井出さん! Aが黒島に不穏な動きがあると!」
「諜報軍って黒島の諜報もやってたのか」
あいつらどこでも諜報してるな。
感心する大吉だ。
「どうやら新町のオカルト達の中に、今の方針に不服な者がいるようです」
「炭派と反炭派ですか?」
「は? そんな個人の趣味の次元ではありません」
谷崎は大吉の言葉に首を傾げ、言った。
「積極オカルト派です」
「……」
数は力だな。
と、大吉は思うのであった。
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