3.オカルト労働? 争議
「ご利用の目的は?」
「里帰りです。あと限定品の買い物に」
「お戻りのご予定は?」
「三日後になります」
「それでは二泊三日ですね? 黒島でご利用されている各種オカルト品の持ち出しは出来ませんのでロッカーにお預けの後でご利用をお願いします。いってらっしゃいませ」
朝、黒島大吉アパート。
エルフィン(分身)は頭を下げて、オカルトと人のカップルを見送った。
このカップルが利用するのは黒島大吉アパートと東京大吉アパートを結ぶ輝き転送ゲートだ。
黒の十四軍だけで始まった黒島も人とオカルトがだいぶ増え、ずいぶんにぎやかになってきた。
しかし黒島、住めるだけで何も無い。
畑と港とトラックターミナルは充実しているが、店と娯楽の類はまるで無い。
オカルト達はそれでも別にいいやといった感じで暮らしているが人間はそうもいかない。里帰りしたい、あの店がイベントやってる、あの映画が見たい、牛丼食べたい等々、これまでの生活をたまには味わいたいと思ってしまうものなのだ。
商品はネット経由で買い物が出来るようになっているが、その場に行かなければどうにもならない品やサービス、娯楽があるのも事実。
そして最近、とうとう島抜けが発生した。
限定品がどうしても欲しい人が東京に行きたいとオカルトに頼み込んだのだ。
その時は東京に無事に到着したのでこてんぱんで済んだのだが途中で遭難されると非常に困る。なにしろ黒島から東京までの数千キロは太平洋。海に落ちたら泳ぎが達者とかでどうにかなる領域ではない。
そんなわけで、大吉は黒島大吉アパートと東京大吉アパートをつなぐ輝き転送ゲートを利用できるようにした。
利用受付は黒島絶対最強オカルト、エルフィン。
バウルやブリリアント、セカンドといった実力派オカルトすら一撃こてんぱんなエルフィンは輝き分身で作った分身だって超強い。
ちょっと力が減った程度では最強の座は揺るがない。
そして大吉に迷惑をかける者には本当に容赦なく、力はオカルト非常識。
その事をよく知っている黒島住民はにこやかに送り出すエルフィンに決して逆らう事はなく、ルール遵守は現在のところ百パーセント。問題も全く無い。
はじめは良い顔をしなかった黒島役場の谷崎も問題が無ければ黙認。最近は自衛隊駐屯地の者達の利用も許可され、休日になると黒島大吉アパートは大盛況だ。
受付はアパートの玄関にある。
エルフィン(分身)がカップルを送り出した直後、大吉達が訪れた。
「エルフィン、お疲れ様」
「「ありがとうございます」」
ぺっか。
分身と本体、輝くエルフィン二人に苦笑いな大吉。
「今日の利用者はどんな感じだ?」
「里帰りが二組、買い物が三組、映画鑑賞が一組ですね」
「買えるモンならわてが作るのになぁ」『『『サケーッ!』』』
「いや、パチモンだからそれ」
ミリアに頼めばそっくりそのまま作れてしまうが、パチモンと分かっていればありがたみは全く違うので意味は無い。
人が増えると何かと配慮が必要になるなぁと思う大吉である。
「大吉様はどちらへ?」
「労組が労働争議をしていると聞いてな。心配なので見に行くことにした」
「そうですか。いってらっしゃいませ」
エルフィン(分身)が大吉とエルフィン(本体)らを見送る。
働かない黒島オカルト労働組合の労働争議って何を要求するんだ?
と、首をかしげながら大吉が事務所を訪れると、黒の十四軍の皆がプラカードを手に広場を練り歩いている。
ああ、なんとなく労働争議っぽいなぁ。
大吉が妙に感心していると、ブリリアントやバウルが叫ぶ。
「大吉様の休みを増やせー!」「「「働かせるなー!」」」
「我らを大吉様と遊ばせろー!」「「「遊びたーい!」」」
「ド直球だなオイ!」
さすが働かなくても困らない黒の十四軍。要求が極端だ。
思わず叫んだ大吉に皆が気付き、プラカードを手にわらわら集まる。
「大吉様だ!」「労働組合の長がいらっしゃったぞ!」「遊びたーい!」
「ブリリアント、何してるんだ?」
「せっかく結成した労働組合ですからな。我らも労働争議とやらをしてみようと思いまして」
ブリリアントは事務所の周囲の様々な施設を大吉に示す。
「ステージ!」「いや、労働争議って黒島歓迎音頭とか踊るのかなぁ?」
「そして露店!」「まあ、人が集まるからな」
「さらにデモ行進!」「さっきのか」
メーデーなどにはよくある諸々だが、どこかが違う。
こっちは完全に遊びだ。
「普通は報酬上げろとか要求するもんだがなぁ」
「大吉様と遊ぶのが報酬です!」
「あとは休日増やせとかかな?」
「ですから大吉様の休みを増やすことを求めております」
「……お前ら、それ本社には絶対言うなよ? これ以上仕事が減ったら困るからな」
本気にされると超困る。
大吉はブリリアントらに注意する。
だがしかし、こんな面白いネタを動画投稿者が放置するわけがない。
竜二とノエルが投稿した動画は億超え大ヒット。オカルト謎の祭りとして全世界に晒されるのである。
『井出君、あれはどういった要求なのかね?』
「いえ、決して私の要求ではありません。あいつらのアレは遊びですから本気にしないで下さい」
「「「ひどい!」」」
数日後。
本社からかかってきた電話に大吉はひたすら頭を下げた。
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