2.お近くのオカルトが相談してきた
「ただいま」「ただいま戻りました」「ただいまです!」
日曜朝、黒島オカルト労働組合事務所。
朝の散歩から戻って来た大吉は、エルフィンと犬エリザベスと事務所を訪れた。
黒島オカルト労働組合は黒島大吉アパート近くに建てられた黒島大吉アパートそっくりの建物だ。
もはや聖なる建物扱い。大吉アパート謎出世に苦笑いの大吉だ。
「大吉様、お帰りなさいませ」
「フォルテ、お疲れ様」
「おお大吉はん、おかえりなー」『『『サケーッ!』』』
「ぬおっ、酒臭え!」
大吉アパートから仕事場をこちらに移したフォルテと酒蔵に使っているミリアが出迎える。
フォルテを軍団長とする惑軍は朝から仕事。真面目なサキュバスである。
ミリアとグレムリンは朝から酒。不真面目な職人である。
「フォルテはんも暇なんだから酒やで酒」
「まあ、暇なのはその通りですわね」
しかしミリアの言う通り、一時期超絶忙しかった事務所は閑古鳥が鳴いている。
「エルフィン達がやりすぎたかな?」「ええっ!」
原因は明確。
エルフィン、ブリリアント、バウル、セカンドといった実力派オカルトがいたずら電話に対応したからである。電話をかけたら何か不幸が起こるのではないかと疑われているのだ。
いたずら電話はぱったり終了したが、電話すること自体の敷居が爆上がり。
電話そのものが滅多にかかってこなくなってしまった。
うまくいかないものである。
「仕方ないでぇ大吉はん。あのままじゃ仕事にならんしな」
「まあな。しかしミリアは酒の銘柄が結構増えたなぁ」
「知ったら飲みたくなるんや。かんにんやでぇ」『『『サケガーッ!』』』
「酒のせいにすんな」
ミリアだけはホクホクだ。
うまい酒をしこたま教えてもらって今日も朝から酒びたり。
自衛隊で演習用建物を建築したり演習場の地形を変更したりして稼いだバイト代を全て酒代につぎ込んでいた。
生産軍にかかればあらゆる土木作業もホホイと完了。グレムリン様々だ。
「しかしこのままじゃ、オカルトがいても電話がかかってきそうにないなぁ」
「困りましたね」「です」「せやなぁ」『『『サケーッ!』』』
「そうですか?」
しかし皆が困る中、エルフィンは特に困った様子も無い。
「エルフィン、困らないの?」
「セカンドら宇宙軍と諜報軍が動いていますし、私も黒軍もオカルト探査くらいできますから。どこにいようが輝きアクティブソナーでバッチリです」
「何それ?」
「放った輝きがオカルトに衝突した際の輝き反射を調べるのです」
「ほとんど攻撃じゃん。緊急の時だけにしてね」
「ええっ!」
オカルトを見つけ出すのにオカルト介入。
そんな事で世界中ぺっかぺっか輝かせたら外交問題になってしまう。緊急時以外はやめて欲しい大吉だ。
そんな中、電話が鳴る。
フォルテが電話を取った。
「はい、黒島オカルト労働組合でございます」
『あの……こちら黒島オカルト労働組合でしょうか?』
「その通りです。お近くのオカルト情報でしょうか?』
『いえ……私が、オカルトです』
「は?」
オカルトだ。人間ではなくオカルトだ。
まさか最初のまともな電話がオカルト自身だとは思わなかった……と、スピーカーから流れる音声に思う大吉だ。
そして電話の先のオカルトは、フォルテにポツポツと話し始めた。
『あの、なんか要求が、周囲の要求がすごいんです』
「はい?」
『オカルトだからマッハ四以上出せるでしょ? とか輝き転送使ってとか輝き分身してとか月に行きたいとか色々求められるんです。そんな事出来ないのに!』
オカルトの苦悩、だいたい黒の十四軍のせい。
こいつらが様々な事をするせいでオカルトへの期待が爆上がりしているのだ。
大吉はフォルテから受話器を受け取り、頭を下げて謝罪した。
「すみません。うちの皆がデタラメだらけですみません」
「「「「ええっ!」」」」
『もう少しオカルト常識をわきまえてくれないと、私みたいな一般オカルトが困ります!』
「すみません。皆によく言っておきますので」
「「「「オカルト非常識!」」」」
オカルト常識、一般オカルト、オカルト非常識。
謎の言葉が飛び交う黒島オカルト労働組合。
そして電話の後、黒島オカルト労働組合は一人の一般オカルトを組合役員として迎え入れた。
光の白騎士リリィ・カーマイン。
黒の十四軍が最初に迎えた一般オカルトだ。
「リリィ、一般オカルトとして労働組合の役員を頑張って下さい!」
「ええっ? やっぱりオカルト最弱ですか?」
まあボルンガレストランの従業員だから、組合役員でもいいか。
そんな事を思う大吉であった。
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