1.オカルトにいたずら、ダメ
『あなたの近くの不思議現象、もしかして最近流行りのオカルト?』
『オカルトの利用は国際条約で制限されております』
『オカルトを身近に感じたら、お気軽に黒島オカルト労働組合にご相談ください』
おいでまーせー、おいでまーせー、くろーしまー……踊るオカルトをバックに黒島オカルト労働組合の文字と問い合わせ電話番号がババンと出る。
踊る怪獣あり、踊る世界樹あり、踊るロボあり、鬼獣サキュバスあり。
黒島大吉アパートでテレビコマーシャルを見ていた大吉は、谷崎に言った。
「……谷崎さん、間違い電話がかかってきませんか?」
「黒島がテーマパークとして解放されたと勘違いする方が多いですね」
「それなら労働組合なんて名前にする訳ないのになぁ」
「おかげで旅行会社からもまぎらわしいとクレームが来ています」
このコマーシャル、見た目は完全にテーマパークの宣伝だ。
しかしこれは政府広報。オカルトが身近で妙な事をしていたらすぐにお知らせ下さいというアナウンスであって、楽しい夢の島の宣伝では決してない。
おかげで窓口担当のフォルテら惑軍は大忙しだ。
「すみません。俺がいつもの感覚で動画を作ってしまってすみません!」
「親しめる動画にしようと提案した私が悪いのです!」
作成者の竜二とノエル、頭をテーブルにこすりつけて謝罪。
「人手が足りませんわ! 惑軍の皆がてんやわんやですわ!」
「すみません姐さん!」「姐さん、申し訳ありません!」
二人はサキュバスの頂点、惑軍団長フォルテ・クレッツェを姐さんと呼び、ひたすら頭を下げる。
まあ、そのうち間違いは減るだろう。
これがテーマパークの宣伝ではなく政府広報であるという事実はじわじわと広がっている。そのうちブームもおさまるはずだ。
と、大吉は楽観していた。
が、しかし……電話は超増えた。
フォルテが叫ぶ。
「大吉様! 電話がどんどん、どんどん増えてます!」
「なんで?」
「その原因、私が究明いたしましょう!」
首を傾げる大吉に自信満々叫ぶ者がいる。
いつもAの席を陣取る、五月あやめだ。
「おお! さすが時代の最先端をいくエクソダスの第一開発部!」
「スマホで検索!」
「俺と変わらん!」
感心して損したと思う大吉だ。
そして検索してみると……
『サキュバス、癒やされる』『声素晴らしい』『魅了されるん』『夢見せてー』
「……人気コーナーになってるな」「ええっ!」
多くの電話、癒やし目的。
ちなみにインキュバスは女性に大人気だ。
フォルテが驚愕する様を巨人ガトラスが笑う。
「ま、惑軍は愛が全てだから仕方ねぇ。明日は俺ら鬼軍でやってやるよ」
そして次の日、鬼軍の評判をあやめが検索。
『ガトラス、ガラ悪いなぁ』『さすが鬼軍』『怒鳴られた!』『怖い(笑)』
「やっぱ人気コーナーになってるな」「なんでだ!」
怖いもの見たさだ。
「つぎ、やる」
叫ぶガトラスにボルンガがぷるんと揺れる。
そして次の日、獣軍の評判。
『ボルンガ、喋るの遅いな』『バカ、あれがいいんじゃねーか』『がんばれ!』
「まあ、分かってたけどな」「あれ、えー?」
某国民的ゲーム以降、日本ではスライムは癒やし扱い。
当然の結果だ。
「ホホホ、ここは不条理の権化、動く屍の私共がやりましょう」
次の日、屍軍。
『屍と会話した!』『あなたの知らない世界!』『これは夏にバズる!』
「怪談扱いだ」「さすが大吉様の世界。一筋縄ではいきませんなぁ」
鬼軍と同じく怖い物見たさ。
その後もこんな調子が続く。
『でかい犬!』『お手!』『もふもふしたい!』
「です!」
聖軍、犬扱い。
『幼女最高!』『幼女尊い!』『癒やされる!』
「「「わぁい!」」」
ロボ陸海空軍、癒やし扱い。
『酒の話した』『オススメの銘柄を教えてやった』『感謝された!』
「かんにんやー。大吉様かんにんやでぇ」『『『サケーッ!』』』
生産軍、酒の話ばかり。
Aは当たり前のように食事には出てこないので、今回の騒動にはノータッチ。
この有様に、ついに黒の十四軍の大御所が重い腰? を上げた。
「それでは、明日からは私が」
「我もやろう」
「俺もだ。このままでは大吉様と遊ぶ時間が大ピンチだからな」
「宇宙軍の出番です」
エルフィン、ブリリアント、バウル、そしてセカンド。
エルフィンと世界が認める実力行使オカルト軍だ。
『ブリリアントが出た!』『俺はバウルだ!』『セカンドきたーっ!』
超有名な軍団達、はじめは超人気。
が、しかし……
『近衛軍のエルフィン、一人なのに結構電話に出るよな』『輝き分身じゃね?』『動画実況者が同時に電話かけたら全部に出て来て個別に説教してたぞ』『そりゃ二十億は出せるんだから当然だろ』
『電話切ったのにイタズラするなと説教が続く!』『宝クジ外れた!』『タンスの角に小指打った!』『大家に捕まって滞納家賃を分捕られた!』『近衛軍すげえ!』『頭に鳥のフンが!』『竜軍!』『庭の雑草が急成長してとんでもない事に!』『樹軍!』『流れ星がたくさん!』『宇宙軍!』『オカルトだ!』『オカルトの呪いだ!』『えんがちょーっ!』
こわいもの見たさも、実感があれば無くなるもの。
特に竜軍、樹軍、宇宙軍の世界を振り回したオカルト力は超有名。
あいつらならこの程度の不幸は楽勝だと肝が冷える皆である。
警察に被害届を出した強者もいたが関連が証明できるはずもない。逆にいたずらを注意される始末だ。
『出来る』は『やった』ではない。
関連がまったく証明出来ないところがオカルトの怖いところだ。
「何もしていませんから、偶然ですね」「偶然だな」「偶然だ」「偶然」
当たり前だがエルフィン達は無関係を主張。
そしていたずら電話、ぱったり終了。
オカルトの仕業なのか、オカルトの言う通り偶然なのか……
いたずら電話をかけた者達は、しばらく悶々とした日常を送る事になる。
「で、実際はどうなの?」
「偶然に決まっているではありませんか。後ろめたい気持ちがトラブルとオカルトを結びつけただけの事です。どれも日常でよく起こるトラブルですよ」
「そりゃそうだ」
偶然を運命やオカルトに結びつけないよう気をつけよう。
そして後ろめたい気持ちを持たないように生活しよう。
と、大吉は肝に銘じるのであった。
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