9.言葉は、強いもの
『全艦、展開完了しました』
「了解」
日曜昼、クーゲルシュライバー艦橋。
クーゲルシュライバーを輪のように囲む艦隊からの報告に、セカンドは頷いた。
艦橋は全周囲、宇宙が映し出されている。
宇宙空間に肉体が浮かんでいるような感じだ。
足下に浮かぶ地球を眺めると背筋に恐怖が走る。
「なんか、怖いなこれ……」
床を足の裏にしっかり感じるが、地球に落ちたらどうしようと思ってしまう。
エクソダスのゲームもこんな感じだったが、実際にやると怖いと思う大吉だ。
「エクソダスでは楽しんでいたから、平気なはず」
「いやまあ、あれはゲームだったしな」
ゲームでは楽しいが現実では怖い。
何とも現金なものだなと大吉は思いながら、リードをしっかりと握る。
「それでは、散歩に出発します」
『全艦、旗艦とシンクロ開始』『大吉様のリードを感じるんだ』『大吉様、リードをお使い下さい』
「なんだそりゃ」
大吉、リードを使え。
世界的人気映画とは大違いな格好の付かなさに苦笑いな大吉だ。
「で、どうすればいいんだこれ?」
大吉がリードを引くと、てってってってっ……艦橋でセカンドが走り出す。
場所は移動しない。走っている姿はまるでスポーツジムのルームランナーだ。
「なに? 走るの?」
「散歩気分の満喫です。大吉様も走って下さい」
「俺も走るのかよ!」
てってってってっ……大吉がセカンドと同じように走ると艦隊が動き出す。
「うわっ……」
ぐぉん、ぐぅおおおおおお……
艦橋が振動し、下にあった地球が目の前になり、上へと移動していく。
一歩およそ一万キロ。一歩半くらいで地球を横切るすさまじい速度だ。
「これ、艦隊の艦長も走ってるのか?」
「散歩ですから当然」
「なるほど。クーゲルシュライバーと黒の艦隊の動力は足こぎだったのですね」
「それはないだろ」
「私も走るです!」
「走るでしゅ!」「です!」「ですぅ!」
てってってって……
エルフィン、狼エリザベス、幼女達は大吉とセカンドと共に走り組。
「わてはめんどいからパス。酒を飲むでぇ」『『『サケーッ!』』』
「では私もお酒にしましょう」
「大吉さん、その調子で私に土星の環を見せて下さい!」
「どんだけ走ればいいんだよ!」
かんぱーい。
ミリアとフォルテとあやめは酒飲み組。
ちなみに地球から土星の距離は太陽よりもずっと遠く、近い時でも十二億キロあるらしい。一歩一万キロで何歩必要かをちょっと考え、即座に却下する大吉だ。
「ではせめて太陽。太陽まで行きましょう大吉さん!」
「それでも一万歩以上必要なんだがな」
「健康の為にレッツランニングですよ」
「昼間から酒飲んでる人に言われたくありません!」
そんな艦橋の喧噪とは別に、クーゲルシュライバーの表面にいる怪獣組はのんびりだ。
そしてクーゲルシュライバーの表面、超こっ恥ずかしい。
『大吉様、走る姿も超ステキ(≧▽≦)キャピ!』
『もっと強く、激しく私のリードを引っ張って(U^ω^)わふん! 』
顔文字あり、妄想あり、犬あり。
分身のセカンドは比較的まともな言動だが、本体は本心ダダ漏れ。
大吉が知ったら絶対止めるだろうが艦橋でリードを握る大吉からはクーゲルシュライバーの表面は見えないようになっている。
しかし怪獣組からは丸見え、黒の艦隊の他の艦からもまる見え。
当然地球からも丸見え。フォルテからセカンド達に伝染した性癖は大吉の性癖として記され、全世界に晒されていた。
「……これを知ったら大吉様は恥ずかしさで転げ回るな」
「夜のニュースは大騒ぎだね。にーちゃん」
葉で太陽光パクパクしながら、要塞世界樹兄弟が呟く。
そんな兄弟に頷くブリリアント、ガトラス、ボルンガ、ビルヒムだ。
「全くだ。セカンドめ、大吉様を精神的に引きずり回すつもりか」
「まぁいいじゃねぇか。俺も自分の日には大吉様を引きずり回してるぜ」
「ダメ。加減、たい、せつ」
「やり過ぎるとエルフィンにリードを握られてしまいますからなぁ」
「「「「「あれは、死ぬ」」」」」
大吉は引きずり回せてもエルフィンは絶対無理。
力加減を間違えれば引っ張った分だけ首輪が締まるデス・散歩に早変わり。
怪獣組はギリギリを攻めてはこてんぱんを繰り返していた。
「ロボ体操第一!」ぐぉん「第二!」がきーん「第三!」ずばーん。
その近くではグラン、アクア、ウィンザーがロボ体操している。
ロボも格納庫で立ったままでは動きが鈍る。艦橋では幼女達が、表面ではロボ達が運動不足解消に勤しんでいた。
そんな中、パウロが暁の艦隊の接近に気付く。
「にーちゃん、なんか向こうから来たよ?」
「新参者か。挨拶かな?」
「いや、どうやら違うらしい。あっちもセカンド同様本心ダダ漏れだな」
「なになに? 『うらやましい! 超うらやましい!』」
「知るか、バカ」
「お? なんか輝きましたぞ!」
ぺぺかぺっかぺー。暁の艦隊が輝く。
輝き通信だ。
「我は暁の艦隊旗艦ピロシキ。我らの仕事の邪魔をしないで頂きたい」
『俺ら働いてるのになんでお前ら遊んでやがるんだよこんちくしょう!』
ぺぺかぺかぺかぺー。
そしてセカンド、返信。
「む、それは失礼。謝罪しましょう」
『しかしラブ散歩をやめる気は毛頭ありません。ざまぁ! (*゜∀゜)アヒャヒャ』
輝き通信では普通の会話。
しかし表面に晒される本心は妬み爆発にクレームまるっと無視。
本心が晒されるというのは恐ろしいものだなと思う怪獣組だ。
「宙域から即刻退去して頂きたい!」
『俺の目の前で遊んでるのがムカつくんだよ!』
「申し訳無い。クーゲルシュライバーは現在整備点検中。今しばらくお待ちを」
『知るかバカめ! m9(^Д^)プギャー!!』
ぺぺかぺっかぺー、ぺぺぺかぺかぺかぺかー、ぺぺぺぺかー……
暁の艦隊、黒の艦隊と言葉ビームの応酬。
二者はどんどんヒートアップ。はじめは赤外線だったのが可視光線となり、ど太い言葉ビームとなってぺっかぺっかと宇宙に輝く。
地球からは巨大な艦隊旗艦が砲撃戦しているようにしか見えない。
当然、暁の艦隊に仕事させているロシアは大騒ぎだ。
『おぉいピロシキ! なぜ黒の十四軍と戦闘になってるんだ! 即刻やめろ!』
「戦ってねぇから!」
ぺぺぺかーっ!
ヒートアップした感情はすぐには冷めぬもの。
ピロシキが横やりを入れてきたロシアにうっかり輝く。
宇宙艦隊にとっては言葉でも、人類にとっては強烈ビーム。
ロシアの通信施設がピロシキの言葉ビームの直撃を受け、巨大なパラボラアンテナがこてんぱんとなった。
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