5.家族軍団、上陸
「井出さん……今度のオカルトは今日来るそうです」
「へ?」
朝、黒島港町二の一黒島支店。
やってきた谷崎のいきなりの言葉に、大吉は素っ頓狂な声を上げた。
「谷崎さん、今日って輸送艦が来る日じゃないですよね?」
作業を雄馬とエルフィンに頼んだ大吉が首を傾げる。
谷崎が答えた。
「それが、自力で海を渡って来ると……輸送艦に積載できなかったので」
「怪物?」
「はい。それも集団、要塞世界樹に乗って来ると」
「軍団!」
「あ、なんか見えてきましたよ?」
「早い!」
港の向こうを見て言う谷崎の言葉に大吉が水平線を睨めば、雲とは違う枝葉の姿。
間違い無い。要塞世界樹だ。
バウルのような高さ数千メートル級の巨大な奴らが接近しているのだ。
黒軍級の奴らがやってくるのかよ。大丈夫かな……大吉がそう思っていると、メインストリートをしゅぱたんと走る巨大な樹木。
バウルだ。
「ぬぅはははは! やっと来たかパウロよ我が弟よーっ!」
「にーちゃーん!」
しゅぱたたたたた……べぇちこーん!
疾走、激突、衝撃。
水平線近くで激しくじゃれ合う要塞世界樹、周囲に混乱をまき散らす。
港近くで訓練していた護衛艦こんごうが大波で激しく揺れ、乗員が慌ただしく甲板を駆けている。
しかし皆、なぜか笑顔。
「おおぅ、なかなかのビックウェーブ!」「怪獣だからな!」「俺達もすっかり怪獣に慣れたなぁ!」
非番の時は怪獣と一緒に遊んでたりする自衛隊の皆、この程度では動じない。
「店長、すごい波ですね」「そうだな」「ええ」「そうですね」
そして大吉達も動じない。
大吉の目の前の海で山よりもでかい要塞世界樹がどかんと殴られ、ぐるんと投げられ、ごろごろと海を転がる。
それでも大吉達、平常心。
「エルフィン先輩ほどじゃないですね」「そうだな」「ええ」「ええっ!」
この程度でうろたえていてはとなりの超絶オカルトとは生活出来ないのだ。
大吉は大海原のバウルに叫んだ。
「おーいバウルー、波とか空気とかでご近所様に迷惑かけるなよー」
ご近所様、だいたい二百海里向こうの離島。
それでも影響が行きかねないのがオカルトのすごい所だ。
「わかりました大吉さまーっ」
「さて、作業の続きでもしようか」「はい」「わかりました!」
あの要塞世界樹、どうやらバウルの弟らしい。
心配する事はなさそうだと安堵し仕事に戻る大吉達。
どったんばったん大騒ぎする要塞世界樹を背に淡々と荷物をぶるるんに積み、自衛隊駐屯地に届けて戻る。
その頃には海はすっかり静かになっていた。
「「「おいでまーせー、おいでまーせー、くろーしまー」」」
「黒!」「黒!」
「わははは、強くなったな弟よ」
「まったくにーちゃんだけ先に行っちゃうんだもんなぁ、住んでるみんなは泣いちゃうし途方に暮れたよー」
集まった皆の黒島歓迎踊りの中、バウルと弟パウロが肩を組んで戻ってくる。
でかい。バウルほどじゃないがさすが要塞世界樹。近付くほどに大きさに圧倒される大吉だ。
バウルが大吉を枝葉で示す。
「パウロよ、あそこで見上げているお方こそ我らが黒軍王ネーロ様にして黒の十四軍の長たる我らが黒、井出大吉様だ」
要塞世界樹パウロはバウルと共に港の近くにやってくると、大吉に向かいペコリと枝葉を下げる。
「はじめましてー。弟のパウロですー」
「はじめまして。井出大吉だ」
挨拶するも見えるのは根っこばかり。
バウルもでかいがパウロもでかい。
というか、こいつら顔はどこなんだろうと今さら思う大吉だ。
「パウロは黒軍の補給や家族の護衛を担当していたのです」
「あー、お前らの生活部分なのか」
「『モンスターライフ』というゲームに出ていたそうですよ」
「へー」
「井出さんはやった事無いんですか?」
「あそこのゲームは毎週十本以上リリースされるんで、全部やるのは無理です」
「どういう開発してるんでしょうねぇ?」
「今度あやめさんに聞いてみましょうか」
バウルの説明に大吉が驚き、谷崎が説明を補足する。
大吉が遊んだ事のない別ゲームで出ていたらしい。黒軍の皆から話でしか聞いた事が無い怪獣だと思ったがなるほど納得だ。
黒軍がバウルで移動するなら家族はパウロで移動する。動く城と動く町だ。
そして動く町なのだから、中には当然町がある。
パウロが門を開いたのだろう、ゾロゾロと中の住人が現れた。
「先程のシェイクは激しかったですわね奥さん」「まあ、久しぶりの再会ですから仕方ありませんわね」「私達も慣れましたねぇ」「「「おそとだーっ!」」」
先程シェイクされた割には皆元気。笑いながら出て来る怪獣家族達。
慣れって怖いなと思う大吉の前に、フワリと竜が着地する。
ルビーのような透き通った赤い鱗を持つ美しい竜。そして同じ色の幼竜だ。
二頭の竜は大吉を興味深く見つめ、深く頭を下げた。
「黒軍王ネーロ様、私は黒城町パウロの城主ルビーレッドと申します。主人の金剛竜ブリリアントがお世話になっております」
「はじめまして。娘のピンキーです」
ブリリアントの妻ルビーレッド、女城主。
夫婦で怪獣達を統率する強者一家だ。
そして挨拶を終え頭を上げた妻子に飛びつくブリリアント。
「妻よーっ!」「あなたーっ!」「娘よー!」「とーちゃーん!」
単身赴任金剛竜ブリリアント、家族と再会。
そしてぶぅおおおお! と喜びのブレスが天を貫く。
天を覆っていたバウルとパウロ、しゅぱたんと素早くブレスを避ける。
慣れているのだろう、さすがだ。
「地球の軌道とか変わらないだろうな?」
「影響はわずか。クーゲルシュライバーが修正中」「……」
やっぱ変わるんだ軌道。どんだけだよ。
セカンドの言葉に冷や汗タラリな大吉だ。
ブリリアントに続き他の黒軍の皆も集まってくる。皆の家族も来ているのだ。
「お。うちのカミさんも来たか」
「ひさし、ぶり」
「バウルとーちゃん!」
「さすが我が妻。いつ見ても惚れ惚れする屍です」
巨人ガトラス一家、スライムボルンガ一家、世界樹バウル一家、そして屍ビルヒム一家。
軍団長の後ろでは黒軍の皆も再会を喜んでいる。
再会出来て良かったなと思う大吉だ。
「奥様、お久しぶりでございます」
「フォルテ、うちの人は浮気とかしておりませんでしたか?」
「はい。強いて言えば大吉様にお熱ですわ。毎日楽しく散歩しておりました」
「大吉様との散歩はいいぞー。首輪とリードで大吉様と一体感を味わえる」
「それは私も是非参加させて頂かなくては」「わたしもーっ!」
散歩の竜、二頭増える。
まあここは黒島、どれだけ増えても迷惑かからない。
好きなだけ参加してくれと思う大吉だ。
「あら、そちらの方々は人族ですのね」
「ルビーレッドよ。今は我ら黒軍ではない。黒の十四軍という、大吉様がお作りになられた大きな枠組みの一員となったのだ」
「そうなのですか。夫がお世話になっております」
ルビーレッドがエルフィンらに頭を下げる。
「第十二軍、宇宙軍のセカンドです」
「第八軍、聖軍のエリザベスです」
「アイリーンでしゅ」「マリーです」「エミリですぅ」
「第十三軍のミリアや」「Aです」
「よろしくお願いします」
ここまではルビーレッド、にこやか対応。
「第一軍、近衛軍の光の黒騎士エルフィン・グランティーナです」
「……は?」
名乗るエルフィンにパウロから出て来た家族、固まる。
「ですから第一軍、近衛軍のエルフィン・グランティーナです」
「「「「ぎゃーっ!」」」」
そして再度名乗ったエルフィンに叫ぶパウロ一行だ。
「エルフィン・グランティーナ!」「光の黒騎士!」「「「もうおしまいだーっ!」」」
「私を何だと思っているのですか!」
「悪魔!」「災厄!」「地獄の死神!」「「「もうおしまいだーっ!」」」
「さすがデタラメ一号です!」
そしてエルフィン、やっぱり災厄。
お前、やっぱデタラメなんだなぁとしみじみ思う大吉であった。
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