2.黒島、ついに番地が出来る
「黒島特別区?」
夜、黒島大吉アパート大食堂。
夕食を一緒する谷崎の言葉に、大吉は素っ頓狂な声を上げた。
「はい。このたび黒島は東京都の特別区となる事が決定いたしまして、番地を作る事になりました」
「番地かぁ……黒島の測量したんですね」
「いえ、アイリーンさん達にお願いして設計図を頂きました」
「誤差は一ミリ無いでしゅ」「バッチリです」「ですぅ」
「……」
北海道以上の面積があってもメイドインオカルト。設計図くらいある。
「なお、確認はセカンドさんに頼みました」
「頼まれた。クーゲルシュライバーから観測すれば完璧」
「……それ、国際条約違反ですよね?」
「役場は私一人だけなんでどうしようもありません。自衛隊を使おうとも思いましたが、北海道より広い黒島の確認なんて何年かかるか分かりませんので黒島限定という事で政府の許可を頂きました」
あっはっは。谷崎が笑う。
車はアルコール動力、測量は設計図、確認はクーゲルシュライバー。
すっかりオカルトに染まった谷崎だ。
「ちなみに港は港町一の一、トラックターミナルは港町二の一となります。自衛隊駐屯地は基地町一の一ですね」
おおーっ。歓声を上げる皆である。
これまでは東京都黒島の黒島支店。
これからは東京都黒島特別区港町二の一、黒島支店。
町名と番地が出来るとなんかすごいと大吉が思っていると、近くでもっしゃもっしゃと炭を食べているブリリアントが谷崎に聞く。
「我らの住み家にも付いているのか?」
「竜軍町、鬼軍町、惑軍町などなど、軍団名を町名にしました」
「黒は付かないのか……黒島黒の十四軍黒軍黒竜軍黒町黒黒くらいでもいいのに」
「たくさん黒を付けられても困ります」
谷崎、しごくもっともな事を言う。
大字なんちゃら字みたいな住所はよくわからなくて大変だったなぁ……と、大吉は東京での配達苦労を思い出す。地図に載ってなかったり昔の地名だったり道がすごく狭かったりと、届ける事すら大変だったりしたものだ。
なお、黒島は配達先が自衛隊駐屯地だけなので場所は間違えようがない。
ずいぶん楽になったものである。
「するとエルフィンみたいなアパート住まいの軍団は、町名が無いって事か」
「ミリアさんの生産町は工業区の町名となります。あとの町名は利用している土地が無いので存在しませんが……必要ですかね?」
「別にいりません」「不要です」「「「いらなーい」」」
エルフィン、エリザベス、三幼女が首を振る。
「おい谷崎、畑は何町になるんだ?」「畑町です」
「黒豆、育てる、町、黒豆町」「別の作物に変えたら町名変えるのですか?」
「それでは小麦畑はどうなるのです?」「田町ですね」
「俺がイカ養殖をしている海は、イカ町になるのか」「海に町は無いです」
「クーゲルシュライバーは何町?」「あれは宇宙船なので……」
町の名前で皆、大盛り上がり。
楽しそうで何よりだ。
「大吉様の住む場所は何町になるのですか?」
「黒町一の一ですね」
「わかってないな谷崎。『偉大なる黒の十四軍の長たる我らが黒、井出大吉様が居する大吉アパート黒町一の一』くらいの長くありがたい名を付けんか」
「長すぎる!」
「ぷぷぷっ、大吉さんいいですよその名前! それにしましょう谷崎さん!」
「いやぁ、長過ぎると略されるので単純に『黒町』にしたんですよ」
そりゃそうだ。
世の中長い地名はたくさんあるが、たいてい略して使われる。
ブリリアントが言ったような名をつけたところで「黒町」とか「偉大な町」とか「大吉アパート町」とか呼ばれてしまうのだ。単純で良いだろう。
そういえば……大吉は最近港町近くに出来た集落について聞く。
「入植者達が入った集落は、何町になるんですか?」
「新町ですね」
新たな町、新町。
黒の十四軍に属さない者達が住む小さな町は、これからどんどん大きくなっていく事だろう。
そして世界間の折り合いの付け方を学ぶだろう。
すでにオカルトは実在しているのだから、折り合いを付けねばならないのだ。
「しかし、大吉様の名がどこにも冠されないのは寂しいですね」
「いや、いいから」
「それでは山! 山に大吉様の名を付けましょう! 黒島中心のもっとも高き山に偉大なる黒の十四軍の長たる我らが「やめれ」ええっ!」
「じゃあ温泉湖に付けようぜ。偉大なる黒の「やめれ」ええっ!」
「大吉様は店長なのですから支店名になされば「やめて」ええっ!」
「う、みー」「海は太平洋って名前があるから」
「では黒島メインストリートに付けましょう」「いらんから」
「それではどこに偉大なる大吉様の名を付ければ!?」「だからいらんから!」
「肉! ブランド肉ならアリです!」「そんな名前の肉イヤだ!」
「いだいなるー!」「大吉しゃまー!」「ロボー!」「わぁい!」
「では宇宙に偉大なる大吉様の名を」「もう名前あるから。銀河系だから」
『『『サケーッ』』』「お、酒の銘柄か。そりゃええなぁ」「やめれ」
「ぷぷぷっ! この際全部に付けてしまいましょう!」「やめて!」
まあ、仲良くなればこんなもん。
だから大吉はあまり心配していない。なるようになるだろう。
そんなこんなで紆余曲折の末、黒島大吉アパートにその名が刻まれる事となる。
『偉大なる黒の十四軍の長たる我らが黒、井出大吉様が居する大吉黒アパート』
わけわからん。
誰がこんな長いアパート名書くんだよ?
というか黒島で俺を知らない奴はいねぇよ。『東京都黒島 大吉』で届くよ。
黒島大吉アパートの入り口に掲げられた派手な表札を見て、大吉は思った。
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