1.黒島、人口増える
「「「おいでまーせー、おいでまーせー、くろーしまー」」」
「黒!」「黒!」
昼、黒島港。
自衛隊の輸送艦の到着を、黒の十四軍はいつものように踊りながら出迎えた。
輸送艦から降りて来るのは自衛隊員……ではない。
オカルトとそのパートナー達だ。
先日の大吉襲撃生中継の後、オカルト達がちらほらと世界に現れるようになったのだ。
あるオカルトはデタラメ一号からご主人様を守るため。
また別のオカルトは黒の艦隊からパートナーを守るため。
……なんか黒の十四軍が悪の巣窟みたいに思われているが、そこはそれ。
とにかくオカルト達は夢の相手が存在する世界の事を知り、心に決めた相手のもとへと世界を渡りはじめたのだ。
「やっぱり男性は女性。女性は男性のパターンですね」
「……まあ、そんなもんだよ」
恋愛は時に驚異のパワーを発揮する。
きっと皆、エルフィンのように強く願ったのだろう。
今ではバカやってるだけの連中だがブリリアント達黒軍もエルフィンから同胞を守る為に世界を渡ったのだから同胞愛や家族愛。
愛は世界を超えるのだ……
「うはぁ、こっ恥ずかしい」「?」
今までは日本だけだったのだが、世界中にポツポツとオカルトが現れ始めたらしい。黒島のような島流し施設が作られ始めたそうだ。
今の所世界は平穏。
しかしそのうち雄馬みたいな奴が出て来るかもしれないな……大吉はそんな事を考えながら今週の入植者達を歓迎した。
「ようこそ黒島へ。黒の十四軍の長、井出大吉です」
「黒!」「黒だ!」
島流し入植者が口々に叫ぶ。
あー、そんな呼び方あったね。
と、すっかり忘れていた大吉だ。
「ご主人様を黒の十四軍から守る為に来たら本拠地に連れてこられた!」
「ごめんなさいご主人様!」
「もうおしまいだーっ!」
「別に取って食う訳じゃないから。他の地域でオカルトを乱用されると困るから黒島に連れて来ただけだから」
叫ぶオカルト達をなだめる大吉。
黒の艦隊の全世界監視のおかげでオカルトは発見次第即確保。
世界を渡ってパートナーに巡り会ったと思ったら黒の十四軍がすぐに現れるのだから混乱するのも無理はない。
「この黒島は例外ですがこの世界にはオカルト制限条約という、あなた方の力の利用を制限する条約が結ばれております。他の地域でやらかす前に黒島でこの世界の常識を学び、理性あるオカルト行動をとって頂くようお願いいたします」
理性あるオカルト行動って、なんじゃろな?
心で首を傾げながら大吉は話を続ける。
「詳しい事は役場の谷崎さんから後で話があります。あと、私は運送会社の店長もやっておりますので送りたい荷物や手紙などがありましたら黒島支店をご利用下さい」
大吉は頭を下げて引き下がる。
そして谷崎が黒島生活を入植者に説明する間、オカルト達を観察する。
今回は五組、十名。
エルフィンが言った通り性別の違うペア同士で見た目はカップル。
雄馬も竜二もそうだったが何とも幸せラブラブだ。
しかし、相手はオカルト。
だからどんな超常も引き起こす。見た目はアテにならないのだ。
「……変なオカルト、来てないよな?」
「そのような不届き者は我ら黒の十四軍がこてんぱんです」
ブフン。ブリリアントがブレスを漏らす。
エルフィンも頷いた。
「その通りです。この私、光の黒騎士エルフィン・グランティーナの全力をもって不届き者を懲らしめましょう」
「……世界が終わりそうだなぁ」
「ええっ!」
涙の夢下方修正で世界を裂いたデタラメ一号はまだまだ本気を見せていない。
本気を出したら宇宙が終わるんじゃないかと思う大吉だ。
谷崎は一通りの説明を終えた後『はじめての黒島生活』という小冊子を配り、皆を引率して黒島案内を開始した。
谷崎車は入植者が増えたので軽自動車からマイクロバスへとランクアップ。十人程度はへっちゃらだ。
「頼むぞ」『『『サケーッ』』』
アルコール燃料は相変わらず。
車にいつもの焼酎を飲ませた谷崎は、皆に説明した。
「えー、この焼酎ペットボトル一本で黒島一周が可能です」
「北海道より広いのに!」「なんて燃費だ!」「そりゃ制限されるよな」
「マッハ出ますので窓を開いて風を受けたりしないようにして下さい」
「まさにオカルト!」「まさかのマッハ!」「そりゃ制限されるよな!」
オカルト洗礼を受ける皆である。
「それでは出発します」
『『『ぶるるん、ぶるるん』』』
機械妖精グレムリン達がエンジン音を口ずさむ。
そして、びゅおんっ!
瞬く間に音速を超えたマイクロバスが大吉の視界から消えていく。
相変わらずのデタラメだ。
「……まさか谷崎さん、赤外線で輝いてたりしてないだろうな?」
すっかりオカルト慣れしてしまった谷崎を少し心配してしまう大吉であった。
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