幕間.黒は全てをぬりつぶす
「諜報軍A、大吉様のお呼びに従い参上しました」
夜。黒島大吉アパート、大食堂。
黒の十四軍の軍団長がずらりと並ぶ中、Aが大食堂に現れた。
Aを取り巻く空気は最悪。
大吉がAに頭を下げる。
「いやー、すまんA。こいつらがどうしても話があるって言ってな」
「私もそろそろ呼ばれる頃と思っておりました。大吉様はお気になさらず」
そんな空気の中でもAは平然としたもの。
さすがはスパイ。単身潜入など圧倒的不利な状況で活動するだけの事はある。
こんな状況でも常にクールだ。
「さすがAさんですね」
「ありがとうございます」
大食堂の諜報軍団長の席に座るあやめがAに喝采を送る。
まあ、食後のひとときだからいてもおかしくはない。
誰もあやめの存在を気にしない中、エルフィンがAの前に立つ。
「A、貴方は先日のデートの際、大吉様を不届き者に狙わせましたね?」
「はい」
A、あっさり認める。
「さすが第一軍、近衛軍団長。何も言わずともお見通しですね」
「皆、気付いていました。あれに気付かない者に軍団長の資格はありません」
「へ? そんな事あったの?」
「大吉様はそのような事、気にする事はありません」
デートに参加した皆が頷く中、大吉だけが素っ頓狂な声を上げる。
エルフィンは頷く皆に深く頷き、Aに問う。
「理由を聞きましょう」
「諜報軍が手引きせずともいずれ彼らのような者は現れ、大吉様に害をなそうとしたでしょう。我らは先手を打っただけの事。これからも現れるであろう不届き者共は、我ら黒の十四軍を出し抜く手を思い付くまで大人しくしている事でしょう」
「見せしめですか」
「はい。エクソダスを経由して生放送。動画サイトにも投稿いたしました」
「不届き者がもし、私達を出し抜いたらどうするつもりだったのですか?」
エルフィンの問いにAが笑う。
「はっはっは。それは絶対ありえません」
「なぜです?」
「なぜなら我ら諜報軍の軍団長たるIことアイリス・メイが、常に大吉様のお側にいたからです」
「「「「「「「「「「「「「ええっ!」」」」」」」」」」」」」
一同、驚愕。
立場は逆転。Aはにこやかに皆に言った。
「気付かずとも恥じる事はありません。我らが軍団長は隠れるのがとても上手なお方。皆様の軍団長の資格が揺らぐ事はございません」
Aの言葉に皆は言葉もない。
大食堂が静まる中、大吉はひとり呟いた。
「あー、Iってそんな名前だったんだ。知らなかった」
「ぐはっ!」
スパイゲーの味方キャラは皆スパイ。
故に正体をバラす事はほとんど無い。コードネームは知っていても名前を知らないなんて普通の事なのだ。
あやめがテーブルに突っ伏しバンバンとテーブルを叩く中、Aが皆に言う。
「今回の作戦は諜報軍団長の陣頭指揮のもと行われたもの。軍団長は全てを把握し、誘導し、そして操りました。我ら諜報軍は大吉様が最後にプレイされた『スパイ』に選ばれた者達。それ以前にプレイされた皆様の事もよく知っております」
「我らを出し抜いた訳ですか。侮れませんね」
もはや誰もAを糾弾出来ない。
皆、自分が諜報軍団長アイリス・メイの手の上で踊らされたと理解したからだ。
エルフィン達は諜報軍を良く知らないが諜報軍はエルフィン達を良く知っている。大吉が後で遊んだアドバンテージを諜報軍は利用しているのだ。
大食堂に響くのは、もはやあやめのテーブルを叩く音だけ。
Aはそれを皆が認めたものと判断し、エルフィンに確認する。
「これで、よろしいですか?」
「……仕方ありませんね」
エルフィンはため息をつき、Aの糾弾を諦めた。
「ありがとうございます」
「それにしてもアイリス・メイ、いつ私達の前に姿を現すのでしょうか?」
「見つけるのを待っているのかもしれませんよ?」
「そうですか……では、探してみる事にしましょう」
エルフィンが見回し、そして皆が頷く。
「「「「「「「「「「「「「輝き直感!」」」」」」」」」」」」」
べべべべべべべべべべべべべっかーっ!
皆の輝きの中で花が咲く。
その花の名は……
「「「「「「「「「「「「「あやめ?」」」」」」」」」」」」」
「ふ、ここまで情報を与えればさすがに隠れる事はできませんね」
あやめが立ち上がる。
が、しかし……
「「「「「「「「「「「「「まさかぁ」」」」」」」」」」」」」
「へ?」
あっはっはっは、ないない……皆が笑う。
そして唖然とするあやめの前で皆はしばらく笑った後、言った。
「だってあやめと言えば黒豆ではないですか」
「そうだな。あやめであれば輝き直感で黒豆が現れるはず」
「全くだ。だが俺らも大吉様の導きを受けた黒」
「あやめで誤魔化すつもりでしょうが、そうはいきませんわ」
「まあ、まだ隠れていたいのならそれも良いだろう」
「もん、だい、なし」
「そうですな。しばらくはAを相手といたしましょう」
「獣人族はかくれんぼ大好きです!」
「見つからなかったでしゅ」「強いです」「探すですぅ」
「花より黒豆。迷うまでもありません」
「せやなぁ。ま、そのうち現れるやろ。果報は寝て待てや」
あっはっはっは、クロマメー……そして皆で再び笑う。
「えーっ!」
あやめ、唖然。
黒、全てをぬりつぶす。
輝き直感よりも黒豆。何が何でも黒な皆である。
そしてAはAで妙な感動に震えていた。
「黒の十四軍の皆を欺くとはさすが我らの軍団長。これまでも様々な手段で正体を隠してらっしゃいましたが、まさか黒豆に隠れるとは……さすがです!」
「ええーっ!」
「お前ら、アホだな……」
一人だけ黒がどうでも良い大吉は呆れ顔。
「だ、大吉さん。大吉さんはこの件、どう考えてますか?」
「いやぁ、俺もIの顔も名前も知らなかったから正直わからん」
「えええーっ!」
「ま、それであやめさんが変わる訳でもないし、正直どっちでもいいかな」
どこの出身でもあやめはあやめ。それでいいと思う大吉だ。
「……そういう所、さすがは大吉さんです」
あやめは、笑った。
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