11.オカルト、なめてました(3)
「パーフェクトですか。まあまあですね」
「くうぅ290。クーゲルシュライバーとはバランスが違った」
「堂々の260です!」
「私は243でしたわ」
「192でしゅ」「190です」「188ですぅ」
「わては180かぁ。ま、普段動かんにしてはまあまあやな」
「私は160でしたよ大吉さん!」
エルフィンはストライク連発。というかストライク以外出す事も無く終了した。
初投にミスしたセカンドが二位、エリザベスが三位、フォルテが四位、アイリーン、マリー、エミリ、ミリア、あやめと続く。
「お前ら、色々言ってた癖に上手じゃねーか……」
そして大吉のスコア、95。
たまにやる程度の大吉としては妥当な点数だ。ストライクやスペアを偶然出す事が出来てもガーターもよく出す素人ボウラー、それが井出大吉であった。
まあ、楽しんでいるようで良かった。ついでに輝き忖度されなくて良かった。
娯楽を楽しむ感覚に差が無い事に大吉は安心し、スマホの時計を見る。
「あ、大吉さんそろそろご飯タイムですね」
「そうだな」
適度な運動をして、いい感じに腹が減ってきた。
「お前ら、ご飯は何にする?」
「「「「「「「「黒!」」」」」」」」
「うーん、色で選ぶのは難しいなーっ!」
こいつらに聞いたのが間違いだった。
もうお前ら勝手に選べ。
大吉はフードコートで食べる事に決めて歩き出す。
お食事どころにアルファの刺客がいる事も知らずに……
「ガンマ、目標がフードコートに入った」
『了解』
大吉一行を取り巻く野次馬と共に歩きながら、アルファは仲間に指示を出した。
次に仕掛けるのは、毒。
そして毒を混ぜるなら食事時。大所帯だからフードコートになるだろうと踏んでの配置だ。
まさか色が理由でフードコートになるとはさすがに予想できなかったが。
フードコートのどの店を選ぶかは解らないが、水はきっと飲むだろう。
そこが狙い目。
ウォーターサーバーには細工がしてあり、遠隔操作で下剤が出るようになっている。これで大吉の腹がユルユルになれば毒は効果があるという事だ。
「よぉしお前ら、好きなだけ黒いの選べ」
大吉の言葉で皆が店を見て回る。
エルフィンは大吉と一緒に店を回り、大吉と同じ店で黒くない食事を注文した。
さすが近衛軍。いつでも護衛はしっかりだ。
アルファが見つめる先で大吉とエルフィンは店から料理を受け取り、ウォーターサーバーでコップの水を満たして席につく。
『たっぷり入れてやったぞ』
「そうか。細工を回収したら撤収しろ」『了解』
打撃は返却されたが、毒はどうだ?
アルファが見つめる先、大吉一行が食事を始める。
ちなみに皆の食事、あまり黒くない。
まあ黒いご飯はそもそも珍しいのだ。フードコートだからと言って黒があるとは限らないだろう。
「昼食の後は、映画ですね?」
「そうだな。そういえば時間も上映してる映画も調べてないぞ?」
「私が調べました! スパイ映画! スパイ映画観ましょう大吉さん!」
大吉一行が食事しながら次の予定を相談する。
そして大吉が、水を……飲んだ。
『ぬぅぐおおお! 腹が、腹がぴぷぺぽーっ!』『ぬぐるっぷぽぽんぱ!』
バタン! ぬぅおおぴーごろごろきゅーっ! ぴーっ! ぴーっ!
投資家と秘書に繋がる回線から、謎の音を響かせトイレに駆け込む音がする。
アルファが聞く。
「どうしましたか?」
『腹が、腹がピー!』『ぬぅおおぴりっぷぷぺんぱーっ!』
「……何を言っているのかわかりません」
まあ、見当は付く。
打撃に続いて毒も返却。今回は速攻ユルユルだ。
冷や汗を流すアルファに、ガンマからの通信が入る。
『細工を回収した。撤収する』
「そうか。ご苦労」
どうやらガンマは大丈夫らしい。
お前、井出大吉の見える範囲にいて良かったなと思うアルファだ。
が、しかし……
『ぐるっぷるるるぴぷーっ!』
バタン! ぐぅるるるぴーぴーぶるんちょぼふん。
トイレに駆け込むガンマの呻きと謎の音がアルファの耳に響く。
「ガンマ?」
『腹が急にすぺっきゃほーっ!』
呻き、謎の音、水の音、謎の音、水の音、呻き、謎の音……
ガンマのありさまに顔面蒼白のアルファだ。
投資家と秘書とは大吉が水を飲んだ直後に返却された。
そしてガンマは大吉から見えなくなったら返却された。
つまり打撃も下剤も返却されていないアルファは、ただの返却待ちだという事。
それもダブル返却待ち。
大吉から離れたとたんに打撃とピーのダブルパンチだ。とんでもない事になる。
こいつからは、こいつからは絶対に離れられん……!
固く決意するアルファ。
そんなアルファを寝視聴者達は笑うのだ。
『返却だ』『下剤が返却された』『ざまぁ』
『アルファのざまぁが楽しみだ』『こいつ打撃で転がりながらピーだもんな』『いやいや、もっと積むだろ。アルファも投資家もまだまだやる気だぞ』『仕事って、ツラいなぁ』『がんばれー』
そして寝視聴者の言うとおり、投資家もまだまだやる気だ。
「つ、次は、病だ……」
「やめましょう、もうやめましょう!」
「ここまでされて引き下がれるか! 何としても弱みを握ってやる! アルファ、やれ!」
命じられたアルファが仲間に連絡する。
「……デルタ」『おぅ』
「目標が次に行く場所は映画館だ。エスカレーターで仕掛けろ」
『了解。数日の軽い発熱症状が出るウィルスを使う』
アルファは食事を終えた大吉の後についていく。
当たり前だがデルタには何も伝えていない。
たぶん強くなって返却されると言ったらデルタはトンズラするだろう。
ダブル返却待ちのアルファと違いデルタはまだ何もしていない。今すぐ逃げれば返却される事は無いからだ。
すまんな、デルタ。
アルファは心で謝罪しながら大吉一行の後に続き、エスカレーターで上の階へとあがっていく。
三階で、デルタは仕掛けた。
仕掛けたと言っても、デルタ自身が何かをしたわけではない。
デルタが使用したのは、蚊だ。
蚊はウィルスや寄生虫など様々な病気を媒介する虫として知られている。
小さく、空を飛び、そしてちょっとした風にも流される。
デルタはエスカレータ付近の空調の流れに乗せて、大吉にぶつかるように数匹の蚊を送り出した。
蚊が風に流され大吉に付着する。
「な、なんか熱が出て来たんだが……」「わ、私も……体温計をお持ちします」「三十九度?」「あれぇ?」
大吉が蚊に刺される前から投資家と秘書、いきなり発熱する。
『蚊!』『ウィルス媒介か!』『でも返却されてら』『それも発症してる』『強毒化もしてるんじゃね?』『これは蚊を返却してるのか?』『ウィルスも増やして返却かよ。どこで調達したんだろ?』『とっとと病院いけ』
寝視聴者、ざまぁと思いながらも投資家を心配する。
『なんだ? いきなり熱が……うっ』
「デルタ? 返却されたのか……?」
そして大吉一行が去った後、デルタ倒れる。
付近の者が何事かと心配し、救急車が手配される。
デルタ退場。
『さらば、デルタ』『そしてアルファは病気積んだぞ』『返却債務超過だろ』『もうやめとけよ』『土下座すれば分割返却にしてくれるかもしれんぞ?』『それにしても、井出大吉は全く気付いてねぇな』『本人は何も知らないうちに返却』『何かの漫画でそんなのあったな』『こええぇ……』『今から土下座しろアルファ』『相手はお前の手に負えるオカルトじゃない』『損切りしろ』『あきらめてーっ!』
しかし投資家達もアルファ達も止まらない。
「もはや手段を選んでいられるか! やるかやられるかだアルファ!」
『……了解』
というか止まれない。返却されている以上存在はバレているからだ。
逃げればどんな追撃を受けるか分からない。どこにいても自由に返却されてしまうオカルトを止める為にはやるしかないのだ。
そして映画館。
スパイ映画を上映中のシアターホールで、アルファは仕掛けた。
暗闇の中でアルファが荷物の中から取り出したのは、銃だ。
こんなものが通用するとは、もうアルファも思わない。
しかしトリプル返却待ちという負債を背負うと一発逆転を期待してしまうもの。損切り出来なかった投資家と同じ間違いだ。
関わるべきでは、なかった……!
後悔しながらアルファは銃を構える。
肉眼で目標は確認出来ないが、こんな暗闇でも目標を定める手段はある。
アルファは人類の技術の結晶、赤外線暗視装置のスイッチを入れた。
「ぬおっ、眩しっ!」
赤外線暗視装置、いきなりホワイトアウト。
オカルトはもちろん大吉もおまけのあやめも真っ白で、もはや誰が誰だか分からない。
『赤外線か!』『あー、赤外線がすごいから白いのね』『あったか大吉!』『この輝きなら映画館でも大丈夫……なのか?』『さぁ?』
寝視聴者がなるほどこいつら白いわけだと納得する。
可視光線ではないから目では見えないが携帯のカメラなどには映る。
スイッチを押したリモコンをデジカメなどで撮影すると輝いているアレだ。
アルファがとまどう間に映画はクライマックス。
悪役スパイを主人公スパイが追い詰める。
『それ以上したら、取り返しがつかないぞ』
「それ以上したら、取り返しがつかないぞ」
そして映画の台詞と同じ言葉が、アルファの耳元に囁かれた。
アルファ、慌てて隣を見る。
そこにいたのは黒の十四軍結成式典で見た者。
第十四軍、諜報軍のAだ。
「……A」「はい」
アルファの隣に座るA、にこやかに頷く。
Aは呆けたアルファから銃を取り上げ、言った。
「あなた方はもう十分役に立ってくれました。そろそろ止めていいですよ?」
「ハハ……はじめから、全部予定通りだったのか」
「オカルト諜報ですから」
アルファが座席で脱力する。
完敗だ。
アルファがAに聞く。
「……分割返却は、可能か?」
「リボルビング返却も可能ですよ?」
リボルビング払いは毎月一定額を支払い続ける返済方法。
その分手数料や利息がかかり、支払い総額は当然増える。
輝き返却、手数料と利息付き。
それはナイとアルファは首を振る。
「……そりゃもう後遺症と同じだろ。一括でいい」
「そうですか。ではお手洗いに行きましょうか」
映画がエピローグに入る中、アルファはAと共に映画館から退場。
寝視聴者拍手喝采だ。
『A、オカルト!』『ナイスフィナーレ!』『映画に合わせるとか凝ってるね!』『井出大吉は知らないままか』『さすがに近衛軍のエルフィンは知ってるだろ。スゴいらしいし』『俺の相棒もアレはオカルト世界のデタラメ一号だと言ってる』『俺もだ!』『私も!』
こいつらには絶対に逆らわないようにしよう。
出来れば関わらないようにしようと思う寝視聴者の皆である。
「ご主人様……私、頑張ります!」
そして寝視聴者と共に視聴していたオカルト達、気合いを入れる。
「頑張ってご主人様を守れるようになって、ご主人様に会いに行きます……よろしいですか?」
「ああ。待ってるよ」
プレイヤーとオカルト達の仲、これ以上に親密となる。
そして……
「あの……皆さんを携帯で撮影すると白いんですが、どうしてでしょうか?」
「へ? 俺、カメラで見ると輝いてるの?」
「はい。もう赤外線でぺっかぺっか輝いてます」
「赤外線! お前らの輝きって伝染するのかよ!」
「大吉様暖かいです。きっと冬場は猫に大人気ですよ大吉様」
「コタツか!」
朱に交われば赤くなる。
大吉、オカルトに交じってオカルト化。
そしてエルフィンの言う通り、冬場になると野良猫にやたらと懐かれる存在となるのであった。
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