9.オカルト、なめてました(1)
「太陽が、低いな」
日曜昼、東京。
大吉は太陽を見上げて呟いた。
一日中南国黒島で生活している大吉だ。こんな風に感じるのも無理は無い。
輝き転送ゲートをくぐれば南国黒島から東京都心。
通過する度に便利だと思う大吉である。
「東京は涼しいな」「さっきまで黒島だったからな」
「転送ゲートを常に維持していられるなんて!」「輝きがすごすぎる!」
そして雄馬と竜二はあっという間の移動にびっくり。
リリィとノエルは輝きのすさまじさにびっくりだ。
「え? 輝き転送ゲートってすごいの?」
「誰でも使えるように維持するのは不可能と言われていたのに!」
「輝き転送だって結構大変なのに!」
「そうなのか。料理とか輝き転送でポンポン移動してるから普通だと思ってた」
「「さすがデタラメ一号!」」
二人の話によると輝き転送は高難易度の輝きらしい。
普通のオカルト? の発言に黒の十四軍の超オカルトっぷりを再認識する大吉だ。
災厄一号二号。
エルフィンと黒軍をそう評したエリザベスも輝き転送を軽々行う。彼女もやっぱり普通のオカルトでは無かった。
「あ、大吉様のお出かけだ!」「いってらっしゃーい」「ブリリアント様達におみやげお願いしまーす」「皆さんスネちゃいますからー」
「……おう」
アパートを出れば相変わらずのガーゴイル達だ。
東京の大吉アパートは今も黒の十四軍の拠点なので警備は竜軍のガーゴイルが交代で行っている。付近の治安と清潔さに貢献していると評判は上々だ。
そしてブリリアント達、どうやらおみやげを買ってこないとスネるらしい。
かりんとうでも買って帰ろう。できるだけ黒い奴。
そんな事を考えながら大吉は道路を歩く。
「問題無い。現在の様子はクーゲルシュライバーから立体中継している」
「そうか」
「輝き圧縮すればスネる事も無かったでしょうに」
「……やめてやれ」
潰される恐怖が勝ったんだよと、心で呟く大吉だ。
黒の十四軍は大吉と巨大組と諜報軍を除いた軍団長達(全員女性)。
ついでにあやめ。
そして行動は制限されているが雄馬と竜二にリリィにノエル。
結構大所帯だ。
「それで大吉様、どこに行きますか?」
「そうだなぁ……」
「ゲーム! ごはん! 買い物! 映画! そしてごはん!」
「まあ、そんなところか」
あやめが提案したのはお出かけ定番コース。
大吉も異論は無い。
行きたい所が出来たら次の機会に行けばいいだろうと、バス停でバスを待つ。
「大吉様と私達、そのほか二組。これはトリプルデートですね!」
「お許し下さい申し訳ありません!」「いきなり土下座!」
「ダメインフィニティ!」「それはもうやりました!」
エルフィンのダメ無限力は健在。
色恋よりも命の危険が優先なのは当たり前。トリプルデートとはどうしても思えなかったリリィとノエルの土下座に叫ぶエルフィンだ。
バスに乗って繁華街に出ると、さっそく街の人が騒ぎ出す。
スマホを向けられるのは有名税って奴だろう。
「怪獣と毎日遊んでる人だ!」「バカ。井出大吉様と呼ばないと後が怖いぞ!」「大吉様!」「大吉様ーっ!」
「そして黒の十四軍!」「やっぱり女性が多い!」「というか全員女性!」
「竜二さん!」「島流し動画毎日楽しみにしてます!」「雄馬さんも島流しがんばって下さい!」
皆、ニュースや動画は見てるのね……と、大吉は赤面する。
しかし広報の成果か毎日バカやってるからなのか、皆の印象は好意的。
近付きはしないものの逃げたりしない。バスは普通に乗れたし店に入っても店員はにこやか対応だ。
黒の十四軍の皆のバカげふんげふん、努力の成果だ。
「これも二人の動画のおかげだな」「「ありがとうございます!」」
「大吉様の暖かな輝きの成果「輝いてるのはお前らだけで十分だ」ええっ!」
というか、お前ら輝くなよ?
特に映画館で輝くのは絶対ダメだからな? 超ひんしゅくだからな?
大吉はそんな注意をしながら街を歩いて何でもござれな複合商業施設に入る。
そして大吉が通り過ぎた後、スマホを向けた街の皆は首を傾げるのだ。
「……なあ、お前のスマホ、あいつらまともに映った?」
「いや……白かった」「俺もだ」「みんな真っ白だったぞ」「なんか幽霊みたい」「まあオカルトだからな」「「「それもそうか」」」
さすがはオカルト。
皆は感心し、写真撮ったら白かったと画像をネットにアップした。
「こちらアルファ。目標は情報通り複合商業施設に入った」
『了解』
一方、こちらは資産家の男が仕向けた一人。
コードネーム、アルファが携帯の相手に向かい呟いた。
アルファはバス停から大吉達と一緒にバスに乗り、複合商業施設までやってきた。
なぜこんな事が出来たかというと、情報提供があったからだ。
当たり前だが黒島に潜入するのは不可能。
各国の軍と自衛隊、大吉と島流しの二人以外の人間が住んでいない黒島では旅行客を装う事すら出来やしない。だから情報提供に従い東京の拠点である大吉アパート近くのバス停で張り込んでいたのだ。
そして情報通り、目標とオカルト共は来た。
情報の提供元がどこかはアルファは知らないが目標の身内の何者かが手引きしているのだろう。
それにしても、こんなデタラメオカルトと関わる事になろうとは……
アルファはため息を付く。
しかしさんざん儲けさせてもらったお得意様の依頼。
長い付き合いになればお互い弱みも知っている。もはや運命共同体だ。
アルファの役目は配置した者への連絡と監視。
そして資産家の男に映像を届ける事。
目標の周囲には常にスマホを構える者がいるのでアルファがスマホを構えていても何の不思議も無い。有名な者の映像を撮りたがる皆にまぎれてアルファは大吉達を追跡する。
しかし映像、不思議と白い。
というかオカルトも目標も同行する人間も皆真っ白だ。
依頼主からは文句を言われているが機材の不調は仕方無い。我慢してもらおう。
アルファは大吉を取り巻きスマホを構える皆に混ざり、後ろについて歩き出す。
大吉は、自分が狙われている事を知らない。
『あ、こいつこてんぱんだ』『こてんぱんだな』『ざまぁ』
『顔バレしてるの知らないんだ』『顔バレバレてなーい』『オカルトすげぇな』
そしてアルファも知らない。
アルファが大吉達を見ているように、アルファを見ている者が存在する事を。
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