4.オカルト、また現れる
「運送会社社員、金剛竜ブリリアントです」
「ありがとうございます」
黒島限定社員なのに、どこで名刺を使うんだ?
と、心で首を傾げながら、大吉はブリリアントが両手で差し出す輝き名刺を頭を下げて受け取った。
「どうですか大吉様、このブリリアントの名刺交換は!」
「まあ、いいんじゃないか?」
大吉の評価にブリリアントは自慢げだ。
しかし黒島でブリリアントら軍団長を知らない者などいない。
というか黒軍出身の者は手下なのだがそこはまるっとスルーらしい。社員になったのだから社員っぽい事をしようという輝き努力であった。
「次は俺の名刺だぜ大吉様!」
「めい、しー」
「大吉様、私の名刺もどうぞ」
「このバウルの名刺もお願いいたします!」
「わかったわかった」
そしてブリリアントがすれば他の軍団長も真似して輝き名刺を出してくる。
大吉はうやうやしく頭を下げて差し出される名刺を受け取り、これで良いかと聞いてくる皆にいいんじゃないかと返事する。
そんな事を繰り返していると、皆の背後から怒りのこもった低い声。
「ブリリアント様。それに皆様……」
「「「「「げっ!」」」」」
第四軍、惑軍団長フォルテだ。
「私が政府その他と様々な仕事をしている間に何をなさっているのですか?」
「し、社員研修」
「挨拶の練習だぜ」
「めいし、こう、かん」
「社会人の嗜みを学んでいたのでございます」
「大吉様に恥をかかせる訳にはいかないからな」
言い訳にフォルテはにこやかに笑い、皆を睨みつけた。
「つまり……大吉様と遊んでいたのですね?」
「「「「「違……」」」」」
「だまらっしゃい! だいたい黒島だけで終わる仕事なんて遊びと変わらないではありませんか! 黒島で大吉様と一日中ごっこ三昧。大吉様のご迷惑も考えたらどうですか!」
べっかべっかべっか。
輝き激怒したフォルテは皆を前に宣言した。
「大吉様は一日一時間!」
「「「「「少ない!」」」」」
「私だって朝食と夕食、夜のだんらんしかご一緒していないのです!」
「「「「「多い!」」」」」
フォルテは大吉アパート住まい。仕事が終わればずっと一緒だ。
だから黒島住まいは不平マンマン。口々に叫びはじめた。
「我々だって畑仕事してる。これは正当な労働報酬だ!」
「黒豆とパスタは心を込めて育てているぜ!」
「はた、らい、てる」
「そうでございますぞフォルテ殿!」
「イカだって丁寧に育てているぞ!」
が、しかし……
「運送業務は一言も言っていないではありませんか!」
「「「「「あ!」」」」」
口は災いの元。遊びだと言ってしまったようなものである。
フォルテは雄馬と共に支店の掃除をしているエルフィンに言った。
「エルフィン、一時間でブリリアント様達をイカ養殖と畑仕事に戻して下さい」
「それでは今と変わりませんね。今の業務は一日一時間ほどですから」
「……」
大吉、実はかなり暇。
業務以上の人数に取引先の自衛隊駐屯地は近所。
そして黒島に住んでいる人間は自衛隊と雄馬だけなので集荷はまるで無し。
トドメは輝き一発で何でも解決な超絶オカルト、エルフィン・グランティーナ。
こんなだから谷崎から貰った仕事も一時間かそこらで終わってしまう。
終わってしまえば後は暇。
黒島支店は給料泥棒の巣窟。土地が余りまくっているのでエルフィンの実家のじいさんに頼んで畑仕事でも教えてもらおうかと考えている大吉だ。
「そ、それならせめてエリザベスの散歩を黒島でやってくれ!」
「そうだぜ! 黒島ならどこまでも散歩し放題だ!」
「さん、ぽー」
「お食事も夜のだんらんもこちらで良いではありませんか! おいでませ黒島!」
「バウルも大吉様と散歩したい! 大吉様の持つリードをわんわん鳴きながら引っ張ってみたい!」
「他はとにかく、バウルにリードを引っ張られるのは無理だな」
「バウル悲しい!」
リードに振り回されて死ぬ。
さすがに却下する大吉だ。
「「「「「大吉様ぁー」」」」」
「……わかった。明日からこっちのアパートに住む事にするよ」
「「「「「万歳!」」」」」
しかしこのまま不満がたまると東京まで押しかけて駄々をこねそうで怖い。
大吉は生活の軸足をこっちのアパートに移す事にした。
電気ガス水道はオカルトで調達出来るのでタダ。輝きゲートで移動も楽々。
まさにオカルト万歳だ。
「大吉様、こちらのアパートにお引越しなさるのですか?」
「その方が今後の面倒が少なそうだからな」
「役場への転出届は必要でしょうか?」
「……いらんだろ。番地まだ無いし」
そもそもこっちの役場には転入届の窓口など無い。
しかし報告くらいは必要だろう。今のうちに谷崎に言っておこうと大吉が隣の役場に歩き出せば、役場の方からやってくる者がいる。
「大吉様、こんにちは」
「珍しいな」
Aだ。
「谷崎さんには先ほど報告したのですが、またオカルトが現れました」
「えーっ……」
また島流しされる奴が増えるのか。
大吉は雄馬を見つめ、給料泥棒が増えるとため息をついた。
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