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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
2-2.黒の十四軍、オカルトを討つ
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2.自衛隊、黒島歓迎音頭

 お昼どき、ボルンガレストラン。

 大吉は黒の十四軍と共に、輝き召喚した二人を囲んでいた。

 黒の十四軍に囲まれたリリィとユウマはブルブル震えている。

 多勢に無勢、サイズは圧倒的、そして実力は比べるのもバカらしい。

 これ以上無いほどのひどすぎるアウェー状態に二人とも涙目だ。


「ユウマ様!」

「お、お前らは黒の十四軍!」


 リリィとユウマの叫びに皆が頷き、まず第一軍のエルフィンが口を開く。


「光の黒騎士、エルフィン・グランティーナ」

「王子すらトンズラげふんげふん恐れ多くて身を引いた人族最強の騎士!」


 エルフィンの名乗りにリリィが叫ぶ。


「黒軍代表、金剛竜ブリリアント」

「エルフィン・グランティーナにこてんぱんにされた怪物軍団!」

「黒の銀狼、聖女エリザベス・ウルフハウンド」

「犬! お手!」

「アイリーンでしゅ」「マリーです」「エミリですぅ」

「黒の艦隊旗艦、クーゲルシュライバーのセカンド」

「わてはグレムリン使いのミリアや」『『『サケーッ!』』』

「Aです」

「その他大勢!」

「いや、犬とかその他はないだろお前……」


 さりげなく毒舌だな、このオカルト女性。

 と、震えながら相手をディスるリリィに大吉はツッコミを入れる。

 エルフィンや黒軍はとにかく他は犬とかその他とかえらい言いようだ。

 しかしこれらの発言でリリィの素性に大体の見当がつくというもの。

 大吉はエルフィンに聞いてみた。


「エルフィン、彼女を知ってるか?」

「……よく知ってます。彼女は光の白騎士リリィ・カーマイン。カーマイン伯爵家の令嬢です」


 ちなみにグランティーナ家は子爵家。伯爵家のリリィよりも格下だ。

 しかし圧倒的な力の前に家の格など些細な事。エルフィンは震えるリリィを見下ろして、表情険しく語り始めた。


「忘れようと思っても忘れられるものではありません。ええ、忘れられるものですか。一年ほど前、カーマイン伯爵家は私に舞踏会の招待状を送っておきながら出席したらお引き取り下さいと言い放ちましたよね? 皆が怖がるから帰ってくれと! 招待状を送っておきながら帰れと! 壁の花すらお前には勿体無いと言い放ちましたよね!?」

「ひいいっ! 言ってません! そこまで言ってません眩しいっ!」

「エルフィンそれ私怨だから! ここで発散されても困るから!」


 べっかべっかべっか!

 怒りに輝きまくるエルフィンを宥めるのに大吉は一苦労だ。

 実際には土下座懇願でお引き取りを願われているのでそこまでは言われていない。エルフィンの邪推であった。

 とにかくもオカルト素性は判明した。

 大吉は今もリリィにすがりついている男に視線を移す。


「で、お前は日本人だな?」

「ユ、ユウマ……佐藤、雄馬だ」


 自称『正義』が震えた声で名乗りをあげる。

 しかしリリィに抱きついた姿では格好付かない。何とも情けない有様だ。

 しかし彼から見れば大吉もそんな風に見える事だろう。絶大な力を誇る黒の十四軍の力で二人をシメているからだ。

 大吉は問う。


「リリィを使って何をする気だった?」

「……世直しだ」


 雄馬は震えながら答えた。


「この世界の理不尽を、おかしさをリリィの力で正す。黒の十四軍を率いる井出大吉、あなたも世界の理不尽を感じた事はあるだろう?」

「……あるな」

「ならば、あなたも俺のように世直しをすべきではないのか?」

「いや、俺にその気はない」

「なぜだ?」


 大吉は取り巻く皆を見回し、雄馬に言った。


「こいつらは俺に会いに来ただけだからだ。それを望んでないからだ」

「望んでいたら、やったのか?」

「いや、俺も望んでないから止める」

「「「大吉様、さすが!」」」


 大吉の言葉に黒の十四軍、賞賛の嵐。


「大体こいつらはオカルト、元々この世界にはいない存在だぞ。そんなのをアテにしたらいなくなった後もっとひどい事になるだろうが」

「「「いなくなるなんて大吉様、ひどい!」」」


 そして続く言葉に黒の十四軍、嘆きの嵐。


「なぜだ! 望めば全ての者を幸せに出来るだけの力がそこにあるのに、なぜこのような島で遊んでいる!?」

「ゲームも勉強も人生も歴史も同じ。間違いながら賢くなって、間違いを起こさなくなっていくんだ。オカルト共が満点の正解を見せたところで俺らには出来ないから意味が無い。オカルトは俺達にとっては届かない理想、幻想なんだよ」


 実際、余所者が様々な事をしても去れば元に戻ったりより酷い状況になったりする事がほとんどだ。

 結局、その土地の者が少しずつ良くしていくしかない。

 自分を幸せに出来るのは自分だけ。

 この世界の者ではないオカルトに頼むなどもっての他だ。


「……だが、今の理不尽は解消できる」


 しかし雄馬は納得しない。

 そんな雄馬に大吉は少し考え、静かに答えた。


「カツ丼でも食うか」


 とりあえずこの場にはふさわしいだろう。

 大吉はボルンガにカツ丼二つを注文した。

 どぷん、ぺっかーっ、じゅーっ、どぷんっ……


「へい、おまち」

「炭じゃないか!」


 雄馬が叫ぶ。

 当然だ。黒豆でもイカスミパスタでもないのだから。

 しかし、大吉は叫びを無視して二人に炭カツ丼を差し出した。


「ほれ、食え」

「食べられる訳ないだろ! 炭だぞ!」

「いや、お前がやろうとしていた事はまさにこれだぞ?」


 大吉の言葉にエルフィンが頷く。


「そうですね。力で自らの思想を強制しようとした貴方達が、より力の強い私達に強いられるのは嫌だと言うのはおかしいのではありませんか?」

「ぐっ……」


 自分が力で従わせるのは良いが他人がやるのは駄目。

 それはただの自分勝手。えこひいきだ。

 十四軍の皆も頷き、雄馬を輝き睨み付けた。


「お前の理屈が正義ならば、我らの力に屈したお前が黒を食うのは正義」

「ボルンガの黒はうめぇぞ。まさか食えねぇとか言わねえよな? あぁん?」

「くろ、くえ」

「素晴らしい黒加減です。さすがボルンガ殿」

「さあ、がっつり黒を食うがいい」

「ひいっ……」


 ブリリアント、ガトラス、ボルンガ、ビルヒム、バウル。

 黒グルメ達の輝き圧力に、たまらず雄馬は炭カツ丼を手に取った。

 まあ、人間にとって炭は血肉にならない。

 そろそろ勘弁してやろうかと大吉が思った頃、リリィが雄馬から丼を奪い取る。


「私がユウマ様の分も食べます! それでお許し下さい!」

「リリィ!」


 リリィは叫び、炭カツ丼を口にする。

 ガリッ、ボリッ、ペキン、ジョリジョリ……

 食べ物とは思えない音がリリィの口から響く。


「あ、なかなか美味しいですね」

「お前らの味覚、どうなってんの?」


 伯爵家の令嬢、炭を美味しいとのたまう。

 異世界ってすげぇなぁと感心する大吉の前でリリィは炭カツ丼を完食。炭一粒残さず食べきった。


「ごちそうさまでした」

「リリィ、大丈夫なのか?」

「はい。美味しかったです」


 炭カツ丼完食はリリィと雄馬の敗北の証。

 さて、後は政府の判断に任せようか……

 と、大吉が思っていると外がなにやら騒がしい。


「雄馬君の処遇は、我らに任せてもらおう!」

「「「おいでまーせー、おいでまーせー、くろーしまー」」」


 レストランに現れたのは自衛隊の皆さんだ。

 彼らは黒島歓迎音頭を踊りながら雄馬に近付き、肩をがっしと掴んだ。


「話は聞いていたよ。君、なかなかいい情熱を持っているね」「えっ?」

「その情熱、自衛隊で是非活かしてくれたまえ」「ええっ?」

「ゲームばかりじゃなく身体も動かさないとね」「えええっ?」

「身体を鍛えるのはいいぞぅー」「ええええっ?」

「汗を流すのもいいぞぅー」「えええええっ?」


 自衛隊、雄馬を大歓迎。


「ユウマ様を、よろしくお願いします」

「リリィ!?」


 そしてリリィ、雄馬を自衛隊に引き渡す。


「ユウマ様、私達はもう敗れたのです。こてんぱんにされなかっただけで幸せと思うべきでしょう」

「リ、リリィ……」

「よぅし! まずは筋肉をつける所から始めようかーっ!」


 ひゃっほい! 

 自衛隊の皆が雄馬を担いで持っていく。

 がんばれ雄馬。

 大吉はそれを見送って、まだパスタを食べ終えていない安住と麻田に聞く。


「あれで、良いですかね?」

「……仕方ありませんね」

「いいんじゃねえか? 本土に戻してこっそり正義されても困るしな」


 安住と麻田は苦笑い。

 佐藤雄馬、自衛隊入隊(強制)。

 黒島入植者第一号の誕生であった。

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[良い点] よかった、不幸になった人もオカルトもいなかった(過程かから目をそらしつつ)
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