1.おぅお前ら、ちぃと面貸せや
「てめぇらに自称『正義』をこてんぱんにしてもらいたい」
お昼どき。
黒島支店近くにあるレストランに場所を移した大吉一行は、麻田から話を聞いていた。
「なんですか? その自称『正義』って?」
「実は、俺ん所にオカルトタレコミがあってな」
オカルト絡みでタレコミ出来る存在など、オカルトしかいない。
大吉の知らない所でそんな事が出来る存在は、大吉の知る限りひとつだけだ。
「第十四軍ですかね?」
「だろうなぁ」
大吉の言葉に麻田が頷く。
黒の十四軍、諜報軍。
大吉は全く知らないが色々なところで諜報活動をがんばっているらしい。
しかしなぜ俺の所ではなく麻田元総理のところに?
と、大吉が首を傾げていると、麻田が笑う。
「俺の所に来たのは政府の要請っていう免罪符をお前らに与える為だろうな。俺や安住は言ってしまえばパシリという訳だ」
「すみません。本当にすみません」
総理と元総理をパシリ扱い。大吉は麻田に頭を下げる。
大吉と黒の十四軍がいきなり動けば世界がびっくり仰天。
力の行使には周囲の理解と根回しが重要。麻田はその為の踏み台なのだ。
「で、その自称『正義』は何かしらのオカルトと行動を共にしているらしい。今のうちに何とかしておかないとまずいって訳だ」
麻田が言う。
エルフィンが首を傾げた。
「大吉様、私達以外の者が現れたとして、そこまで問題なのでしょうか?」
「黒の十四軍のように黒島で俺と遊んで満足みたいな奴ならいいんだけど、そういう訳じゃないらしい。そこら中で皆が好き勝手にオカルトの力なんて使ってみろ、世界がメチャクチャになるぞ」
「なるほど」
黒の十四軍の現在の評判は『黒島で遊んでいる怪獣軍団』だ。
これは畑仕事やイカ養殖、自衛隊の的、黒島歓迎音頭といったどうでもいい事ばかりしているからだ。
しかし世界を変える為にオカルトが何かをすれば、この評判はおそらく悪い方向に大きく変わっていくだろう。そうなる前に何とかするのが望ましい。
エルフィンは深く頷き、そして言った。
「メチャクチャにされたら、輝き復元の出番ですね?」
「そんな事まで出来るの?」
「はい。相手の実力次第ですが」
「「……」」
大吉の隣に座るオカルト、とんでもねー。
エルフィンの言葉に大吉と麻田が唖然としていると自衛隊の視察が終わったのだろう、安住と谷崎がレストランに入ってきた。
「らっ、しゃい」
レストランの店長兼料理人、第五軍獣軍団長ボルンガがぽよんと揺れる。
自衛隊駐屯地の食堂を真似して作った怪獣レストランだ。
「注文、する」
「あ、ありがとうございます」
そしてうにょんとスライムな身体を伸ばし、メニューを安住に差し出してくる。
安住はおっかなびっくり、ボルンガの差し出すメニューを受け取った。
「じゃ、安住も来た事だし何か食うか」
麻田も手元のメニューを開く。
大吉が二人に言った。
「あぁ、総理も麻田元総理も黒豆とイカスミパスタ以外は注文しないで下さい」
「?」「なんでだ?」
「ブリリアントやガトラスのテーブルにあるアレみたいなのが出て来ますんで」
首を傾げる安住と麻田に、大吉は別のテーブルで食事をしている金剛竜ブリリアントを指さした。
「ふむ、ボルンガよ。今日のレアステーキはなかなかの黒だな」
「いい黒だぜ。黒を上げたなボルンガ」
「五臓六腑に染み渡る黒です。さすがボルンガ殿」
「あり、がと」
ブリリアント達のテーブルにあるステーキは黒い、超黒い。
あまりの黒さに麻田が呟いた。
「炭じゃねーか」
「はい。炭です」
「どこがレアなんだよ?」
「さぁ?」
首を傾げる大吉。
麻田がブリリアントに言った。
「ブリリアント、それにお前ら。ちょっとミディアムとウェルダンも頼んでみてくれねぇか?」
「おごりか? タダ黒か?」
「それでいい」
「お、麻田てめえ太っ腹だな」
「ボルンガ殿、ミディアムとウェルダンを追加でお願いいたします」
「はー、い」
どぷん、ぺっかーっ、じゅーっ、どぷんっ……
ボルンガが肉を飲み込み、輝き、焼き、吐き出す。
出来上がったのはミディアムとウェルダンのステーキだ。
「ミディ、アム」「炭だな」
「ウェル、ダン」「全部炭じゃねーか! どこが違うんだよ!」
叫ぶ麻田にブリリアントが笑う。
「ふ……麻田よ、やはり黒をわからぬ者であったか」
「すまん。俺にもわからん」
「大吉様はこのような些末な黒などわからずとも良いのです」
「ブリリアント、てめぇいい根性してんなぁ」
麻田はダメでも大吉はオッケー。
えこひいき、ここに極まれりだ。
「注文、する」
「……イカスミパスタで」「俺もだ」
「はー、い」
それはともかく炭など安住も麻田も食べられない。
二人は大吉の言った通りにイカスミパスタを注文した。
どぷん、ぺっかー、ちゅるるん、どぷんっ……
ボルンガの体内でパスタが茹でられ、イカスミが絡まっていく。
たちまち皆のイカスミパスタの出来上がりだ。
「へい、おまち」
「すごい料理方法ですね……」「……これ、大丈夫なのか?」
「大丈夫です」「ちゃんと美味しいですよ?」
スライムの体内でコネコネされた料理にドン引きの安住と麻田。
しかし大吉と谷崎はすっかりオカルトに慣れたもの。ボルンガの体内から出て来たそれを気にする風もなく食べ始める。
普通に食べる二人を見て、安住と麻田もおっかなびっくり口にする。
「……美味しいですね」「……おう」
普通に、美味い。
すっかり慣れた谷崎が健康なのだから大丈夫なのだろう。二人は割り切ってイカスミパスタを食べ始める。
皆でイカスミパスタを食べる中、エルフィンがブリリアントに言った。
「ブリリアント、ここは黒の十四軍の総力で対処すべきでしょう」
「ふむ。エルフィンよ、我らの力を示すのだな」
「はい。私達と大吉様の黒島のんびり生活のために、自称『正義』をこてんぱんに叩かなければなりません。黒の十四軍、輝きヒマ人集結です!」
ぺっかー。
エルフィンが輝いてヒマな者を集結させる。
大吉と黒島のんびり生活。
それがジャスティス。黒の十四軍の正義だ。
「黒の十四軍、ヒマ人総力戦です!」
「我らの黒を示す時だな!」「やるか!」「黒の十四軍、初の総力戦ですわね!」「やる、やる」「イカ養殖は後回しだ!」「やりましょう。ぜひやりましょう!」
「黒の力を見せてやるです!」
「こてんぱんでしゅ」「やるです」「はいですぅ」
「黒の艦隊も、準備万端」
「わてらのスローライフは邪魔させへんでぇ」『『『サケーッ!』』』
「それなら当然、私達諜報軍も参加でございますね」
エルフィン、黒軍、エリザベス、ロボ幼女、黒の艦隊、ミリア。
そして、どこからともなく現れるA。
黒の十四軍、ヒマな奴らが全員集合だ。
「いきます……せーのっ!」
そして集まった皆はエルフィンの号令に合わせ、輝き叫んだ。
「「「「「「「「「「「「「「輝き、召喚っ!」」」」」」」」」」」」」」
べべべべべべべべべべべべべべっかーっ!
そして、ぽんっ!
「「ええっ!?」」
眩しく輝いた黒の十四軍の中心に、自称『正義』現る。
光の白騎士リリィ・カーマインと、ユウマだ。
「おぅお前ら、ちぃと面貸せや」
「「えええーっ!?」」
皆を代表して巨人ガトラスがギロリと二人を睨みつける。
自称『正義』、昼食中に確保。
黒の十四軍、黒島で輝いただけ。
あまりのスピード解決に、安住と麻田はパスタでむせていた。
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