幕間.力というものは厄介なもの
大吉達が麻田に頭を下げられる少し前、暗い部屋の中……
彼は、動画を見ていた。
彼が見ている動画は彼自身も何十回もみた、全世界で何十億回も再生された日本国政府の動画。
動画の名は『黒の十四軍結成式典』
大吉達が東京湾で行った世界を圧倒するオカルト集団の結成式典だ。
この式典の後、フラットウェスト社の『エクソダス』の売り上げは再び爆発。
購入は組織的で、需要のほとんどが政府機関と企業が占めている。
当然だが購入目的はゲーム機としてではない。
オカルト軍事力の劣勢を覆す為、他社を圧倒する生産性を獲得する為。
皆、求めているのだ……黒の十四軍のような、他者を圧倒する力を。
「僕はね、リリィ。彼らに期待していたんだ」
「……ユウマ様」
その力がどれだけ不可解でも気にしない。
いや、気にはするだろうが明確な成果は不可解さよりもはるかに重要だ。
彼、ユウマは動画を見ながら、リリィと呼んだ女性に言った。
「でも彼らは自ら作った黒島に引きこもって何もしない。いや、何かはしているけれど持っている力にふさわしいものじゃない」
公開される動画は畑仕事、養殖、そして黒島歓迎音頭。
何が『おいでまーせー、おいでまーせー、くろーしまー』だ。
皆が求めているものは踊りや黒豆やイカではない。
どこかしら感じている不条理を打破する、痛快で圧倒的な力だ。
「彼らはなぜ僕の所に現れなかったんだと、何度も何度も思ったよ。僕だって『エクソダス』にはすごくハマっているからね……けど」
ユウマは動画から視線を外し、傍らに寄り添うリリィの髪を撫でる。
「君が現れてくれた」
「……」
髪から肩へ、そして腰へ……ユウマの手がリリィの身体のラインを撫で、引き寄せる。
リリィは抵抗する事なく、ユウマの胸に顔を埋めた。
「リリィ。『リリィメイカー』をプレイした多くのプレイヤーの中から、僕を選んでくれてありがとう」
「私こそ、すぐに私を受け入れて下さってありがとうございます」
「当然だろ。リリィだもの」
「ユウマ様」
二人の身体が絡み合い、身体の熱を服越しに分かち合う。
しばらくの抱擁の後、ユウマはリリィを見つめて言った。
「光の白騎士リリィ・カーマイン。この世界を救う力になってくれ」
「……私では光の黒騎士エルフィン・グランティーナに太刀打ちできません。あの方は間違いなく人族最強。誰もが恐れ多くて近付けない壁の花にもなれないお方、国を受け継ぐ王子すら身を引く孤高のお方です。お力には……なれません」
瞳を伏せて語るリリィに、ユウマが笑う。
「僕はリリィに黒の十四軍と戦って欲しい訳じゃない。僕にとっては不本意だけど、彼らが島でスローライフを楽しみたいならそれでいいと思ってる」
彼らは井出大吉と黒島生活を送れて満足している事だろう。
しかし……ユウマはそうは思わない。
「だって今の僕には、リリィがいるからね」
「ユウマ様……」
動画やニュースや新聞を見れば世界にどれだけ多くの問題があるかわかるだろう。
ユウマは普通の青年だ。
だから問題がある事に不満を感じ、何とか出来れば良いのにと思い、自らの力の無さを嘆き、仕方が無いと日常を送っていた。
しかし、ユウマは力を得た。
光の白騎士リリィ・カーマインというオカルトを。
「君は僕の希望だ。僕の力だ。そしてこの世界を救う光だ」
力とは厄介なものだ。
あれば使わずにはいられず、考えの違う他者を力で従わせずにはいられない。
「この世界の不条理を君の力で吹き飛ばして、君の光で明るく照らしてくれ」
たとえその力が不可解なオカルトであっても。
「……私は、そんな事をしたくて世界を渡った訳ではありません」
「今は、それでいいさ」
そして、力を持つオカルトがそれを望んでいなくても……
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