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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
1-1.光の黒騎士、現る
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5.オカルトはオカルトを呼ぶ

「申し訳ありませんでした!」


 謎のストーカー女騎士に命を救ってもらって数日。

 大吉は配達と集荷の傍ら、破損した荷物の配達先に頭を下げて回っていた。

 命を助けて貰ってラッキー。

 しかし大型トラックの荷物が大吉が勤める店の荷物だったのがアンラッキー。

 どうせなら他社のトラックであって欲しかった大吉だ。

 まあ、命を救ってもらったのだから良しとしよう。

 結局、被害は大型トラックの積載物だけ。

 大吉はもちろん、あれだけ空を舞った大型トラックの運転手も周囲も無事である。あの女騎士はぶん投げてグルグル回した大型トラックを空中でピタリと止め、道路にそっと着地させたのだ。

 空中でどうやって止めたのか、車の骨組みとかぺらっぺらの荷台の箱とか歪まないのかと思った大吉だが、深く考えない事にした。

 オカルトだからだ。

 積載物がダメになったのは常識のせめてもの抵抗と言ったところだろう。

 常識って素晴らしい……大吉はそう思いながら、壊れた荷物を手に毎日頭を下げるのだ。

 壊れた荷物は大吉の会社が弁償する事もあり、配達先は概ね納得してくれた。

 それでも文句を言う配達先も車載カメラに映っていた映像を見せると納得してくれた。オカルト万歳。


「さて、次は山の上の農家か……」


 大吉は送り状を確認し、トラックを発進させた。

 荷物は肥料の袋。

 そのうち半分は袋が破れてしまっている。

 荷台が回転した際に他の荷物の角が肥料の袋をブチ抜いたのだ。

 あそこのじいさん怒りっぽいから行きたくないんだよなぁ……

 大吉はそう思いながら山道を登っていく。

 頼んだ荷物を壊しましたなんて客からすれば腹立たしい事この上無い。

 しかし壊れてしまったものは仕方が無い。頭を下げて怒られよう。

 大吉は諦めてくねくねと続く山道を登っていく。

 怒られるのがわかっているので気が重い。

 しかし五度目のカーブを曲がった頃、大吉の気の重さはじいさんから別のものに変わっていた。

 サイドミラーにオカルトが現れたのである。


「またかよ、おい……」


 女騎士だ。また女騎士である。

 山道を登る大吉のトラックの背後に、あの時の女騎士が駆けているのだ。

 もしかして野生か? 山育ちの野生ストーカー女騎士なのか?

 大吉はくだらない事を考えながら、自らの不運に大きく息を吐いた。

 大型トラックをぶん投げるような相手から宅配トラックが逃げる手段は、ない。

 そしてこの道は配達先で行き止まり。

 やがては停車せざるを得ない。そして配達先でトラックを降りざるを得ないのだ。

 まさかのオカルト直接対決。

 手の平に汗がにじむのを感じながら大吉は山道を登り、配達先である農家でトラックを停めた。

 覚悟を決めて車を降りる。

 女騎士はまだトラックの後ろにいた。

 彼女はトラックのマフラーの前にかがみ込んで、しきりに耳を傾けている。

 落ち着いて見れば、やっぱり全てが漫画風。

 なんちゃって西洋鎧とでかい剣が陽光に輝く。

 落ち着いて見ると重そうだ。いや、すごく重いだろう。

 しかし彼女は息を乱した様子も無い。

 さすが大型トラックをぶっ飛ばすオカルト……大吉は恐る恐る声をかけた。


「……俺の車に何か用か?」

「はい。私の求める音がぶるるん、ぶるるん」

「エンジン音?」

「エンジンと言うのですか。なるほどぶるるんっ」


 なにがぶるるんだよ野生トラックストーカー女騎士め。

 と、大吉が心で呟いていると女騎士はゆっくりと立ち上がり、大吉を見据えた。


「ところで貴方は、何者ですか?」


 女騎士の手が漫画剣の柄に触れる。


「私は数日前からここの主人にご飯の対価に害獣避けの仕事を受けた者。不埒な目論みがあるなら覚悟する事です」


 野生じゃなかった。用心棒だった。

 背中に嫌な汗を感じながら、大吉は震える声を出す。


「……運び屋だ。ここの人が頼んだ肥料を持ってきた」

「なるほど。主人!」 


 女騎士が家屋に向かって叫ぶ。

 ややあって、返事が来た。


「んー? 昼はまだじゃぞー、嬢ちゃん」

「違います!」


 女騎士が赤面して叫ぶ。


 ぺっかー。


 大型トラックをぶん投げたときと同じように、彼女が輝く。

 後光のようなそれに大吉は目を細めた。

 どうも感情の起伏により輝くらしい。まったくもってオカルトだ。


「なんじゃい全く……」


 玄関が開き、ブツブツと呟きながらじいさんが家から出て来てくる。

 ここの家主、大吉が怒りっぽいと評した農家のじいさんだ。


「じゃあ朝飯か? 嬢ちゃんさっき食べたじゃろ。ボケたか?」

「ですから違います!」

「ぺっかぺっか眩しいわい。まったく、妙な嬢ちゃんじゃな」


 農家のじいさん、オカルト女騎士をボケ扱い。

 輝いている位は気にしないという事だろう。

 しかしこの気さくさ、大型トラックをぶん投げるとは知らないに違い無い。

 知らないという事は幸せだなぁ……と、大吉は思いながら頭を下げた。


「主人、この男がぶるるんで肥料を持ってきたそうだ」

「おぉ、お前の会社から連絡は受けておる。荷を壊したそうじゃな」

「この度は荷物を破損させてしまい、申し訳ありません」


 壊した事は事実だから、怒られるのは仕方ない。

 しかし頭を下げる大吉にじいさんは怒らなかった。


「嬢ちゃんがトラックぶん投げて壊したんじゃろ? 人の命を救ったんじゃからしゃーない」


 じいさん、知っててボケ扱い。

 あんぐりと口を開けて見つめる大吉に、じいさんは笑う。


「言葉も通じん自然には好き放題やられてるからのぅ。嬢ちゃんは言葉も通じるし、獣から食いもん守ってくれるし怖がる理由が無いじゃろ」


 豪胆だ。伊達に自然と戦ってはいない。

 じいさんはカカカと笑い、女騎士の背中をバシバシ叩いた。


「いやー、嬢ちゃんがいてくれて助かる。最近害獣がひどくて困っていたんじゃ」

「当然です。害獣など敵ではありません」

「……デスヨネー」


 大型トラックをぶん投げる位だから害獣なんぞ楽勝だよね。

 と、胸を張る女騎士に納得半端無い大吉だ。


「ま、そんな訳じゃ。代わりの肥料は貰うが怒りはせん」

「ありがとうございます」


 大吉はもう一度深く頭を下げ、肥料の袋をじいさんに検品してもらう。

 女騎士の所業と知っているからだろう。破れていても中身があまり減っていない袋は受け取ってくれた。

 注文する代品が四分の一。女騎士様々である。


「そうだ」


 言うのを忘れていた。

 納品を終えトラックに乗り込もうとした大吉は、女騎士に頭を下げた。


「トラックを投げてくれてありがとう。おかげで命拾いした」


 あのままだったら大吉は間違い無く死んでいた。

 今も命があるのはここにいる女騎士のおかげだ。たとえぶるるんストーカー女騎士であっても大型トラックをぶん投げるオカルトであっても礼を言うのが筋だろう。


「当然の事をしたまでです」


 ぺっかー。


 大吉に女騎士は胸を張る。

 嬉しくても輝くのか女騎士。あんたオカルトだけどいい人だ。

 大吉はもう一度深く頭を下げ、今度こそトラックに乗り込もうとドアを開く。

 そんな大吉をじいさんが呼び止めた。


「じゃ、飯くらい食わせてやらんといかんなぁ」

「え?」


 じいさんがニヤリと笑う。


「嬢ちゃん、今日の仕事はスーパーで買い物じゃ。ほれ、リスト」

「ええっ?」


 自分が買いたいものをメモしていたのだろう、じいさんが女騎士にメモ紙を押しつける。


「嬢ちゃんの分の昼飯は用意せんからこいつに飯をタカれ」

「えーっ?」

「こいつの店に行けばたくさんのぶるるんが聞き放題じゃぞ。配達屋じゃからな」

「ぶるるんが!」


 ぺっか。


 輝いた女騎士はエンジン馬力も顔負けの身のこなしで、大吉が開いたドアからスルリと運転席へと乗り込んだ。


「さあ行きましょう! 実は一度乗ってみたかったんですぶるるん!」

「……トラックだ」


 あと、運転席は俺の席な?

 大吉は助手席のドアを開いて女騎士を座らせ直すとシートベルトをつけ、運転席へと乗り込んだ。

 キーを回してエンジンをかける。

 トラックはゆっくりと動き出した。


「ぶるるん! さあぶるるんの聖地へ! えーと……」

「大吉だ。井出大吉」

「私は光の黒騎士エルフィン・グランティーナ。エルフィンとお呼び下さい」

「エルフィン……あー、納得だわ」

「は?」

「いや、こっちの事」


 懐かしい名に大吉は笑った。

 エルフィン・グランティーナ。

 十年前に大吉がハマりまくったエルフィンメイカーのヒロインだ。


 光の黒騎士という謎ワードは、まるっとスルーした。

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