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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
2-1.大吉、南国黒島スローライフ
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4.自衛隊駐留部隊、黒島に上陸する

 太平洋上を、自衛隊の輸送艦が進んでいた。

 戦車をはじめとした火砲を積み、トラックや野営設備、食料を積んでいる。

 しかし一番重要なものはやはり人だ。


「おい……」「なんだ?」「俺ら、怪獣に捧げられるって本当か?」「……」


 捧げ物先遣部隊。

 出発する際に囁かれていた言葉に、輸送艦に乗った兵員は黙り込む。

 先日『黒の十四軍』として結成式典を行った怪獣軍団の本拠地、新島黒島。

 この輸送艦はその黒島へと向かっている。陸上自衛隊最初の駐屯部隊を乗せた艦なのだ。

 有事があれば戦う自衛隊員にとって、あの怪獣は脅威だ。

 保有するどの航空機も追いつけず、攻撃兵器は全てキャッチ&リリース。

 陸海空はおろか小惑星並の母艦を持つ強大な宇宙軍すら存在し、生産軍という強力な補給軍を持ち、諜報軍という謎のスパイ集団までいる。

 これでもかと盛りに盛りまくった軍団。ついでに眩しい。

 太平洋上をしゅぱたんと反復横跳びしていた要塞世界樹バウルならば移動するだけで陸自は蹴散らされ、海自は波で転覆し、空自は乱気流で墜落するだろう。

 花火大会で多数のビームを乱発していたがバウルだが自衛隊相手ならこんな明確な攻撃すら必要無い。近くにいると転ぶよしらないよーって感じであった。

 こんな島に駐屯を命じられた先遣部隊の悲壮感は半端無い。

 新島黒島は今もまだ秘密のベールに包まれた秘境、いや魔境。

 どんな奴らなのか、どんな目に遭うのか、自分達はどうなってしまうのか。

 日に日に近付いてくる黒島に兵員達は心労にやつれていく。

 が、しかし……その心労は到着と共に呆れへと変わった。


『歓迎おいでませ黒島』


 バウルが花を咲かせて描いた歓迎文字。

 輸送艦の甲板からそれを見て、唖然とする駐留先遣部隊の皆である。

 全高五千メートルを超える超巨大樹木に描かれたおいでませは、これまで見たどんな歓迎文字よりも巨大だ。当たり前だが。


「「「なんだこれ?」」」


 さらに近付き港に入ると今度は歓迎ソングだ。


「「「おいでまーせー、おいでまーせー、くろーしまー」」」


 合いの手だろう、節々に「黒!」「黒!」という叫びが入る。

 竜が踊り、巨人が踊り、スライムが踊り、ロボが踊り、ついでに海自が踊る。

 相手が怪獣でなければ兵員達もこの場で手を振っていただろう。

 しかし歌っているのも踊っているのも怪獣。ヘタな事をしたら食われるんじゃないかと戦々恐々。彼らは怪獣初体験。まだ恐怖の方が勝っていた。


「おぉい陸自の先遣。手くらい振れよノリが悪いぞー」


 そんな輸送艦の面々に港からツッコミが入る。

 護衛艦こんごうの乗組員だ。


「おい、海自」

「なんだよ陸自」

「こいつら何してるんだ? 注文の多い料理店みたいなノリなのか?」

「いつもこんな感じだから。気にしてたらハゲるぞー」


 輸送艦の甲板上、皆がやけっぱちで手を振れば怪獣達の踊りが派手になる。

 ノリは観光地の港そのものだ。

 そんな事をしている内に輸送艦は港から伸びてきた桟橋にキャッチされる。

 係留全自動。甲板から港を見ていた皆が呆れる謎技術だ。

 そして乗り込んで来たのは……人間である。


「駐留先遣部隊の皆さん、ようこそ黒島へ。黒島役場長、防衛省の谷崎始です」


 唖然な先遣部隊の皆を前に、谷崎は淡々と黒島での活動に関する説明を始めた。


「黒島にてご提供頂いた演習場は海に面した五十キロ四方の平地です。その中は自由に使って構いません」

「「「広い!」」」


 面積二千五百平方キロメートル。

 ど田舎なのはさておき国内では圧倒的広さだ。


「周囲には強固な輝き障壁が巡らされておりますから演習場外へ銃砲弾が飛ぶ心配はありません」

「「「バリアだ!」」」


 さらっと使われる謎技術。


「あと、黒の十四軍の皆様が暇な時には演習場を森にしたり標的になったり地形を変えたりしてくれるそうですよ」

「「「至れり尽くせり!」」」


 暇つぶしだがサポート万全。


「最後に注意ですが、黒の十四軍の皆さんは『黒』にすさまじいこだわりを持っておりますので、くれぐれも黒を罵倒する発言は控えて下さい」

「「「なんだそれ?」」」


 そして謎のこだわり。

 しかし相手は怪獣。何をされるかわからない。

 皆は谷崎の説明に気を引き締めて黒島に上陸し、装備を演習場に、荷物を宿舎に運び込む。

 その最中にふと海を見ればバウル達樹軍が海で駆け回っている。


「あれは、何をしているのですか?」

「イカの養殖をしています」

「「「イカ!」」」


 皆、樹木が漁業する姿を見るのは初めてだ。

 しゅぱたん。しゅぱたん。

 その動きはさすが怪獣。自衛隊の艦どころか航空機すら目ではない。


「……あれ、ミサイル当てられるかな?」「対空ミサイルでもムリじゃね?」


 移動する物体にミサイルが当てられるのは、移動に理屈があるからだ。

 その理屈に従って動いているから未来位置を予測できるし、命中させられる。

 しかしあれは理屈の外だ。

 静止、マッハ、跳躍、潜水、イカ……ある時は船、ある時は飛行機、ある時はロケット、またある時は潜水艦。どれも超絶ハイスペック。

 理屈を瞬時に変えられる存在に攻撃を当てる事は非常に難しい。

 イカ養殖の姿を眺めてあれは敵に回すのはやめようと思う皆である。

 空を見れば竜軍が飛び交い、陸には巨人やスライム等の謎生物やロボが歩き回り、海では樹木がイカ養殖。輝きながら酒と叫ぶ謎存在もいる。

 フレンドリーだがやはり魔境。

 そして港を見ると巨大トラックターミナルだ。


「なんだこの場違いな超巨大トラックターミナル?」

「端っこに一台運送会社の車があるぞ?」

「宅配便あるんだ」

「こんな誰も住んでいない島に民間の荷物が来るのかな?」

「ま、待て……あの人、結成式典に出てなかったか?」

「「「あ!」」」


 黒の十四軍の長、井出大吉。

 運送会社で労働中。

 とんでもない所で働いている超地雷に、肝が冷える皆である。


「……あの人には関わらないようにしよう」

「そうだな」

「いつ怪獣達の逆鱗に触れるかわかったもんじゃない」

「俺らが使用するトラックターミナルは、百メートル離れた所にしよう」

「お、おう」


 しかしその願いはかなわない。

 すでに大吉が谷崎に仕事をもらっているからである。


「あ、日用品などの扱いは井出さんに委託する事になっておりますのでお気軽にご利用下さい」

「「「ええーっ!」」」


 なんでそんな火中の栗を拾うような事を!

 黒島駐留先遣部隊の皆はそう心で叫び、頭を抱えるのであった。

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