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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
2-1.大吉、南国黒島スローライフ
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3.大吉、黒島に立つ(3)

「ここが工業区やー」


 ミリアの運転? するバスはぶるるん軍団と共にメインストリートをしばらく走り、やがて工業区へとたどり着いた。


「すげえな。そこら中で輝いてる」

「輝き生産ラインやでー」


 輝いてる。そこら中で輝いてる。

 鉱山でぺかぺか、平地でぺかぺか、工場でぺかぺか。

 ぺかぺか、ぺかぺか、ぺかぺか……輝くたびに様々な機械が出来上がる。

 何とも便利なものだなぁ。と、大吉は輝き生産ラインに感嘆の声を上げた。


「輝くだけで機械が出来るのか」

「せやでー。もうすぐ皆の家に置くパスタ製造機が需要を満たして生産終了や」

「その後はどうするん『『『サケーッ!』』』……ああ、アルコール作るのね」


 グレムリン達の叫びにミリアが笑う。


「こいつら酒好きやからなぁ。このバスも酒飲ませれば爆速やでぇ」

「ガソリンとかも飲むのか?『『『マズイー!』』』あぁ、そうですか」


 車が酔っ払ってどうする?

 まあ、アルコール動力の車が無い訳ではない。燃やしてエンジン回してると思う事に決めた大吉だ


「ま、他にも作るモン色々あるんやがな。そろそろこいつらにもうまい酒飲ませてやらんと世界中の酒蔵でこっそり飲むとかやるんでなぁ。正当な労働対価や」

「そういやぁ、最近天使の分け前が増えたとかってニュースがあったな」

「すまんなぁ」『『『チョコットダケダカラ!』』』

「あれはお前らの仕業か!」


 天使の分け前とは、酒を熟成する過程で量が減る現象の事。

 あれは天使じゃなくてグレムリンだったのかと、またまた頭を抱えた大吉だ。

 ちなみに後日、谷崎に頭を下げてその事を謝罪したところ各社宣伝に使って売り上げを伸ばしたらしい。商売人はしたたかであった。


「黒島開発もまだまだ始まったばかりや。これから自衛隊はんとか谷崎はんの仲間とか色々増えるしまだまだ工業区はがんばるでぇ」

「そうか」


 ミリア率いる機械妖精グレムリンは建築に製造にと大活躍。

 さすが生産軍である。


「私だって輝きで「張り合わなくていいから」ええっ!」

『『『デタラメーッ!』』』

「さあ、居住区についたでぇ」


 ぺっかと輝くエルフィンにツッコミを入れつつ一行は居住区にたどり着く。

 メインストリートに隣接する広場は二十キロメートル四方。メインストリートとは違いバウルもゆったりの地平線バッチリな広場である。

 その広場の先にあるのが巨大2DK建築の大吉宮殿。

 しかし前回来た時とは違い、広大な敷地の端にちんまりアパートが建っている。

 大吉アパートのコピーだ。


「このアパートが大吉様私邸。そしてあっちは公邸の大吉様宮殿や」

「……宮殿はそのまま残すのね」

「世界の宮殿を参考に間取りは変えたさかい、皆でどんちゃん騒ぎ出来るでぇ」


 どうやら中身は別物らしい。安堵する大吉だ。 

 そして広場を中心に広がるのが、それぞれの軍団の居住区画だ。

 軍団の皆の住居、軍団ごとに個性があって面白い。

 屋根と壁は大体共通だが高層建築だったり平屋だったり、窓が無かったり扉が大きかったりと様々だ。

 空を飛ぶブリリアントら第二軍の建物は高層建築が多く、飛んで帰宅するので階段などの設備がおそろしく適当だ。

 そして玄関の扉はとにかく大きく、まるで飛行機のガレージのようである。


「皆、翼が引っかかると嫌なので扉を大きく作るのです」

「なるほど」


 言う事もそのまんま飛行機だ。

 隣のガトラスら第三軍とフォルテら第四軍の家は姿形が人間とあまり変わらないからだろう、基本的に人間の家と同じ形をしている。

 しかし、大きさは住む者のサイズによってまちまちだ。


「俺の家はでけぇだろ大吉様。大吉様のゲストルームもあるぜ」

「でけぇなホント」


 ビルのような一戸建てを見上げ、大吉は感嘆する。

 さらに隣のボルンガら第五軍は平屋が主流。大きさは第三軍と同じくまちまちだ。


「くつ、ろぐー」

「あー、スライムの盛り上がった部分ってやっぱり疲れるんだ」


 だぱん……ボルンガが家の窪みに池のように広がる様に、妙に納得する大吉だ。

 続くバウルの第六軍はまんま森。土の上に樹軍の皆がそのまま生えている。

 南国太陽を遮る日陰が心地良い。森林浴だ、マイナスイオンだ……


「ちなみにここでの出来事は樹軍に筒抜けですので、ご注意下さい」

「「「ひゃっほい!」」」

「うわぁ!」


 しかし当然樹木は樹軍。森が叫びくねくね踊る様に叫ぶ大吉だ。


「そういえば、バウルの家は無いんだな」

「このバウルの家は広場でございます」


 あの二十キロ四方の広場はバウルの家だったらしい。

 続くビルヒムら第七軍、屍軍の家は……墓ではなかった。普通の家だ。


「我ら屍なれどアクティブですからな。利便性を追求するのは当然でございます」

「そりゃそうだ」


 わざわざ不便な家に住む必要は無い。

 身長三メートルのビルヒムの家も多少大きくはあるが普通の家であった。


「エアフローと温度湿度管理はしっかりしておりますぞ」

「……屍からエアフローなんてセリフを聞くとは思わなかったぞ」


 カサカサボデーケアには気を遣っているらしい。空調完備だ。

 そしてどの家にも必ずあるのが墓の部屋。


「使わせて頂いている屍の供養は欠かさず行う。それが礼儀でございます」

「仏壇みたいなもんか」


 続く第十二軍の宇宙軍の家は多少近未来的だが必ず庭と畑を装備。

 畑ではタオルを首に巻いた艦長達が額に汗を輝かせ、艦の分身たるセカンドと共に鍬を振るっていた。

 セカンドが説明する。


「長く宇宙にいると、土いじりが憩いとなるのです」

「そうなんだ」

「食料のほとんどはクーゲルシュライバーで生産しておりますが、艦船の中にはたいてい家庭菜園があり、思い思いの野菜を育てています」


 さまざまな野菜を栽培しながら宇宙を旅していたらしい。

 そして時折皆で野菜を持ち寄り、クーゲルシュライバーで宴会を開くそうだ。

 続いて第十三軍。

 ミリアはエルフィンやフォルテ、エリザベス、三幼女やセカンド同様大吉アパート住まいになるが、グレムリンは別の区画に居を構える。

 しかしその区画にあるのはどでかい窪地。

 首を傾げる皆にミリアが説明した。


「酒の池を作る予定やー」『『『サケー!』』』

「肉の林は作らないのか?」『『『イラネーッ!』』』


 グレムリン、酒の中に住む。

 そしてツマミはいらないらしい。のんべえだ。


「そして、このあたりが第十四軍や」

「『スパイ』の奴らか」


 大吉が最後に遊んだエクソダスのゲーム『スパイ』。

 名前そのまんまのスパイゲーであり、プレイヤーは諜報部隊の一員となり敵地に侵入、情報を掴んだり偽情報を流したりして味方を勝利に導くというゲームだった。

 互いにコードネームで呼び合う同僚は皆、仮面を付けている。

 顔も素性も分からない同僚に、大吉はだまされたり裏切られたり囮に使われたりしたもんだ。もちろん大吉も同僚に対して同じ事を仕返してやったが。

 そういえば、まだAにしか会ってないんだよな。

 同じチームだったIは元気だろうか……大吉はそう思いながら第十四軍、諜報軍の居住区画に入る。


「……普通だな」


 通りに並ぶのは、何とも普通の家だ。

 というか世界のどこかにある家そのまんまだ。日本だったり中国だったりアメリカだったりロシアだったり都会のマンションだったりログハウスだったりと、どこかで見た家ばかりが建ち並んでいる。

 こいつら、こんな家に元々住んでいたのか?

 と、首を傾げる大吉だ。


「これで注文書通りやでぇ」

「注文書?」

「せや。ワープロ印刷の注文書が知らん間にポッケに入ってたんや。姿は見せんが口も指示も出してくる。わてがスマホゲーアプリいじくってたのも奴らの指示やしなぁ。ホンマ、ようわからん連中や」

「そうなのか」


 大吉がミリアと会話していると、建物のドアが開いた。

 ひょっこりと出て来た者は……輝いている。

 エルフィン達ほど眩しくは無いが、輝きで顔も姿もぼやけて良く分からない。

 最初に現れた者が輝き通達したのだろう、そこら中の家から輝き人間が出て来て大吉の乗るバスにワラワラ集まってきた。


「……まるで幽霊だな」

「大吉様、あれは歓迎の輝きですが吹き消しますか?」

「いや、敵意が無いならいい」


 ぺっかぺっか。

 輝きながら聞いてくるエルフィンを大吉は制する。


「それでは輝き会話で……なになに? 大吉様黒島栄転おめでとう? 身体的特徴を知られると諜報活動に支障が出る? 最近はAI顔認識とか使ってくるから変装してても結構バレる? だから輝きで誤魔化している? 声バレも注意しているから輝き会話……だそうです」

「なるほど」


 ぺかぺかぺぺかぺか……明滅する輝き会話の内容に納得する大吉だ。

 身体の特徴や目鼻口耳などの位置や形を変装で変えるのは難しい。

 人の目は変装でだませるがAI機械で比較されるとバレる可能性があるという事らしい。今のご姿勢、スパイもなかなか大変だ。


「そのくらい輝き変形すれば解決「出来るのエルフィンだけだから」ええっ!」


 そんな会話をしていると輝き人間の中から輝かない者が現れた。


「大吉様、黒島栄転おめでとうございます」


 Aだ。


「ありがとう。Aは輝かなくていいのか?」

「私は結成式典で姿をさらしておりますので今さらなんですよ」

「あー……」


 そうだった。

 司会やってたのがAだったと、思い出す大吉だ。


「第十四軍の居住区は我らの訓練の場でございます。我らは世界のあらゆる場所に潜み大吉様をお助けするのが務め。故に様々な環境をこの場に作り、怪しまれない振る舞いを訓練しているのでございます」

「皆と同じように遊んでもいいんだぞ?」

「いえ。それでは我らが世界を渡った意味がございません。それに皆の振る舞いには力の誇示という重要な意味がございます。我ら第十四軍の力は諜報ですから」

「そうか」


 まあ、納得していればいいか。

 ぺかぺか踊る第十四軍の輝き人間の歓迎に大吉は笑い、ふと気付いて聞いてみる。


「そういえばAは副軍団長なんだよな? 軍団長は誰なんだ?」

「Iでございます」


 I。

 大吉と同じチームで一緒に諜報活動していた、少々うっかりな女性であった。




 夜。大吉アパート食堂。

 黒島から戻った大吉は夕食中、エルフィンからツッコミを受けた。


「大吉様、Iは女性ですか? 女性ですよね? 大吉様といえば女性ですから」

「……まあ、そうだな」


 ゲームだから仕方ないじゃん! 仕方ないじゃん!!

 と、エルフィンの輝きにまたも心で叫ぶ大吉だ。


「それで、そのIとは今日、出会えたのですか?」

「皆輝いてたから、わからん」


 あれでは誰が誰だかわからん。

 大吉の正直な感想だ。


「まあ、ゲームでは皆仮面を付けてたから輝いてなくてもわからんけどな。Iはサービス終了直前に親密度が上がって仮面を外してくれたんだけど、顔が見える直前にぶっ壊されたんだよねエクソダス。だから、もし近くにいても気付かんな」

「ぐはっ……!」


 いつものようにテーブルに突っ伏してバンバンとテーブルを叩くあやめ。

 その姿に、そんなにウケる部分があったかなと首を傾げる大吉であった。

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